2021/07/13放送

マツコの知らない世界

https://www.tbs.co.jp/matsuko-sekai/ 


 

'高3から実況を記録し続ける男'

初田啓介(ハツタケイスケ)さん(以下、初田)



マツコ「初田さんくらいの実力があれば、フリーになって。実況アナウンサー不足らしいですよ」

初田「実況アナウンサーで、良いギャラがもらえる仕事はゲームなんですよ」

マツコ「ゲーム、覚えられない?」

初田「覚えられない」

マツコ「もう今ね、実況アナウンサー不足なんだって」

初田「ABCの平岩くんはやめて大正解だったですね」

マツコ「すごいよね。ゲーム実況ってけっこうすごいのよ。口数だけで言ったら一番多いくらいですよね」

初田「おそらくそうです」

マツコ「だからずっと状況をまくしたててしゃべってる感じなのよ」

ナレーション「eスポーツなどのゲーム実況では説明する専門用語が複雑な上に、展開が目まぐるしく変化するため、状況説明のテンポも速くなるという」

マツコ「遅かった?」

初田「遅かった」

 

 

《努力と人間味あふれる美しい名実況3選》

 

 

初田「気づいてほしいこと。実況者の底知れない努力。これはですね、いろんな準備をしていると。コツコツやった準備が表に出るケースもありますし、出ないケースもあります。ノートを一応ですね、プロ野球の記録をこうやって書いてるんですよ、毎日」

マツコ「うわー。あたし絶対ヤダ」

初田「ピッチャーは誰が投げて、安打数は全部でいくつで、野手はどういう選手が出てて、何番で打席に入ってて、何打数何安打で何打点かっていうのを毎日毎日書いて更新していくんです。みんなやってるんです」

マツコ「野球なんてだいたいレギュラーの選手とか決まってるし、覚えられるじゃない。世界陸上ときの、それこそアフリカの選手とか難しい名前だったりするじゃない」

初田「ラマララニリーナっていう選手がいましたからね」

マツコ「あとあたしたち外国の人の顔の区別があまりできないじゃん。特にアフリカの選手って大変じゃない?」

初田「見分け方は、一番やりやすいのはシューズの色と頭の形です」

マツコ「頭の形?」

初田「頭の形はけっこう人はみんな違うんですよ。少し長めの人もいるし、ちょっと前後に出てる人もいるし、丸い人もいるし」

ナレーション「実況者には表に出ない事前準備が必要不可欠。人気のゲーム実況でも」

eスポーツキャスター平岩康佑さん「ゲーム実況の場合、覚えることがすごく多いので、それぞれのキャラクターとかステージとか技の名前とか、山ほどあるので。それをしかもファンの方とかゲーム会社の方に失礼にならないように、正式名称で全部覚えなければならない。せっかくそうやって覚えたものもアップデートですぐに変わってしまう。明日から大谷翔平が右バッターになりますみたいな。ドラスチックな変化が普通にゲームはたくさんあるので。まずそのゲームを100時間プレイするところから始めて、実況の練習をして資料を作って本番に臨むっていう」

ナレーション「常に最新情報を頭に入れるため、どんなゲームも最低100時間以上は必ずやりこむという平岩さん。ここからは初田アナウンサーが努力を感じた実況をご紹介」

初田「まずですね、1980年」

マツコ「ああ!松宮さんね」

初田「『ザ・ベストテン』になんと松田聖子さんが初登場したされた時の中継って、もしかしてご存知だったり」

マツコ「あたしはこれは存じ上げております」

初田「さすが。飛行機が着いて、その飛行機から松田聖子さんが出てくるまでの6分間を入念な準備をして、しゃべってつないだという映像です。ご覧ください」

ナレーション「『ザ・ベストテン』松田聖子さん初登場。魔の6分間を埋めた松宮アナウンサーの実況」

松宮さん「こんばんは、松宮です。松田聖子さんは札幌でのコンサートが終わりまして、ただいま全日空の70便に乗りまして羽田国際空港東京インターナショナルエアポートに着いたところでございます。先ほどB滑走路、全長2500、幅45メートルのB滑走路に到着いたしまして、誘導路を専門用語でタクシーウェイというそうですけど、そのタクシーウェイをちょうど走りまして、35番スポットに向かっているところであります」

