天秤はどっちに傾く。 | 薬剤師アイの生活日誌 

薬剤師アイの生活日誌 

 調剤薬局という特殊な職場の、実情について書きつづったブログです。

 意外に知られていないくすりに対する様々な知識などもアップしていきます。

 世間知らずといわれないように読んでいる、政治経済の本なども紹介していく予定です。

 こんばんは、アイです。
 11月になりましたね。
 今年も残り2ヵ月となりました。

 「早いね。」という言葉は口に出さないことにしています。
 
 時は、早くも遅くもなっていない。
 
 然るべに、然るべき事が訪れるのです。 

 
 

 
 『アメリカの薬局システムは、日本でも導入可能だろうか。』
  
 先日、大学時代の友達とこんなやり取りをする機会がありました。

 やり取りといっても、アイの中で結論は出ています。

 
当然、導入可能である。
 ただし時間がかかる。
 そしてもし本当に
導入すれば、薬局薬剤師の将来を大きく
左右することになるかもしれない。

 もちろんアメリカと日本では前提条件からして何もかも違います。
 だから導入するとしても、部分的ということになるでしょう。
 導入できるシステムは、大きく分けて二つに分類できると思います。
 一つは「リフィル処方せん」、もう一つは「袋詰め調剤の廃止」です。

 まず、リフィル処方せん。

 これは、一枚の処方せんを何回も利用できるようにするというシステムです。
 要するに今まで1回こっきりしか使用できなかった院外処方せんを、
回数券にするということですね。

 慢性疾患に罹り、長年の間ずーっと同じ薬を処方されている
患者さんというのは、少なくありません。

 患者さんは毎回、薬をもらうために病院に行かなければなりません。
 これを非常に手間と感じている患者さんもいることでしょう。
 そこでリフィル処方せんの出番です。

 服薬を続けることにより状態が安定している、そう医師が認めた場合に限り、
リフィル処方せんは発行され、
患者さんは病院に行かなくても、
調剤薬局に行くだけで直接薬受け取れます。患者さんにとっても、
かなり便利なシステムではないでしょうか。

 実際のところ、総合病院なんかでは70日分とか99日分とか
100日以上の処方はさすがにできないようにコンピュータでロックを
かけられていることが多い。)処方されることもザラです。それでいて、
診察は何時間も待たされわりには簡単な問診とか血圧を測るだけの3分医療。
それならリフィル処方せんでも全然問題ないんじゃないですかね。

 次に、袋詰め調剤の廃止です。
 日本みたいに医薬品の箱を開封して、医師が処方せんで指示した量だけ
取り分けて、飲み方を書いた薬袋に詰めて患者さんに渡すという形式は、
世界的に見れば珍しいほうです。

 アメリカでは袋詰めではなく、ボトル詰めで薬が調剤されます。
 飲み方のラベルが貼られたボトルにざーっと薬を流し込んで、完了。
 まあアメリカのやり方も特殊なほうで、ヨーロッパなんかでは市販用医薬品と
同様、医療用医薬品も箱のまま開封せずにそのままぽんと患者さんに渡す国も
多いようです。

 
 それは、日本の調剤薬局が海外のそれに比べてよりきめ細やかなサービスを
行っているということでもあります。ですが、袋詰め調剤を行うことにより
調剤料」という日本独特の手数料が発生していることも事実です。

 さてこの調剤料、患者さんから頂くのは本当に正しいことなのか?
そう考えると正直アイも返答に困るところです。

 なぜなら、海外では調剤料という概念自体がない国もあるからです。
薬の収益は薬価差益のみに限り、その代わり余計なサービスは
一切行わないという方式です。

 日本の調剤薬局は、現状のシステムでは調剤料をもらわないと
やってられません。
 手間や損失があまりに多いですから。
 ですが、海外の方式のように調剤料を減らす代わりに調剤の手間を
簡略化するという選択肢も、ひとつの答えだと思うのです。 
  
 これにはメリットもあります。ぶっちゃけると、調剤ミスって
例えば84錠患者さんに渡さなければならないところを、10錠シートが1枚抜けてて
74錠しか渡さなかった、とかの数量ミスがほとんどなんです。

 調剤の手間を簡略化することで、具体的には医薬品を箱のまま未開封で
患者さんに渡すことで、これらの数量ミスは大幅に減らすことができます。
さらにいえば、箱のまま未開封で患者さんに薬を渡すことが通例化すれば、
調剤薬局は出なくなった医薬品は業者に返品してしまえるので、
不動在庫いう損失も減るというわけです。

