2日目:5月14日(火)

 京都に三大コーヒーと呼ばれる老舗がある。そのうちイノダコーヒと前田珈琲を前回訪れた。残りは小川珈琲である。今朝はそこでモーニングセットを味わう。私は朝食は洋食系である。量も少ない。旅館で出される豪華な和食系朝食を食べると体が重くなり、調子が出ない。

 どの店も7時から開業である。これはありがたい。

 団体客は宿泊先で朝食をとってから行動するため、観光場所は10時頃から混み合う。彼らを避けるために我々は早朝から行動しなければいけない。

 最寄りの小川珈琲の店は堺町にある。歩いて15分ほどの距離だ。四条通を東に進む。昨日と打って変わって朝から快晴である。

(早朝の四条烏丸交差点)

 烏丸交差点を過ぎ、野村證券ビルを左に折れ、堺町通りという小道を進む。

 その先に小川珈琲があるはずなのだが、見当たらない。地元の人に尋ねたら教えてくれた。

 外観が珈琲店とは思えない。パン屋のようだ。看板も出ていない。近づくと小さな字で「小川珈琲」と書かれてあった。

 三番手の客である。中庭が見える席に座った。 三大コーヒーの老舗はインテリアも工夫している。

 珈琲注文の品はネットで調べて来た。サラダ付きのトーストセット(1000円)を頼む。私はコーヒー、妻は紅茶で、パンは2種類から選べた。

 コーヒーは確かにうまい。ただ、私の場合三大老舗の中では前田のコーヒーが一番口に合う。サラダとトーストは絶品。これで1000円は安い。セットメニューならここが一番である。

 満足して来た道を戻る。来るときは気づかなかったが、途中に錦市場商店街の入口の看板が見えた。

 ちょっとのぞき込む。7時前なので魚屋くらいしか開いてない。

 今日最初に訪れるのは三十三間堂である。続いて京都国立博物館に寄る。両者は通りを挟んで建っている。

 地下鉄烏丸線で京都駅に行き、バスに乗り、「博物館三十三間堂前」で降りる。

 開館は8時30分から。拝観料は600円。何と一番乗り。団体客が並んでいない。空いている。

 堂内は撮影禁止。公開されている写真を載せる。

 建物の長さが三十三間ある。約120m。そこに千住観音立像が1001躯安置されている。実に壮観。まずもって圧倒される。

 本尊は千手観音座像。ここで手を合わせる。

 本尊及び立像共に鎌倉時代に作られ、すべて国宝だから驚きである。120m歩いて鑑賞すると、最後は疲れてくる。

 外の写真撮影は許可されている。このお堂自体も国宝である。三十三間堂は平安末期、後白河上皇によって建立されたが、鎌倉時代に焼失し、16年後再建された。

 外観を眺めると改めて長大さを感じる。

 瓦屋根が美しい。

 動画も撮る。

 裏に回る。

 

 この裏庭で初春に「通し矢」という弓道の行事が行われる。

 

 三十三間堂の前に通りを挟む形で京都国立博物館がある。

 道路を渡る。

 古い方は旧館である。

 大規模な雪舟展をやっている。

 入館料は1800円である。

 係員の話によれば、公開しているのは雪舟の特別展のみで、常設展は公開されてないとのことである。東京国立博物館に何度も行っている。昨年2月は奈良国立博物館にも入った。どちらも企画展の券を買えば、常設展も拝見出来た。1800円取って常設展が見られないなら高過ぎる。私は雪舟より所蔵作品を見に来たのだ。官尊民卑。国民を愚弄しているお役所仕事の一例である。

 現在はガラス張りの新館から入場する仕組みである。

 雪舟の絵画を網羅しているだけあって質量共にすごかった。国宝の作品も多い。

(館内撮影禁止。ネット映像)

 雪舟ファンにはたまらないだろう。ただ、作品の多くが上記のような山水図なので正直辟易する。

 達磨和尚を描いた上記の作品は例外なので印象深い。人物の縁を描いた太線が素晴らしい。また、雪舟の影響を受けた人物、例えば長谷川等伯、狩野探幽、俵屋宗達、尾形光琳、伊藤若冲など著名画家の作品を展示したのは特筆に値する。

