「はだしのゲン」を読んだことがありますか?むかしむかし、小学3年生の時に学校で映画を観たことがあります。
原作の漫画を全部通して読んだのは2013年のこと。
島根県松江市教育委員会が小中学校の図書館で閲覧制限を求めたのがニュースになり、千葉の公共図書館では逆に読まれるという現象が起きました。何人もの利用者さんがリクエストして貸出になり、わたしも便乗して読むことにしたのです。
この閲覧制限はほどなくして撤回されています。
日経新聞 2013年8月26日付
全7巻。背タイトルにはパステル調の2色が使われており、裏表紙にもイラストがあります。
これまで出版されたども版よりも大きく(A5版)、連載当時の扉ページ、マンガ雑誌でおなじみの惹句(あおり文)もそのまま掲載されています。(「いじわるするのはやめろ!!」「がまんだ、元!!」など)
簡単な用語解説がコマの外にあり、すぐに確認することができます。さらに巻末には詳しく説明された用語集も。
原爆投下(ピカドン)で主人公の元(ゲン)は姉、弟、父を亡くしますが、ずっと戦争に反対していた父の教えをたびたび思い出します。
元よ
麦じゃ
きびしい冬に青い芽をだし
ふまれて ふまれて
強くまっすぐにのびて
実をつける
麦になるんじゃ
妊娠中で、のちに女の子(ゲンが友子と命名)を産む母は
元
いずれはお母ちゃんも死んで
兄弟ともわかれて
みんな 自分一人の力でしっかり生きていくんよ
甘えん坊じゃいけんよ
ええね
ええね
(5巻 386p)
ゲンは様々な人と新たに出会い、再会し、さらに別れ…つらい思いをたくさんしていくのですが、いつでも明るくたくましい。
わしゃ 大事な人の命をいっぱいもろうて
今日まで生きてきたんじゃ
そのいのちをむだにせんよう
わしゃ しっかり生きんといけんのじゃ
(7巻 350p)
最後のゲンのセリフは
わし
とことん
生きて
生きて
生き抜いてやらあ
巻末には、作者の妻 中沢ミサヨさんから「読者の皆さまへ」のメッセージがあります。
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読んで楽しい、わくわくするという話ではありません。
ピカドンの惨状は見た人にしかわからない表現です。目をそむけたくなるのも当然。でもこれは作り事ではなく、本当にあったこと。「原爆は死ぬも地獄 生きるも地獄…」ということばも突き刺さります。「ピカの毒がうつる」と被爆者がいじめ蔑まれるようなことが実際にあったのです。
読むのがつらいと感じる理由は他にもあります。
戦争は人の悪意を引き出し、狂気にさらす。けれども同じ立場になったら、どうでしょう。戦争に反対し非国民と言われている人に食糧を分けたら自分も家族も非国民と呼ばれ非難される。そういう状況で自分の信念や公平さを貫けるだろうか。そういった問いを突きつけられる。それがつらいのです。
けれども、原爆がもたらす惨状、人と人との間に起こる残忍さ、実際に起きた歴史。これこそは後世に伝えていくべきことでしょう。想像を絶する状況は、漫画という絵だからこそ伝わることがあります。
こちらの岩波ブックレットを読むと、この作品は作者の中沢啓治さんの経験を元に書かれているのがわかります。
漫画家になって最初の頃は、原爆をテーマに描こうとは思ってもみなかったそうです。
所々に漫画の場面が挿入されていています。
長編の漫画を読むのはちょっと…と躊躇される方は、まずはこちらから読んでみてはいかがでしょう。56ページなのですぐに読めます。