③完 石田順裕vs藤本京太郎 〜真の勝利者〜 | @TUG_man石田順裕応援ブログ

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世界リアルボクシングドキュメント

2014.4.30 Nobuhiro Ishida vs Kyotaro Fujimoto


【ヘビー級8回戦。石田順裕vs藤本京太郎】
石田順裕vs藤本京太郎01
待望のドリームマッチが、今まさに始まろうとしている。

石田順裕vs藤本京太郎という信じられない顔合わせだ。まるで夢を見ているような感覚、高揚する気持ち、ドクドクと血が騒ぐ。

およそ5ヶ月間という短期間でミドル級から一気に4階級も上げるという離れ業をやってのけた石田順裕。海外の超強豪たちと最高峰のリングで凌ぎを削り、後楽園へ帰ってきた。

「最後は日本のリングへ上がりたい」

ゴロフキン戦後、大阪・東京の2戦を引退ツアーとして戦おうとしていたが、まさか、それが新たな石田順裕の始まりになろうとは、本人ですら思いもしなかった事だろう。

しかもヘビー級挑戦という途方もない戦いだ。

〝無謀〟〝危険〟〝前代未聞〟

ゴシップが踊る。

本場を相手にしてきたこの男のモチベーションと実力は、国内ではこれぐらいの差をつけないと埋まらない。

近年、何かしら日本のプロモーションを足がかかりに海外のリングに立つ日本人ボクサーも増えて来た。しかし石田は裸一貫、純粋にそのファイトスタイルを認めさせ世界中のリングに呼ばれ続けた。そんな日本人ボクサーは唯一、石田順裕しかいない。

本場のファンに、海外プロモーターに、そして世界のトップファイターたちに〝ISHIDAはグッドファイターだ〟と言わしめた。

果たして世界のミドル、石田順裕はどれほど強いのか。

リング中央。石田順裕188cm、93.6kgと藤本京太郎183cm、105.6kgのど迫力日本人重量級2人が対峙した。

石田順裕vs藤本京太郎09
後楽園ホールに割れんばかりの大歓声が響き渡る。

〝いしだーーーぶっとばせーーー!〟
〝きょーたろーーがんばれーーー!〟

絶叫する声が幾重にも重なり〝ドワァッ!〟という一塊の轟音が鳴った。いよいよ『KAMIKAZE3』メインイベント、ヘビー級スペシャルマッチのゴングだ。

〝ラウンドワン!〟〝カーーン!!〟

注目の第1ラウンド。ついにヘビー級石田順裕のベールが脱がされる。スパーリングのようにヘッドギアもなければグローブも分厚くない。パワー差をモロに喰らえば生半可なテクニックは潰されてしまう。石田の「圧倒的なスキル」で4階級ものパワー差を粉砕することなど本当に可能なのだろうか。

その疑問は開始ものの数秒で解き明かされることとなる。

石田順裕vs藤本京太郎02
なんと石田からプレッシャーをかけていったのだ。体重差12㎏なんて物ともしない。京太郎が体格差に任せてガンガン出て来るかとも思われたが、前に出ようにも出れない。

京太郎陣営としては、初っ端グローブを合わせた感触で〝行けるようであれば一気に決めてしまえ〟そういう作戦も選択肢の一つとして持っていただろう。

しかしそこに危険を察知した。それは石田順裕32年間のボクシング人生で培った圧倒的なスキル、強大な圧力だ。

第2ラウンドに入っても石田が強力なパワーファイトで一方的に押し込んでいく。京太郎は後手に回る展開が続く。序盤の主導権争いは完全に石田順裕がものにした。石田が京太郎を飲み込むような迫力で迫っていく。

石田順裕クリーンヒット
第3ラウンド。1:18石田順裕のワンツーが炸裂すると京太郎腰を落とし大きくよろめいた。ナチュラルヘビーの京太郎が元ミドルの石田に一撃で効かされた。