ナレーション「タクシーが到着後、すぐに登場する予定だったが、当初の時間を6分超えて登場。そんな魔の6分間をつないだ事前準備の努力がにじむ実況をお聞きください」

松宮さん「今日は札幌の千歳空港を乗った人が467名。その中に松田聖子さんがひとりいるはずなんですが。それから貨物のほうは最大46トン乗せることができるんですが、今日は11トン。その11トンの貨物の内訳はと言いますと、主に夕張メロン、トマト、ホウレンソウ。ジャンボについてご説明いたしますと、ジャンボは全長70.5メートル。一番高い所ですね、全高19.3メートル。重さが259トン。そしてひとつのエンジンの推力、押す力ですね、21トン。エンジンの直径が2.9メートル。1時間に食べるガソリンの量がドラム缶60本ということです。羽田空港についてちょっと紐解きますと、A、B、C、3つの滑走路がありますが、A滑走路というのは今ほとんど使われておりませんので、飛行機が翼を休めるところでございますね。B滑走路とC滑走路がありまして、この今70便が降りてきたのがB滑走路、2500メートル、幅が45メートル。C滑走路のほうが3150メートル、幅が60メートル。そしてB滑走路からタクシーウェイ、つまり誘導路からあの手を振ってる方がいますね。あの方がマーシャラーといいます。地上誘導係員によりまして、大きく左に切られております。特別にコックピットに地上用の曲がるハンドルが付いているそうです。今機長さんが手を振ってくれてますけど、今日の機長さんは大塚さんです。さていよいよドアが開かれまして、果たして松田聖子さんは467人中何番目に出てくるんでしょうか」

マツコ「これはもうずっと聞いてられるね。もしかしたら定刻に着いて、スーッと降りてきたら、あれ全部無駄になるわけじゃん」

初田「そうです。『今出てきました』って、それだけです」

マツコ「あと何がびっくりって、それで途中徹子さんが本気で関心を持ってしまってる。すごいわね、やっぱり。これこそ実況。なにもないところから生み出すっていう。美しい話芸。だってあたし機長大塚さんって覚えちゃった」

 

初田「いいアナウンサーがいるんですよ」

マツコ「ああ、高畑さん」

初田「天皇陛下の即位のパレードで、高畑百合子アナウンサーの実況」

マツコ「これはたぶんみんな頭ヒリヒリにして考えたよね」

ナレーション「実況者にとって最難関とされるのが皇室関連。過度な敬語に気をつけながら、過剰なテンションの上げ下げを慎む。さらに天候や時間帯で実況が変わるため、現場の視察をおこないあらゆる事態にも対応できる言葉を用意しているという。そんな中、高畑アナウンサーが実況した、天皇陛下即位パレードでの言葉選びに注目してお聞きください」

高畑さん「今日一日降り注いだ暖かな日差しが西日となって、天皇皇后両陛下の後ろから、二人を照らしています。捧げ銃という最高位の敬礼をしています。それにも手を振って天皇皇后両陛下がおこたえになっています。一本の光の筋の中を天皇皇后両陛下を乗せた車がゆっくりと進んでいきます。ここまでのパレードで感極まった表情をお見せになった雅子さま。1993年のご成婚パレードの時ははじけるような笑顔でしたが、今は皇后さまとして優しく包み込むような笑顔を見せていらっしゃいます」

初田「いかがですか?」

マツコ「そんなに難しい言葉じゃないけれど、優しい人じゃないと出ない言葉だよね」

初田「同じ言葉を言っても、同じフレーズでも」

マツコ「そう。女性にした意味っていうのをすごい感じた」

初田「ああ、そうかもしれません。人垣がすごいので、高畑アナウンサーは三脚をたてて、その三脚の上に上っていたんです。三脚のトップですから、バランスを崩しちゃいけない。降りてしまったら他の人に取られてしまうから、上でずっと待ってて、40分くらいスタンバイしていた」

マツコ「あれ別に中継用に場所を用意してもらえてるわけじゃないんだね」

初田「彼女はチアリーダーの経験があるんですよね。ですからそこのトップのところでずっと耐えていられた。脚はカチカチになっていたって言ってましたけど。でもずっとチアをやっててよかったというふうに」

マツコ「チアって意外としっかりした体つきになるのよ」

 

