会社帰りの途中、一人で粋な小料理屋で飲みたいと思う時がある。仕事に疲れた時、仕事が上手くいった時など…。

 

 例えば「相棒」というTVドラマの中に出てくる「花の里」という店。水谷豊が演じる刑事と相棒の行きつけの店で、和服姿の奇麗な女将が一人で切り盛りしている。

 そんな店がないかな…と、ここ半年の間大きな駅周辺の飲食街を探し歩くもなかなか見つからない。大体が居酒屋風で、テーブル席では酔客が騒いでいる。一見それらしき店もあるがちょっと違う。

 

 ある日、春日部の街で食事をしようとそんな店を探し歩いた。歩き疲れて結局は中華料理店に入った。洒落た店で、カウンター席とテーブル席が四卓ほどの店。二階では宴会も出来るらしい。夕方の早い時間だったから客はいない。

 私はカウンター席に座って料理とお酒を頼んだ。カウンターの中には三〇歳前後の可愛い女性。

「この辺に和服姿の奇麗な女将さんがいる小料理屋さん知らない?」と冗談めかして聞いてみた。女性は一瞬驚いた表情を見せたあと、「そんなお店、TVドラマに良く出てきますよね」。「そう、相棒。そんな番組知らないかな」と言うと、「私、良く見てますよ。素敵な小料理屋が出てきますよね」。

「ああいう店でお酒を飲めたら、男は仕事上の嫌なことを忘れて元気になれるんだけどなぁ…」。

 女性は笑いながら奥から女将さんを連れてきた。「そうねぇ、この先に鮨屋さんがあるけど、ちょっと気難しい男の人だしねぇ」。女将さんは奥から旦那さんを呼んできた。「あんた、いつも行く店でそんな処ないの?」。「俺の行く店はちょっと違うなぁ」。遂には息子さんまで厨房から出てきた。

「でもねぇ…、そんな店があったら俺も行きたいけど、商売としては絶対成り立たないなぁ」。息子さんの言葉に皆が頷いて、大笑いした。

 

 結局のところそんな店は見つからない。時々可性のある飲食街を私は未練たらしくうろついてはいるが…。