ヴォイド・シェイパ
「ヴォイド・シェイパ」 森博嗣
やはり、人と話をする、ということ自体が自分には向いていない。剣を交える以上に、言葉を交わすことは勝負事といえる。違いは、命を取られることがないというだけだ。話しば、話すほど、傷を負うことになる。掠り傷程度ならば良いが、深い傷を受けることもある。傷はしばらくは癒えない。
教えるあいてがいれば、それだけ教える方も成すものも多い。教えることは、すなわち教えられること。
人と人との関係は、その場その場で必ず釣り合っている。貸し借りというものはない。世話になったと感じていても、世話をした方も満足して世話をしている。勝負でも同じこと。負けたと感じていても、勝った方も必ず同様に悔いている。だから、あとになって返そうなどと考えるものではない。
死んだ人間でも、その志を受け継いだ者がそれを成し遂げる。その人間の価値とは、その人間を知っているものが覚えているかぎり、ずっと残るもの。
人間は生きているかぎり、別人になれる。
生きている人間に価値があるのではない。その変化こそ、価値があるのだ。死んだ者は、もう変わらない。土に戻る道しかない。
★★★★☆
ユリゴコロ
「ユリゴコロ」 沼田まほかる
もうひとつわかったのは、男がみんなできそこないだということです。射精のあの一瞬のあの程度の快感を得るために、あれほど激しい、身を滅ぼしかねないほどの欲望を植えつけられているなんて、まったく不釣り合いもいいところです。自分で矛盾を感じ、馬鹿ばかしくなったりはしないのでしょうか。
しかし、まあ男がそんなだから、娼婦という仕事が成り立つわけです。
★★★★☆
ポリティコン
「ポリティコン・上」 桐野夏生
男が出来て子どもを子供を置いて出て行った母親を、人々は軽蔑して、子供に同情し、そのうち忘れる。感情がある程度満足すれば、人は忘れてくれる。でも、ただ失踪した人を人は忘れないんだ。なぜなら理由が知りたいからだよ。
人間て、愛が欲しい動物なんだもん。愛がなければ生きていけない、めんどくさい生き物なんだよ。それでね、わたし最近わかったことがあるのよ。愛こそが、欲望の発信地だってこと。だから、愛が鬱陶しいんじゃなくて、欲望が鬱陶しいのよ。自分のも嫌だし、他人のを感じるのも嫌。だから、わたしは何の欲もなく、生きたいの。つまりさ、私は誰も要らないのよ
人を愛するということは、愛さない人を疎外することでしょ。愛はエゴなんだよ。愛すれば愛するほど、他は要らなくなるの
★★★★☆