552円 新潮文庫


 再読感想です。『模倣犯』や『火車』のように実際犯罪と

してありそうな作品と、基本ちょっとせつな系のほのぼのとした

エンディングを迎える作品とのパターンが多いこの作者さんの

お話で、せつな系でほのぼの分が低いのは珍しいかも。


 あ、ほのぼの分が低いといっても暗いとか悲しい

じゃなくて、ああ ありそうだなと思ってしまいそうな心の闇を

上手く上手に表現してくれてる文章に、明るい気分には

なれなくても、引寄せられる。

 赤ちゃんを亡くしてしまった母親が、貧乏子沢山の夫婦が

これ以上ガキなんていらないよと呟いてるのを聞いて、思わず

誘拐してしまう心理とか、子無しの妻が迷子の面倒を

見ているうちにふと、この子の本当の親が見つからなければ

いいのに…なんて考えてしまう様子など、自分が子供を

持っていなくても、その気持ちに思わず同調してしまう。

…男性でも、なんとなく雰囲気的にその心持わかるのでは

ないだろうかと思わせてくれる、しみじみっぷりは印象的。


他にも、親の仇と狙う相手に仕え、数年様子を見て

何か少しでも人としていい点があったら復讐はやめようと

覚悟をしていた少女の決意など、長編になりそうな短編には

考えさせられた。


 明るくはない、たまに救いがない作品もある、それでも

読みたい『いい作品』です


幻色江戸ごよみ (新潮文庫)/宮部 みゆき
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