石田順裕の拳は石のように硬い。死闘をくぐり抜け者にしか身に付けることのできない、戦う〝意志の拳〟だ。

石田はこれまで数々の強打を味わって来た。中でも最強王者ゴロフキンの拳は恐ろしく硬かった。

「こんな強さが本当にあるんだなと思った」

信じられない強さだった。逸話でしか語られる事のなかった〝伝説の拳〟が実在するんだとは思わなかった。そうか。黄金のミドルはこんなパンチを打つ事ができるのか。

石田は一度は世界の頂点を極めた男だ。ノックアウト負けは一度もなかった。それでも何だか訳の分からないうちに効かされて〝ガツン〟と一撃でぶっ倒された。

「モナコパンチで倒しますよ」

喰らった事があるからこそ放つ事が出来る。これが決まれば相手が誰だろうと、ヘビー級だろうと倒せる。そういうパンチを石田は打つ事ができる。

第4ラウンド。石田順裕は止まらない。劣勢に立たされた京太郎も必至に打ち返して来るが、パワーに打ち勝ったのはテクニックだった。石田のカウンターがことごとく決まる。

石田順裕vs藤本京太郎04
2:33には石田の右ストレート一発で京太郎が吹き飛ぶ場面もあった。パワーでも石田が上か。

前半の4ラウンドが終わって40-36、青石田順裕のフルマークだ。有効打数の集計では石田54発ヒットに対して京太郎はわずか24発。京太郎も手数で何とか対抗しようとはしているが、いかんせんクリーンヒットできない。

京太郎のパンチはそのほとんどが空を切るかガードの上を叩いてしまっている。これではポイントには結びつかない。

石田順裕vs藤本京太郎05
石田順裕の高度なディフェンステクニックが光る。

第5ラウンド。後半戦に入っても石田はプレッシャーを緩めない。自ら距離を詰めていってはパンチが交錯する危険領域で勝負を仕掛けていく。

「一発をもらえばそれで終わってしまう危険性もある」

石田は試合前にそうも語っていた。しかし怖じ気づく事など決してない。1:06京太郎の右ストレートが決まっても、全く怯む様子もない。それがどうしたと。そんなものかと。石田なおも前に出続ける。

石田順裕の堂々とした戦い。ファイトする。そうしたギリギリの戦いが、緊張感が、観ている者を虜にする。

石田順裕vs藤本京太郎03
元は4階級下という体格差を過酷な増量で埋め、京太郎のホームへ出向き、その上さらに相手の土俵であるパワーファイトを展開していく。

「僕が足を使って勝ったって面白くないでしょ」

ポイントアウトを狙って距離を作りながら左ジャブを刺しまくる。京太郎が入って来たら軽くカウンターを合わせ、また足を使って逃げまくる。

そうすれば、おそらく石田は京太郎にほとんど触れさせることすら許さず、容易に勝つ事ができるだろう。

しかしそんなボクシングは面白くない。もっと言えば戦う意味すらない。なぜなら観客が観たいと思う試合ではないからだ。己が奮い立つような戦いではないからだ。

石田順裕は観客にボクシングを魅せるためにリングへ上がっている。相手の土俵で戦い、すべてをかっさらうようにして完膚なきまでに勝つ。熱いファイトで釘付けにする。

だから石田順裕のボクシングは面白い。

それこそが石田が世界で学んだボクシングの最終奥義だ。

第6ラウンド。石田はプレスをかけながら的確なヒットを重ねていく。京太郎のパンチが石田のガードを叩くと会場は湧くがノンダメージだ。

石田順裕vs藤本京太郎07
ラウンド終了間際。京太郎が右ストレート放つとガードが下がった。この一瞬の隙を石田は見逃さない。2:51石田の左フックカウンターが炸裂、京太郎よろめいて後退した。ここでゴング。

石田は各ラウンドごとに明確な山場を作る。これも分厚いキャリアと卓越したボクシングテクニックのなせる業だ。

第7ラウンド。石田ヘビー級初戦も終盤に入った。筋肉が付きパワーは上がったが、いい面ばかりではない。およそ20㎏もの増量が鉛のようにのしかかる。

ミドル級時代、石田は世界戦12ラウンドで総パンチ数を660発ほど放っていた。1ラウンドに換算すると平均55発だ。

それが今回の試合ではここまでラウンド平均パンチ数は45発程度に収まっている。そこで石田は多彩なコンビネーションの代わりに、一発一発のヒット率を上げ、パワーパンチで京太郎にダメージを与えていった。

ヘビー級石田順裕の新スタイルだ。4階級上げたことによる未知数な部分は、実戦の中で構築していかねばならない。

石田順裕vs藤本京太郎08
石田が戦っているのは、もはや目の前の京太郎だけではない。それを取り巻く環境、自分自身。

戦い続けるということ、そのもの。

限界への挑戦だ。

第8ラウンド。ラストラウンドだ。石田は、何でもいいから勝てばいいと、そういう戦いをしに来たわけじゃない。

前に出てファイトして、打ち勝って勝利する。日本には自分より強いボクサーなど存在しない。そのことを証明するために戦う。

石田順裕vs藤本京太郎10
開始30秒足らずで石田は京太郎をロープ際まで追い込むと、右ストレートを叩き込んだ。京太郎たまらずクリンチで逃れる。

石田順裕のヘビー級挑戦に対して〝ボクシングを舐めている〟という否定的な意見もあったそうだ。この試合を見てどう思うのだろうか。その人たちは完全に見誤った。石田順裕を舐めていた。

