宦官 其十 | せのお・あまんの「斜塔からの眺め」

せのお・あまんの「斜塔からの眺め」

せのお・あまんが興味を示したことを何でも書いてます。主に考察と創作で、内容は文学、歴史、民俗が中心。科学も興味あり。全体に一知半解になりやすいですがそこはご勘弁を。

オスマン・トルコのスルタンにも

コンスタンチノープルの皇帝にも

宦官という役職は付いてきた

西ヨーロッパでは早々に

王に付きまとう影は消えていた

しかし少年の美声を尊ぶあまり

声のためならと男を男でなくする

おぞましいことが行われた

かかる悪魔も怯える所業は

神に仕える者たちが関わっていた

去勢されて大きくなった子供は

歌うことだけが生きるよすが

歌えなくなることを恐れていた

美声のこだまにうなされて

命を失った歌手さえいたという

辛いというにはあまりな苦しみを

潜り抜けたら彼らは無敵だった 

今や強い芸術家となった彼の

その美声にしびれたあまたの男女が

熱狂して そして失神したという

名声は一瞬のもの

それは永遠ではない

その虚無の果てに辿り着く時

老いと死は彼らを優しく包む

その苦渋ゆえに天国に

迎えられるようにと

人でなしと呼ぶ乃すらまだ甘い

この所業をなす者はすでにない

今では密かに語り継がれている