2022/11/8放送
マツコの知らない世界

https://www.tbs.co.jp/matsuko-sekai/ 


'30年間街で言葉を集め続ける辞書編さん者'
飯間浩明(イイマヒロアキ)さん(以下、飯間)



マツコ「‘編集者’じゃないんだ、辞書は。へえ、初めて知った」
飯間「よろしくお願いします」
マツコ「でも確かに辞書っぽいですよ」
飯間「言葉以外の話させても全然続かないんですよ」
マツコ「そうですか」
飯間「言葉の話なら、いくらでも続くんですけどね」
マツコ「ちょっとじゃあ、できるだけ今日は脱線しないように。辞書の編集者のことを編さん者っていうんですか?」
飯間「出版社で辞書の仕事をしている人は、辞書の編集者なんですよね。小説で言うと、まあ作家さんですね。そういった原稿を書く立場の人が、辞書の編さん者なんですよ」
マツコ「へえ、初めて知った」
飯間「朝起きてから夜寝るまで、言葉の観察をする。いろんな言葉を集めるってことをやってるんです」
マツコ「変態ってことですね。かなりの変質者ですよね」
飯間「言葉の変態ですよ」


《掲載数が過去最多!追加・削除・変化した言葉》


飯間「今を映す辞書を作りたいというわけで。項目数が過去最多。新語集めは『ズレの発見』がたまらない」
マツコ「ズレ?」
飯間「昔無かった言葉が出てくるっていうのはひとつのズレです」
マツコ「あと、言葉の意味も変わったりするよね、同じ言葉でも」
飯間「少しずつズレてくるんですね。それをいち早く見つけて、昔と今とちょっとここが違っていますよ。それを指摘するというのがね」
マツコ「怖い顔していますね。ちゃんと撮った?怖い顔撮った?今。下着泥棒みたいな顔」
飯間「ちょっと似ているかもしれない」
マツコ「『ちょっと似ているかもしれない』って言っちゃったわよ」

飯間「何年もかけて集めて、辞書に新しく載せた言葉というのがこちらです。全部で3500の新しい言葉を載せました」
マツコ「『ホニャララ』って昔と同じ使い方?なんでまた流行ってるの?」
飯間「いや、流行っているわけじゃなくて、辞書に新しく載せた言葉」
マツコ「要はだから、ずっと使われているんだけど、辞書に載ってなかったんですか」
飯間「そうそう。『ホニャララ』なんて辞書に載る言葉じゃないよっていうふうな態度だった」
マツコ「そういう感じでしたよ、辞書って」
飯間「1970年代に『ぴったしカン・カン』っていうクイズ番組があって」
マツコ「あれが『ホニャララ』のきっかけなんだ?そうなんだ」
飯間「久米宏さんが『ホニャララ』と言ってらした」
マツコ「すごいわね、言葉を作り出すって」
飯間「他にも例えば『ですです』なんて言葉も載ってるんですがね。これは『そうです!』と強調する言い方ですよね」
マツコ「恥ずかしながらあたし初めて聞いた。『ですです』って言うの?」
番組スタッフ「めちゃくちゃ使いますよ」
マツコ「どういう使い方なの?」
番組スタッフ「『これってあれだよね?』『ですです』、この感じで普通に使っています」
マツコ「ふざけるな!ってなるわよ、あたしそんなの言われたら」
飯間「『黒歴史』っていうのは、これはアニメが元で広まったっていう。『∀ガンダム』っていうガンダムのシリーズの中に」
マツコ「ガンダム発信なの?」
飯間「そうなんです。隠された歴史っていう意味で、『黒歴史』って言う言葉が使われていましてね。どうもそれが一般化したらしいですね。『ラスボス』っていう言葉もですね、これもまあゲームから広まった言葉ですよね。『ラストボス』ですね。これが私一般化したなと思ったきっかけはですね、小林幸子さんが紅白歌合戦で『ラスボス』って紹介されたんですね」
マツコ「えっ。呼び込みで『ラスボス』って言ったの?」
飯間「司会者の人が、紅白歌合戦、全国放送で、『ラスボス、小林幸子さんです』」
マツコ「へえ、ニコ生じゃないんだ?」
飯間「ニコ生のほうが先だったと思いますが」
マツコ「ニコ生でやったのを受けて、紅白でそういうふうに紹介した。なるほど」
飯間「辞書に入る言葉があれば、一方で」
マツコ「そっちのほうが興味ある」
飯間「削る言葉。削りにくいんですよね」
マツコ「ちょっとやだ。『スッチー』が消えた」
飯間「古いっていうのと、もうひとつは言われてあまり良い気持がしないっていうふうになってきましたよね」
マツコ「『MD』も悲しいけどなくなったか。もう超MD世代だからさ、あたしらは」
飯間「あまり使われなくなって、もう20年近く経ちますかね」
マツコ「使われていたのも4年くらいでしたよ、あれ本当に。『トラバーユ』、懐かしい」
飯間「仕事を変えること」
マツコ「懐かしい。女性の転職雑誌の名前だけど、それをだから『トラバーユする』みたいな」
飯間「これも今の人通じないんじゃ」
マツコ「いや、通じないよ。『女の腐ったよう』はもう明らかにひどいわよね」
飯間「これもちょっと時代錯誤というか」
マツコ「うん、ちょっとひどい。まあだから、男の人に言う言葉だもんね。ダメよね。あたしたちはシャレオツな使い方してたから。オカマ同士でね。『女の腐ったの!』『ここに女誰もいないじゃない!』っていうね。シャレオツなことをやっていたのよ、あたしたちは」