石田の猛攻。京太郎もラストスパートを掛けてきた。その京太郎の最後の粘りごと、4階級+12kg差ごと跳ね返すような石田の強烈なプレッシャー。

ポイントでは石田が上回っている。異例の飛び級であることを考慮すれば、ラストラウンドは安全に戦うことが最善策だ。一発に泣く危険を犯してまで打ち合う必要はない。試合が一瞬でひっくり返る。ヘビー級はそういう階級でもある。

それでも石田は受けて立つ。決して引かない。打ち合い上等でKO決着を望む。自信があるからだ。

オレは誰よりも強い。

1:30ラウンドが半分進み、手数は京太郎だが、パンチの圧力で相手を押し込んでいるのは石田順裕の方だ。石田はこのラウンドのみならず、全ラウンドを通じてプレスの手を緩めていない。

〝ワァーーーー!!!〟

大歓声が巻き起こる。

〝バッシン!〟

お互いのパンチが相打ちで決まると、打ち合いを続けようとする石田、方やクリンチで逃れようとする京太郎。そこに実力の差を見て取る事が出来る。

石田がパワーが物を言うヘビー級で、現役日本王者を力でねじ伏せていく。

石田順裕vs藤本京太郎11
2:21石田左フックダブル、1発目はクリーンヒットで京太郎の顎を捉え、2発目は京太郎の脇腹付近を強くぶっ叩いた。そのパンチの威力で京太郎そのまま後ろへ飛ばされてまう。石田すかさず追いかける。

石田順裕の獰猛なファイトスタイル。目の前の敵を倒さなければ満腹になれない、まるで戦いに飢えた一匹の獣だ。食うか食われるか、リングと言う名のサバンナを強く生き抜いてきた男だ。

攻める石田に退く京太郎。

そうして石田順裕が最後の最後まで京太郎を追いかけていった。

〝カン!カン!カン!カン!!!〟

石田順裕vs藤本京太郎12
終了のゴングが鳴った瞬間、石田は両手を上げリング中央まで行くと勝利をアピールした。対する京太郎はそれをチラと羨ましそうに一目すると頭をたれ赤コーナーへと戻っていった。

勝敗は判定に持ち込まれたが、どちらが勝ったかは明白だ。勝者と敗者。スポットライトに対照的な姿が映し出されていた。

石田順裕vs藤本京太郎13
ここまでの有効打数はトータル石田93発に対して京太郎はわずかに55発。後半に入って石田のペースはやや落ちはしたが、それでも的確にヒットを重ね京太郎にダメージを与えていった。

石田順裕の完勝だろう。さあ判定が読み上げられる。

〝それでは採点結果をお知らせします。ジャッジ安部77-76、ジャッジ杉山77-75、ジャッジ土屋77-75。以上3-0のユナニマスデシジョンを持ちまして勝者……〟

意外に点差は積まっているな、といった印象だ。1人は1ポイント差しかつけていないし、残る2人ジャッジも2ポイント差だ。

京太郎ホームのリングは、京太郎のガードの上からのパンチや、後頭部に当たったようなパンチでも大きな歓声が上がる。ジャッジがそれに引っ張られてしまったのか。

3-0で石田が勝利をものにした形だが僅差か。危なかった。

しかし…

〝赤コーナー、藤本京太郎!〟

〝えええええええーーーっっっ???!!!〟

観客からブーイングが沸き起こり、会場内が騒然とした。

石田順裕vs藤本京太郎15
石田は信じられないと言ったポーズを取り、首をかしげた。一方、勝ち名乗りを受けた京太郎も首をふり、なぜ自分が勝ったのか分らないといった素振りを見せた。

判定に不満はあるものの、拳で語り合った両者は健闘を称え合った。今夜の石田、京太郎の戦いっぷりは実に見事なものだった。

石田はヘビー級顔負けのパワー見せつけたし、京太郎も相打ち気味にカウンターを合わせるなどテクニックを披露した。

お互いがお互いの持ち味を発揮しながら、相手をよく研究し、対策を練って来たのがよく伝わる内容だった。

そんな素晴らしい好ファイトに水を差すような不可解な判定だ。

“いしだーー勝っていたぞ!勝っていたのはお前の方だぞ!”

