筆者:奥山俊宏、村山治
出版社:岩波書店(新書)
平成31年4月19日初版発行
この本は、第1章から第4章までありますが、第4章「大蔵省と日本債券信用銀行の合作に検察の矛先」に胸を打たれました。主な内容は、今は無き大蔵省と日債銀が平成9年頃に迎えた危機を乗り切り、社会に金融不安を生じさせないよう、奮闘したものの平成10年12月に破綻してしまったというものです。
平成9年2月頃、日債銀の株価が急落し、関連ノンバンク3社を法的に整理するかどうか大蔵省も検討したが、他の銀行への波及もありうることからできず、また、公的資金の投入も封印されていたことから資本増強をすることで乗り切ることを図った。(240P~258P)
ただ、増資引受要請先34社を訪ねるも、日債銀が債務超過に陥っていないという文書を発行して欲しいという会社もあり、なかなか資金を集めることが難しい状況の中、当時の頭取であった窪田弘も必死で各社に要請しなんとか資金を集め、危機を乗り切りました。しかし、平成10年12月13日に特別公的管理(国有化)され、その後、平成11年8月13日東京地検特捜部が窪田弘元会長、東郷重興元頭取、岩城忠男元副頭取を粉飾決算があったとして、証券取引法違反容疑で起訴しました。なお、窪田氏は、国税庁長官を経験し、東郷氏は日本銀行国際局長だったときに日債銀行きを打診され、送り込まれた方です。
この本を読むと上記の3名は、日債銀を立て直し、日本の金融業界を安定させるために奮闘したのですが、金融機関が破綻してしまったために責任を追及されているとしか思えないのです。法務事務次官の原田明夫も「ぼろぼろになった銀行に送り込まれて、後始末をやらされた人を罪に問うのは、おかしい。」と言っています。(275P)
その後、3名に平成23年8月30日に無罪判決が出ました。(280P)起訴されてから12年余が経過しており、起訴されるという辱めを受けた方に無罪判決が出たときには、思わず落涙しました。無罪となり、本当に良かったと思っています。
話は変わりますが、私は友人が日債銀に勤務していましたので、平成4年から割引金融債を少しづつ購入していました。当時、ワリシンと言われていたものです。その友人を含め日債銀の職員の方は真摯な方が多かったと記憶しています。金融機関の破綻については、バブル経済の崩壊など当時の社会情勢の影響を多分に受けたためということが大きな理由として挙げられると思っています。その破綻の責任を特定の経営者などに押しつけるのは、間違っていると思います。特に窪田氏、東郷氏とも日債銀の再建を託されて日債銀に赴任したわけですから、自分の私複を肥やし、そのことで銀行を破綻させたといったこともなかったわけです。そのような方を起訴するというのであれば、経営の思わしくない企業へ赴任する人はこの社会からいなくなるように思います。起訴された3名の方は、理不尽な扱いを受けたという思いでいっぱいです。
この本が、上記3名と日本債券信用銀行の職員だった方の名誉の回復に繋がることを祈って筆を置きます。また、素晴らしい本を書いてくれた筆者と出版社に深く感謝いたします。
この本は、バブル経済事件のその裏側で奮闘する人を描き出した良書ですので、みなさん、是非、手に取ってみてください。ありがとうございました。
良い休日をお過ごしください。