飯間「次のフリップですが、時代によって変わる語釈を楽しんでほしいってことなんですよね」
ナレーション「同じ言葉でも、時代の流れとともに意味が変化したり、多くの説明が加わった言葉が続々と増えている」
飯間「例えば、『鉄板』という言葉ですけれども。まあ元々の意味は鉄の板ですよね」
マツコ「だからもうあたしたちは特にこの世界にいるからかもしれないけど、そっちよりもあっちが思い浮かぶよね」
飯間「‘あっち’というのがこれだと思うんですけれども。『失敗するおそれがないようす』」
マツコ「えっ、競馬から出たの?」
飯間「元々はそうだったようですね」
マツコ「要は、競馬の実況の方とか予想の方が、絶対はずさない」
飯間「『この馬券は鉄板ですよ』」
マツコ「『鉄板です』って言ったんだ?」
飯間「それが一般に広がった」
マツコ「なんでその確実なものを『鉄板』にしたんだろうね?」
飯間「鉄の板ほど確実だっていうことだったろうと思いますけども」
マツコ「他にも硬いものいっぱいあるのに」
飯間「板じゃなくてもね、鉄の棒だって」
マツコ「あれかな、必ず競馬場に入ったら、鉄板で焼いているモツとかを毎回買ってた人が、とっさに浮かんだのかね?」
飯間「それを見て?」
マツコ「うん。こういうふうに勝手に妄想しているとおもしろいですね」
飯間「可能性ありますもんね」
マツコ「ありますよね。言葉の始まりというか」
飯間「もうひとついきましょうかね。例えば『ロス』っていう言葉。まあ『損失』っていうのが一般、従来の意味ですけれども。これも今ではちょっと変わっていると。『○○を失った悲しみやさびしさ』っていうんですね。2013年に『あまちゃん』っていう朝ドラがあって、その朝ドラが終わったときに『あまロス』っていうのが話題になった。それだけだったら流行語だったんですけれども、その後『○○ロス』っていうのが多くなって。『北島ロス』とかですね。ドラマで誰かが死んだときは『○○ロス』っていう言い方が一般化した」
マツコ「ちょっとあたしはダイアナ・ロスがまず浮かんだ」
飯間「うん…」
マツコ「ごめんなさいね。気にしないでください、あたしの言ってることは」


《辞書編さん者のお仕事に密着&進化する若者言葉》


ナレーション「辞書編さん者は普段どのようなお仕事をしているのか、飯間さんの生活に密着。多いときは週2回街に出て、言葉を集めるのが飯間さんのルーティン。この日やってきたのは、新語が数多く生まれるポップカルチャーの聖地、秋葉原。街を散策していると早速」
飯間「『鬱ガチャ』っていうんですね。『魔王城でおたおめ』って書いてありますからね。『おたおめ』は『お誕生日おめでとう』でしょ」
番組スタッフ「初めて聞きました」
飯間「『おたおめ』ゲットだね」
ナレーション「普段何気なく目にしている街中の看板。実はここに新たな言葉が次々と生まれているのだ」
飯間「ちなみにあの『秋冬』っていう言葉なんかも、『秋と冬』っていうね。秋と冬って買い取れないでしょ。どうやったら買い取れる?でも『秋物、冬物の服』っていう意味なんですよ。だから『秋冬』っての別の意味だ、すごいぞっていう。この感動をみなさんにお伝えしたいという」
マツコ「すごいね。『秋冬買取』って。すてきな言葉よね、本当に」
ナレーション「この日は3時間で65個の言葉を採集。さらに自宅でも、若者言葉をツイッターで検索」
飯間「例えば、なにか最近の言葉で『やばみ』っていう言葉がね。『やばみ』ってのは『ヤバい』っていう言葉の下に『み』がついているわけですけども。これは非常によく使われますよね。『やばみを感じた』とかね。あとは『眠い』っていうときに『眠みがヤバい』とか」
ナレーション「実は今、若者の間で、形容詞などの語尾に『み』をつける言葉が浸透。『つらい』を『つらみ』と書くことで、自分の感情を強く出すことを避けた表現になるという。さらに」
番組スタッフ「今何を見られている?」
飯間「non-noはけっこう見るんですけどね」
ナレーション「『non-no』や『Popteen』などの女性ファッション誌も、サブスクで定期購読。他にもテレビ番組は全録。主婦向けの情報コーナーも欠かさずチェック」
飯間「『足なり』ってどういうこと?『道なりに曲がってください』とか言うでしょ。道に沿って曲がっていくことを『道なりに曲がる』とか言うでしょ。『足なり直角』はなんなんですかね。2022年10月1日の7時59分からの『サタデープラス』。こうやって字幕を書いておくんですね」
ナレーション「気になる言葉を見つけたら、日付、時間、番組名、出演者のコメント内容やナレーションなどを事細かに記録」
番組スタッフ「楽しいですか?」
飯間「もうこの生活から逃れられないですね。呪われています」
マツコ「呪われていますね。最近多いよね、わからない言葉。あんなに『み』つけるんだ?あたし『やばみ』と『うまみ』ぐらいしか知らなかった。何?『わかりみ』って」
飯間「『わかりみが深い』っていうとね、『よくわかる』っていう意味ですよね」
マツコ「『恋の寿命は3年らしい、わかりみが深い』。ちょっとわからないんだけども。どういうことなんだろう?本当」


