人生などというものは、決して良い時期ばかりではない。良い時期があれば、悪い時期もあり、最高の一年もあれば、もちろん最低の一年もある。

 

一応大学は卒業したものの、一年留年したせいでバブル最後の売り手市場にも乗り遅れ、バイトとパチンコでどうにか食い繋ぎながら始まった世之介のこの一年が、決して最高の時期ではなかったのは間違いない。

 

ただ、ダメな時期はダメなりに、それでも人生は続いていくし、もしかすると、ダメな時期だったからこそ、出会える人たちというのもいるのかもしれない。

 

桜子や亮太はもちろん、隼人さんに、親父さん、浜ちゃんだって、コモロンだって、もし世之介が順風満帆な人生を送っていたら、素通りしていったかもしれない。

 

とすれば、人生のダメな時期、万歳である。

人生のスランプ、万々歳なのである。

 

─「三月 旅立ち」(402-403p)

続 横道世之介

2019年2月 中央公論新社発行

 
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