初田「知っていると楽しい実況の魅力ということで。思わず飛び出してしまった言葉や叫びに宿る人間味」

マツコ「これは楽しみ」

初田「そもそも実況ですから、やっぱり冷静であったほうがいいですし、それから正確につたえなければいけない、これは義務ですよね。私情も入れちゃいけないんですよね」

マツコ「許される時と許されない時があるんじゃないですか?それをまた見極められるのも腕ですよね」

ナレーション「思わず出てしまった言葉に宿る人間味が好きだという初田アナウンサー。たとえば、1994年サッカーアジア大会で松下賢次アナウンサーから思わず出た実況」

松下さん「なんだよ!なんだよファウルじゃねぇか!なんだこのレフェリーは!おかしい!」

マツコ「『じゃねぇか!』っていうね。あんまりアナウンサーの人から聞かないよね」

ナレーション「そんな人間味あふれる実況の中で初田アナウンサーのお気に入りがこちら」

初田「1985年、西武ライオンズ対阪急ブレーブス。これは文化放送ラジオですが」

マツコ「阪急ブレーブスって。なつかしいね」

ナレーション「ラジオ中継で、ライオンズファンである戸谷真人アナウンサーが喜びを抑えきれずに放った実況。通常のラジオ中継でホームランを打った場合。『投げました。直球打ちました。左中間大きなあたり。柳田見送った。入ったー!』。そして1985年、西武ライオンズ対阪急ブレーブス戦を実況した戸谷アナウンサーの場合。場面は4対3で阪急を追う8回裏、西武ライオンズの攻撃。バッターボックスには前の打席でホームランを放った田尾選手」

戸谷さん「7試合ぶりのヒットがホームラン。第3球打った!同点ホームラン、言っちゃった、言っちゃった、言っちゃった。第7号同点ホームラン。4対4、本物だった」

初田「おもしろかったんですよ、戸谷さんのしゃべりが」

マツコ「臨場感っていうかリアルみたいなやつは先駆けなのかも。アナウンサーの方が私情をはさんでるっていう。文化放送ってそういう人が育つ局なのかな?みのさんもそうだよね、文化放送だよね?」

初田「みんなして文化放送の方々おもしろがってるんですよ、それを聞いて」

マツコ「『やる気MANMAN!』に一回呼んでいただいたときに、本番中かつ丼とか食べながらやってるのよ。全くそんなのラジオ聞いてる人には伝わらないように、なんの滞りもなくあたしと会話しているわけですよ。それ越しに四谷の街並みがパーッと見えた瞬間に、『家?』って思ったもん。誰かの家来てるみたいな。そういう文化放送の環境みたいなのもあったから、独特なラジオ局になったのかもね」

 

 

《次世代を担う!若手実況者渡邊くん》

 

 

初田「未来を担う若い実況者をご紹介させていただきたいを思いまして。初田イチオシの令和を背負う実況者。明治大学3年生、渡邊幹也くん」

マツコ「大学生?どこでみつけてくるのよ」

初田「ブラインドサッカーのネット配信の中継を観てたんです」

マツコ「そこで大学生の彼が実況してたの?」

初田「私はてっきりフリーのアナウンサーがしゃべってると思っていた」

マツコ「プロだと思ってたのね」

初田「試合が終わって、『実況は明治大学の渡邊幹也でした』」

マツコ「へえ、すごい」

ナレーション「明治大学3年生、渡邊くんが実況したのは世界大会決勝、日本対アルゼンチン戦。解説に元サッカー日本代表の二人を招き、生中継」

渡邊さん「さぁ10番の川村から12メートルラインから前に出して。今度はアルゼンチン陣内でボールをおさえた黒田です。黒田が奥側から中へきりこんでいって入っていきますが、ここはシュートまでいかしてくれません」

初田「普通に違和感なく聞いていましたから、プロだと思ってたんです」

ナレーション「初田アナウンサーが渡邊くんを絶賛する最大のポイントが」

渡邊さん「園部選手がきます。17歳の選手です。本大会初出場です」

初田「解説の方が『初出場ですか?』と。ちゃんと自分で準備しているんです」

渡邊さん「ここで思い切った選択をしてきました。ベテランの日本代表がずっとピッチに出続けていたのですが、初めてここで17歳の園部がピッチに立ちました」

初田「代表入りしたばっかりの選手をこういう大事な場面で起用してきたことに対しても、ちゃんと下調べをしているし、試合をそれまできちんと観ているから、あの瞬間に反応してますよね」