 

 「リフィル処方せん」と「袋詰め調剤の廃止」という二つのシステム。
この二つのいずれか、あるいは両方が実現化される可能性は将来的に
かなり高いとアイは考えています。

 その根拠は、診療報酬を削減できるからです。リフィル処方せんは
医師の診察料を減らし、袋詰め調剤廃止は薬剤師の手数料を減らせる。

 日本の医療費は誰のせいだか、火の車です。
 国民皆保険制度を存続させるために、行政がこの二つの導入に
舵を切るのは、時間の問題でしょう。

 まあ日本では斬新なシステムでも、海外では当然のようにこの二つは
行われているわけで、前例があるわけですから導入自体は難しくありません。
 では仮に実現したとして、調剤薬局はどうなるかということについて、
想像を巡らしてみましょう。

 まずリフィル処方せん。リフィル処方せんは調剤薬局で直接薬を受け取れると
いっても、そう簡単に薬を渡すわけじゃありません。もし 患者さんに体調の
変化が起きていて、健康被害が出たら大変だからです。

 薬局薬剤師は患者さんに問診や検査を行い、大丈夫だと確かめてから
薬を渡します

 つまり、リフィル処方せんを導入するということは、薬局薬剤師は
医療人として、より臨床に近付く
ということです対面での問診だけでなく
血圧の検査や血糖値の検査なども自然と行うようになっていくでしょう。

 そうなれば、調剤薬局はただ医薬品を販売する場所からミニ病院へと
進化します。これはなにも飛躍した話じゃありません。アメリカの調剤薬局が
すでにミニ病院化していることからも、これは明らかです。海の向こうでは、
薬局薬剤師が
問診や検査だけでなく、ワクチン注射なども行う時代にもう
なっているのです。

 

 次に袋詰め調剤の廃止ですが、これは全く逆のベクトルとなります。
 まず調剤の手間が簡略化されれば、当然調剤料は減額されます。
 これは事実上、保険診療一本で食っていくことは無理だと通告されたも同然です。
 調剤で収益を上げていた調剤薬局は、他で収益を上げる方法を探さねば
ならなくなります。

 
例えば町の歯医者が保険診療一本では食っていけないので
保険の利かない自費商品を患者さんに次々と勧めて利ざやを稼いでいるように、
町の薬局も、食っていくために自費商品を売るようになっていくことは間違い
ありません。コンビニやスーパー、ドラッグストアと提携して業界が再編される
可能性もおおいにあります。
 
 そうなると、薬局薬剤師に求められるスキルは、医療人としての知識や
規範
よりも、ビジネスの才覚です。
 いかに患者さんを集め、お金を多く落としてもらえるか。要はお金が全てになります。
 
お金を稼げる薬剤師が正義で、それができない薬剤師は用無しとなっていく。 
 袋詰め調剤を廃止するということは、薬局薬剤師は商売人として、
より医療から離れていくということつながります。
 
 規制緩和も進むでしょうね。調剤料が減れば、薬剤師の人件費も
いままで通り払えなくなる。調剤薬局を存続させるためには、薬剤師の給料を
引き下げるか、リストラしかない。

 現在、処方せん40枚に対し薬剤師1名(歯科、耳鼻科の処方せんは2/3計上)と
いうルールがありますが、このルールも撤廃されるでしょう。調剤の手間が
減るんだから、当然です。

 薬剤師が間引きされて、その分の頭数を埋めるために、登録販売士のような資格、
つまり医療用医薬品の調剤だけをすることができるような、アメリカでいうところの
テクニシャン制度のようなものも制度化されるでしょう。 

 調剤のオートメーション化も進むかもしれませんね。日本の調剤は複雑すぎて、
開発されている調剤自動マシーンでは対応しきれない部分が多いです。
しかし箱のままで患者さんに渡すようになれば、ジュースの
自動販売機
程度にまでレベルを落とせるでしょうから。

 薬剤師としての手技の重要性は薄まり、薬局という窓口の営業担当として、
いかに口八丁手八丁でお金を稼ぐか、ということが重要になってくるでしょう。 

それはもはや、薬剤師とわざわざ呼ぶ必要はありません。そういうのは
一般的にビジネスマンと呼ぶのです。
 

 
 
 
 
 
 もちろんアメリカを始めとする海外では、「リフィル処方せん」と
「袋詰め調剤の廃止」
同時に成立している国もあります。

 だけどそれは、薬局薬剤師の職能と立場が、はっきりと確立しているためです。
 日本のように、歪な構造体質のままここまで来てしまったような国では、
この二つを導入するには、導入したらどうなるか、どちらを先に導入するかと
いうところまで慎重に検討する必要があります。