 

 予定では、この後、平安神宮と八坂神社を参拝する予定だが、まだ10時半である。他の場所を追加できる。そういえば、この近くに空也上人の像が設置されている六波羅密寺があることを思い出した。教科書にも記載されるほど有名な像である。

 私も妻も一度見たかった。グーグルマップで調べると、歩いて15分ほどの距離である。そこに行くことにした。

 博物館を出てまもなく、通り(大和大路通という)の右側に「豊国神社」と書かれた石標が現れた。

 豊国神社の名前は知っている。豊臣秀吉を祀っている。鳥居の奥に立派な門が見えたので、ちょっと覗いてみることにした。

 この門は唐門と言って国宝である。

 元々秀吉が作った伏見城にあったが、ここに移設された。なお、江戸時代この神社は邪慳に扱われた。豊臣の再興はどんな形にせよ認められなかったのだろう。

 ゆっくり見る暇はないので六波羅密寺へ。

 寺は狭い通りに面してあった。なんとも小さな寺院である。

 本堂にお参りする。

 空也上人像が設置されている建物は本堂の裏手にあった。令和館といって小さな建物である。入場料を払うと、パンフレットをくれた。

 入館者が少ない。お目当ての「空也上人立像」の前には誰もいない。前と横からじっくり拝観できた。有名な像を丹念に拝見出来る機会に恵まれたのは、興福寺の阿修羅像以来2度目である。至福の体験と言ってよい。

 像は念仏の流布に邁進する空也の特徴を見事に表現している。写真撮影は厳禁。

 口から出ているミニチュアのような仏像「南無阿弥陀仏」の六文字を表している。

 平安時代は疫病や天災に何度も襲われた。阿弥陀仏にすがれば極楽往生が叶う浄土思想はまず貴族の間に流行った。それを京都の庶民に広めたのが空也である。「南無阿弥陀仏」という念仏を唱えるだけで救われると、鉦の太鼓をたたきながら説いた。10世紀中頃のことだ。

 その後、比叡山に源信が現れ、『往生要集』を著わして浄土思想の深化を図った。最終的に平安末期の法然や鎌倉時代の親鸞によって「浄土教」「浄土真宗」へと発展し、全国の人民の間に広まった。

 私が読んだ鈴木大拙の『日本的霊性』では、法然と親鸞が絶賛されている。彼らの出現によって全国の人民に救済思想は広まったと記されている。

 「浄土」、「阿弥陀如来」、「南無阿弥陀仏」、「念仏」は平安時代の思想を探るキーワードである。

 館にはもう一つ有名な像があった。「平清盛座像」である。

 人の心を射抜くようなギョロ目である。妙に心に残った。

 