マツコ「なぜ彼はあそこで実況しているの?」

初田「ちょっと聞いてみたいと思いますか?」

マツコ「だってどういう流れであそこにたどり着いたのか。あとTBSに入るつもりがあるのかね」

初田「そうですね、それを聞いてみましょう。では今日は渡邊くんが来ております。渡邊幹也くんです、どうぞ」

渡邊さん「渡邊幹也です。お願いします」

マツコ「NHK実況顔よ」

渡邊さん「よく言われます、周りからは」

マツコ「なんであそこで実況あなたがやってるの?」

渡邊さん「何年か前くらいからずっと大学生がやっていて、先輩の紹介で自分も入らせていただいた」

マツコ「みんなアナウンサーになってるの?」

渡邊さん「みなさんなってます、今まで」

マツコ「NHK?」

渡邊さん「いや、TBSで」

マツコ「嘘だろ」

初田「言わないでくださいよ」

マツコ「いいよ、遠慮しなくていいよ。本当はどこに入りたいの?」

渡邊さん「本当は関西テレビです」

マツコ「えっ、なんで?」

渡邊さん「競馬が好きなんです」

マツコ「ああそうなんだ。じゃあやっぱり杉本さんの」

渡邊さん「僕杉本さんに憧れて」

マツコ「渋いなおまえ」

ナレーション「ということで競馬実況をスタジオで披露してもらうことに」

初田「1時間くらい前に情報だけ渡して。今年の一番新しいダービーですね」

マツコ「データもらってるだけで初なのね?」

渡邊さん「はい。中継を見たことはあるんですけど」

マツコ「見ただけなのね」

初田「よろしければ。渡邊アナウンサー、日本ダービー2021年、実況スタートです」

渡邊さん「3歳の頂点をかけて、第88回日本ダービー、今スタートしました。1番のエフフォーリアが良いスタートを切っていきました。横山武史が良いスタートを切ります。息子・横山武史が前から。そして対照的に4番のレッドジェネシス、父・横山典弘が後ろからの競馬になりそうです。さあ、どういった展開になるか、前をご覧ください。第3コーナーから第4コーナーに向かっていく。国枝調教師の思いも詰まっている。日本ダービー初制覇なるか、サトノレイナス。最終コーナーに向いた。サトノレイナスがもう先頭になっている。今日は早い競馬だ。サトノレイナスが先頭。見えたか見えたか、牝馬14年ぶりの制覇見えたか。さあ内からはエフフォーリアがきた。エフフォーリアがきた。横山武史の右ムチが。右ムチ右ムチ右ムチ。さあうなっているぞ。横山武史がきた。外からサトノレイナスも粘るが。さあサトノレイナスくる。サトノレイナスくる。内からはシャフリヤールだ。シャフリヤールもきている。1番のエフフォーリアか、シャフリヤールか。1番エフフォーリアか、シャフリヤールか。どっちだどっちだどっちだ、これはわからない。大接戦です」

初田「いやあ!」

マツコ「横山さんの息子が横山さんと走っているの?」

渡邊さん「そう、いっしょに走ってたんですよ」

マツコ「あら。そういうドラマもちゃんと言ってくれてね」

初田「入れてくるんです。調教師も出てきた」

マツコ「調教師が出てきたわよ」

初田「実際に彼が初見で」

マツコ「まだ若いから、もちろん。これができるのはすごいよ」

初田「大学生ですよ」

渡邊さん「ありがとうございます」

初田「アナウンサー試験一本に絞って、いろんな放送局を受けていく?」

渡邊さん「そうですね」

初田「北は北海道から、南は沖縄まで、いろんなところに?」

渡邊さん「行きます」

マツコ「どの局に行ってもね、なんの感情もない都道府県に愛情があるふりをしなきゃならないのよ」

渡邊さん「そっか」

マツコ「島根の放送局にきたとします、あたしが面接官です。どうして弊社を受けようと思ったの?」

渡邊さん「自転車旅で島根に行ったことがあって、島根の魅力をそこで感じたんです」

マツコ「どういうところが良かったの?島根の」

渡邊さん「人が温かかったですね」

マツコ「人が温かいはなにもないところに言う言葉だからな。はい、不合格。島根は不合格」


〜完〜