 リフィル処方せんは薬剤師を医療人へと傾け、袋詰め調剤の廃止は
薬剤師を商売人へと傾けるはずです。

 果たして将来、薬剤師の天秤はどっちに傾くでしょうか。




 「転院することになったよ。」

 窓口で患者さんから、そう言われたアイ。
 
 アイの薬局の近所にお住まいで、隣駅にある開業医のところに
通院しています。近くに薬局はあるのに、処方
せんをいつも
アイの薬局まで持ってきてくれる患者さんでした。

 なんでも、大腿骨骨頭壊死が生じているとのことで、開業医から
別の病院に紹介されたとのことでした。

 「・・・・・・そうですか。先生からは骨頭壊死が起きた原因について、
何か言われましたか。」
 「いや、なんも。こうなると自分のところでは処置できないから、
そっちに行きなさいって。」

 胸の中でもやもやした思いにかられます。
 ですが、結局余計な事は言わず、回復を心より願っています、とだけ
申し添えました。

  
 
 実は、その患者さんは病院でステロイド注射を長期間に渡り
受けていたことをアイは聞いていました。

 開業医は内科の先生なんですけどね。どうも内科の先生というのは
万能であるかのように振舞う人が多いように感じます。レントゲンを見もせず
湿布などの外用剤を処方したり、泌尿器の薬を出したり、患者さんに
要求されるがままに睡眠薬を安易に処方したりします。

 今回の件も、ステロイド注射
原因で骨頭壊死が起きたのではないか、
という可能性も考えられますけどね。

 そんなことをアイの口から軽々しく言うことはできません。それは越権行為です。
 
 調剤薬局で、表立って病院や医師の悪口を言う事はご法度です。
 まあ病院だってそうでしょうけどね。裏ではともかく、他の医者の仕事に対し
表立ってケチをつける度胸のある医師なんて、いますか?
  
 実際のところ、「リフィル処方せん」も「袋詰め調剤の廃止」も、
すぐには実現しないでしょう。

 リフィル処方せんが導入され、患者さんの受診抑制になって
自分たちの取り分が減るとなれば、医師たちが黙っているはずがありません。
何かあったら誰が責任を取るんだと騒ぎ立てるでしょう。そもそも
リフィル処方せんを書かないかもしれません。
 
 また袋詰め調剤を廃止には、診療報酬制度はもちろん
処方せんの書き方から
医薬品の物流に関してまで、広く大規模な変革を
迫らなければなりません。だから、まだ少し先の話です。

 でも、 ずっと今のままでいいのでしょうか。

 現にいくつかの病院では、窓口で前回と同じ内容の処方せんを
医療事務が手渡すだけの3分診療どころか診察医療が公然と行われ、
また日本の調剤料の計算は、薬局薬剤師でもその合理性をきちんと
説明できないほど複雑怪奇です。

 このままの状態を放置しておくことは、診療報酬削減うんぬん以前に
 患者さんに対して不便を強要していると、アイは思うので

 
 日本の薬局薬剤師の年収は、平均500万円程度。
 
 公務員よりも低く、サラリーマンと対して変わらない。
 現状は、年収に見合った仕事だと思います。過度に卑下する必要もないし、
もらいすぎだと文句を言われる筋合いもない。

 アメリカの薬局薬剤師の年収になると、平均1000万円を超えるそうです。

 日本の薬局システムも、いずれ欧米化することは間違いないでしょう。
 ですが、日本の薬剤師の平均年収が、アメリカの薬剤師並みに
なることは永久的にないでしょうし、ないままであることを願っています。

 なぜ、アメリカの薬局薬剤師の年収がなぜそんなに高いというと、
多岐にわたる業務もさることながら、病院や医師が頼れないからです

 アメリカのセーフティネットは極めてもろく、自分の健康は自分で守るしかない。
 病院の設備や医師のスキルは確かに世界一かもしれないけど、
要求される金額も世界一で、一般庶民は病気の治療だけで破産する怖れがある。


 結果的に、頼れるのは身近な薬局の薬剤師が一番ということになり、
年収が高くなっているのです。悲しいことだと思いませんか。

 病院や医師が頼れないという、そんな国よりは、薬局や薬剤師の評価が
必ずしも高くなくても、病院や医師がまだ頼れる存在である日本って、
いい国だと思うんですけどね。

 それとも、その天秤も傾く日が、くるのでしょうか。