ナレーション「今回、飯間さんがどうしても伝えたいことがあるという」
飯間「同じ言葉でも語釈は千差万別。あふれ出る編さん者の個性を見てほしい。辞書ってね『どれも一緒でしょ』っていうふうに言われることもあるんですけれども、辞書ごとに性格っていうか、キャラが違うんですよ」
ナレーション「そこで今回は個性あふれる辞書8選を比較」
飯間「辞書の中には、伝統的な言葉を大事にする辞書ありますね。岩波国語辞典がそうなんです。それから理想重視っていうのは、『今の乱れた言葉はいやだよ、格調の高い言葉を使いましょう』っていう理想重視の」
マツコ「岩波って聞いただけでハードル高いですよ」
飯間「一方では、理想も大事だけれども、今どういうふうに使われているかっていう実例を重視する、しかも現代語のほうを重視しましょうっていうのが、例えば三省堂国語辞典ですね」
マツコ「飯間さんがやられているのはこれですよね」
飯間「三省堂国語辞典ですね」
マツコ「なんか一時、新明解の説明の書き方がおもしろい現象みたいなのあったよね。10年前くらいに」
飯間「そうですね。新明解の第4版っていうのが、すごくおもしろかったんですけれども」
マツコ「だいたいその頃に、たぶん今のモダンな辞書に近づく第一次みたいな感じだったんでしょうね」
飯間「まさにそう言えると思いますね。それまでの辞書、つまらない辞書」
マツコ「あたしは言ってませんからね。つまらないって」
飯間「そうじゃなくて、もっとわかりやすく説明丁寧にしようやっていうのが」
マツコ「それをちゃんとやったらおもしろいってなったんでしょうね、たぶん世間から」
飯間「だからこの伝統重視か現代語重視か、理想重視か実例重視かっていうことで、辞書の性格ってのはすごく違います。例えばですね、『凡人』という言葉。広辞苑、普通の人のような気がしますが、『特にすぐれた所のない、普通の人』『凡人には理解しがたい』」
マツコ「あっさりすましたわね、広辞苑」
飯間「広辞苑ってね、あっさり要点を突くっていうところが長所なんですよね」
マツコ「でも『凡人には理解しがたい』を例文として載せているんだったら、なぜ理解できないことを凡人で例えたんだっていうさ。その凡人の深さがもうちょっとほしいわよね」
飯間「そうですね。これちょっと皮肉が入っているんですよね」
マツコ「『凡人には理解しがたい』って、もう一個あるじゃない。側面が。自分のことを特に凡人だと思ってない人でも、なにかちょっと行き過ぎたことをしている人とか、ジェラシーが入った人に対して『凡人には理解しがたいわよね』って揶揄で使う使い方あるよね。『あんなんなるくらいだったら凡人のほうがマシだよね』っていう意味の『凡人には理解しがたい』もあって。『凡人』って良い風に使われるときもあるよね」
飯間「そう思いますね。例文に納めるのもったいないですね」
マツコ「もったいない、これは。『凡人には理解しがたい辞典』ができますよ、これ。おもしろいね」
飯間「明鏡国語辞典、見てみましょう。『これといった長所や特徴をもたない普通の人。平凡な人』。批判的なのかな」
マツコ「『凡人』に限って言うと、シンプルであることがより刺さりましたね」
飯間「ところがね、新明解だとけっこう凡人をけなしてます。ちょっと見てみましょう。『自らを高める努力を怠ったり、功名心を持ち合わせなかったりして、他に対する影響力が皆無のまま一生を終える人』」
マツコ「ひどいね、これ」
飯間「『他に対する影響力が皆無のまま』っていうけれども、でも凡人としての誇りもあるんじゃないですか」
マツコ「凡人のその部分をもうちょっと」
飯間「そこでね、ちょっとじゃあここに無いんですけども、三省堂国語辞典は『凡人』をどう書いているかですね。『ふつうの人』としか書いてないんですが」
マツコ「いやでもその次よね」
飯間「『偉大なる凡人』。これだけなんですけど、ちょっと良くないですか?」
マツコ「でもさっき言っていたその要素が、『つまらない人』っていう2番目の解釈も含めて、両方からのアプローチがちゃんとできている説明だなとは思う」
飯間「ありがとうございます」


~完~