石田順裕vs藤本京太郎16
石田は〝石田順裕勝利〟を支持する会場の声に見送られながらリングを後にした。

正しくは78-74、青石田順裕の勝利だろう。これについては上の検証フル動画を見てもらえばハッキリとわかる。細かな判断で多少の差異は出たとしても、石田順裕の勝利という結果だけは決して揺るがないはずだ。

ボクシングは、何となく手を出していた方に、何となくポイントを振っていけばいいや、みたいな適当な判断でポイントを与えていく競技ではない。

石田順裕vs藤本京太郎14
今回のジャッジは〝よく分らないから迷ったラウンドをホームに振っていったら、なぜだか京太郎が勝っちゃった〟とでも言っているかのようだ。

それともパンチが速すぎて、どれがクリーンヒットでどれが防御されたかさえ見えなかったのだろうか。

藤本京太郎
〝試合が終わった瞬間負けたと思った。次やっても勝てないと思います。もう二度と戦いたくない相手です〟

勝者がリング上で〝すみませんでした〟と相手陣営に土下座をしてわびを入れなければならないような誤った判定なら、敗者のみならず勝者までもがその被害者だ。

不可解だろうが何だろうが勝ちは勝ち、負けは負けだ。レコードにはしっかりとその記録が残される。

試合後、石田順裕の控え室では記者から“勝っていたのに負けにされて悔しくないんですか?!”といった質問まで飛んだ。

石田順裕vs藤本京太郎18
「もちろん勝ったと思いました。それでも判定は判定ですから、結果は受け入れるしかないですよね。そりゃ悔しいですよ。納得はいってないです」

一体、勝利とは何なのだろうか。石田順裕のファイトスタイルが問いかける。

逆に考えて、もしも仮に石田のホーム大阪で試合が行われたとして、今回の真逆の展開で石田が不可解な勝利を納めたとしよう。石田順裕はどうするだろうか。

「負けたら引退する」戦前そう明言していた石田順裕だが、〝勝ちは勝ちですから〟そんな言葉は絶対に吐かないだろう。勝ったとしても石田はそれこそ己の限界を感じ、引退を決意したに違いない。そしてそれを誰も止めはしない。

しかしこの判定によって石田順裕は引退をするべきではない。

現役を続行してほしい。

なぜなら真の勝利者は石田順裕だからだ。なぜならまだ石田の戦いを見たいファンが大勢いるからだ。

この試合で、どちらが勝ったのかという事くらい、戦った本人なら分かっている。

しかし、石田順裕は試合後、それでも引退か否か悩んでいた。

石田の苦悩はこんな不可解な判定で勝ったの負けたの、そんなレベルで語られる話ではない。己が強いか、弱いか。試合が面白いか、面白くないか、それが全てだ。

そして京太郎をノックアウトできなかったことをとても悔しがっていたと言う。体重増加のせいもあろうが思うより身体が動かなかった。感覚として、仕留められた相手だった。

石田順裕の強さはこんなもんじゃない。オレはもっと強い。もっと試合を面白くできたはずだ、と。

なぜKOを逃してしまったのか。それが悔しい。

石田はそういう高い次元のプロ意識でリングに立って、命を張って戦っているのだ。

石田順裕は試合が終わると、真っ先に医務室でドクターチェックを受けた。〝安全のため試合後に検診を受ける事〟はJBCよりヘビー級マッチ挑戦の条件として設けられた項目の一つだ。

〝大丈夫です。何の異常もありませんね〟

石田は全くのノンダメージであることが確認された。効かされたパンチなど一発もなかった。

と医務室へ応援に駆けつけた長男のしおんくんが1人で入って来た。狭い室内、スタッフの合間を縫って父の元へ駆け寄った。

石田順裕vs藤本京太郎17
〝パパ、格好良かったよ。すごく格好良かった〟

居ても立ってもいられなかったのだろう。パパは勝ったよ。すごく強かったよ。それを伝えたかった。

石田順裕はお金を払って観に来てくれたファンに興奮の戦いを、そして家族には真の勝利をプレゼントした。

現役最年長ボクサー、石田順裕。

最強にして最高のファイトを魅せる男は、次にどんなミラクルな戦いを見せてくれるのだろうか。


石田順裕vs藤本京太郎20

拝啓

皆様ご健勝のこととご拝察申し上げます。先日はTeam ISHIDAとして、石田順裕のヘビー級挑戦を応援頂き、誠にありがとうございました。

試合結果としては納得できるものではありませんでしたが、挑戦できるまでに身体を作り上げたことや誰も挑戦しなかったことに取り組んだことは、今後、どういう方向に進むとしても誇りにできることだと認識しております。

応援を続けて下さる貴殿にもぜひ賛同いただき、今後とも石田順裕の応援の程、よろしくお願いいたします。

敬具

Team ISHIDA
2014.5.11

Keep Fighting!
ISHIDA