 六波羅密寺を出た後、バスに乗って平安神宮に向かう。20分くらいで着いた。大きな鳥居が目印だ。

 お昼を過ぎ、のどが渇いたので近くにあるスタバに入ることにする。蔦屋書店の中にある。

 この一帯は空間が広い。外のテラス席がたくさんあり、空いている。スタバの中では今までで一番素晴らしいいいテラス席だ。実に気持ちがよい。

 毎度おなじみのフラペチーノを味わう。

 疲れがとれたところで平安神宮の中に入る。應天門まえの広場が広い。門が大きい。高校の修学旅行以来だから、55年振りに来た。

 門を潜ったら、驚いた。かなり広い空間が広がっている。これだけ広ければ修学旅行生や団体客が邪魔にならない。

 この空間、京都御所に似ていると思われた。

 前に進むと、壇が設けられ、その先に大極殿(拝殿)が構えていた。

 この宮には平安京を定めた桓武天皇と江戸時代最後の孝明天皇が祀られている。神宮を設けた明治政府の意気込みが感じられる。

 参拝を済ますと、裏手に広がる神苑という庭を巡ることにした。入場料600円。

 この庭園は素晴らしい。外国人がけっこういた。日本庭園の美に魅了されているようだ。

 南・西・中・東の4つの神苑から成り立っている。かなり広い。桜や紅葉の季節はさぞかし人出が増すだろう。 

 緑が目に染み、鳥のさえずりが耳に心地よい。

 中神苑に臥龍橋という飛び石がある。珊瑚島という小島に続いている。それを渡ることにした。落ちないようゆっくり進む。

 最後の東神苑に泰平閣という橋殿が架かっている。それをバックに写真撮影。

 このアングルで思い出した。私が持っている谷崎全集の口絵の写真に使われているのだ。

 谷崎が松子夫人と歩いている。

 泰平閣に行ってみる。座れる場所がある。これはいい。

 亀が泳いでいる。

 今日最後の訪問地は八坂神社の予定だったが、まだ1時を過ぎたばかりなので、八坂神社の近くの知恩院を訪れることにした。平安神宮行きのバスは八坂神社と知恩院の前を通って来た。それで思いついたのだ。

 

 知恩院まではバスで行く。

 知恩院で有名なのは三門である。国宝である。

 階段の上にあるので余計大きく見える。

 大きさで南禅寺の三門、仁和寺の仁王門と共に京都三大門と呼ばれている。

 門を潜ると、急階段が待っている。登り切って振り返ると、下の方に見える。

 次に有名な建物は本堂(御影堂)である。徳川家光によって再建され、国宝である。

 参拝が終わると、次に向かうことにした。元々予定に入っていない場所なので時間を掛けられない。

 

 八坂神社までは歩いて行くことにした。この一帯は丸山公園であるらしい。桜で有名なことを思い出した。奥に東山の丘陵が連なっているが、高圧線や鉄塔が全く見えない。景観に配慮しているのだろうか。

 10分も掛からないで到着した。裏手から入る形になった。

    本殿でお参りする。けっこう人がいる。

 

 八坂神社は伏見稲荷大社同様、無料である。二十四時間開いている。ライトアップされるので夜訪れるのも面白そうだ。 

 今日は夏のような天気になった。たくさん観光したため、疲れて来た。正直寺社仏閣に飽きて来た。妻も同じ。早々と切り上げることにした。

 

 南楼門から出る。後で調べたら、西楼門の方が大きく、有名らしい。

 南楼門の入口には石鳥居がある。

 ここから西楼門まで歩く。その門が四条通の突き当りにある。だから通りをまっすぐ進めばやがてホテルに着くことになる。しかし疲れたので四条大橋を渡ったところで阪急京阪線に乗ることにした。

 八坂神社は昔、祇園社と呼ばれたように、祇園という地区にある。花街で有名な「祇園」は神社の麓に広がっている。せっかく来たのだから、歩いてみることにした。

 そうしたらびっくり。外国人観光客だらけである。彼らによほど人気があるらしい。

 

 花街なので道路が狭い。その地区の一部は国の重要建築物保存地区に指定されている。格子戸の家並みが続き、想像していた以上に広い。小路がたくさんあるためか。

 写真撮影お断りの看板が立っている所も多い。私生活を覗かれるのは誰も嫌だ。

それ以外の所で撮る。夕方になると、舞妓さんや芸妓が仕事に行くため現れ、ライトアップされ、街は独特の風情が流れる。その時間帯も外国人は多いらしい。醸し出されるので夕方来る所かもしれない。

 早々に切り上げ、四条通に出る。左手に南座が見えた。

 さらに進み、四条大橋を渡る。

 四条河原町から京阪線(地下を走っている)に乗り、次の烏丸駅で降り、ホテルへ。途中、コンビニで夕食を調達。

 我々は年寄りなので毎日ご馳走を食べると、調子が悪くなる。3日のうち一回はコンビニかスーパーで食べ慣れた物を買う。

 妻は酢がないと生きていけない。ところてんを買いたかったのだが、なかったので、以下の物を。

 私は納豆と野菜が中心。

 風呂に入って、食べ、写真の整理をして就寝。今日はずいぶん歩き、観光した。見過ぎるのもよくない。夏のように暑かった。疲れたのでぐっすり眠った。

 

            ―ーー 続 く―ーー

 

 ※次回は葵祭、上賀茂神社、仁和寺の思い出を語ります。