ゲンナジー・ゴロフキン〜神の戦士と呼ばれる男〜 | @TUG_man石田順裕応援ブログ

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世界リアルボクシングドキュメント

@TUG_man石田順裕応援ブログ-WBA世界ミドル級王者ゴロフキン


石田順裕が戦いを挑む王者ゴロフキンとは一体どれほどのボクサーなのだろうか。最強王者。無敗王者。五輪銀メダリスト。アマ世界王者。どれもゴロフキンの強さを表すにまだ足りない。

ゴロフキンの歩み。

リングでは互いの拳と拳が激しく交錯する。そして同時に魂と魂が共鳴し合う場所でもある。ゲンナジー・ゴロフキンその強さの深層に迫る。そうすれば石田順裕の立つ海外リングの凄まじさがより深く分かる事だろう。


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カルフォルニア、ビッグベアーレイクに猛獣の叫び声にも似た打撃音がこだまする。その怪音の正体こそゲンナジーゴロフキンだ。

通称〝GGG〟これはGennady Gennadyevich Golovkinの頭文字から来ている。しかしその神がかり的な強さからいつしかこう呼ばれるようになった。

Gennady “God of war” Golovkin。神の拳を持つ男。GGG。

トレーナーアベル・サンチェス
「ゴロフキンは生まれ持ったパワーを神から授けられていた。しかし神から与えられていたものよりもっと素晴しいものがある。それは身につけたテクニックだ。ノックアウトを生み出しているものはそれだよ」

“まだ世界的ビッグネームと対戦してないじゃないか”

そんな声も上がる。しかしアマ時代にはディレル(スーパー6出場)を始め、ギール(現IBFミドル級王者)、ビュテ(元IBFSミドル級王者)、アンディーリー、マットコロボフ、そしてLヘビー級で活躍しているキューバ亡命組ヨルダニス・デスペインと次々に撃破している。

アマ通算345勝5敗。こうした後の世界王者クラスと国際舞台で対戦しながらこのレコードは尋常ではない。


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「今まで色んなファイターと戦って来たが中でもスパーリングをしたカネロは強かったな。とても優れたスキルがあり高速で強力なコンビネーションを打って来る。最高のファイターだったよ」

一説ではこのカネロ、さらにチャベスjrとのスパーでも一方的に打ち込み圧倒したとも伝えられている。

「セルヒオ・マルチネスと戦いたい。なぜなら彼が現在世界最高のミドル級であると考えられているからだ。私はいつでも、どこでも彼と戦うよ。アルゼンチンに行ったっていい。なんなら彼のリビングルームでもいいよ」

現在プロ25全勝22KO。KO率なんと88%。これは現役世界王者中No.1だ。さらにプロアマ通算375戦でただの一度もノックアウトされた事がない。

「KOの秘訣は日々のハードワーク。これが一番だよ。タイミングとポジショニング。距離を合わせたら後はヘビーパンチを打つだけさ」

そんなゴロフキンも一度グローブを外すと愛くるしい笑顔を浮かべる。この男、本当に戦いの神と崇められるボクサーなのだろうか。思わずそう疑ってしまいたくなるほど穏やかに笑う。

「人はいっぱい楽しむために生きてるのさ。人生はいいもんだよ」


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練習後、たまのご褒美はお気に入りのアイスクリーム屋で冷たいアイスを食べること。オフの日には映画を観たり近くのビーチに出かけたりバスケやバレーなどして楽しみ、ごくささやかな幸せなひと時を過ごす。

ゲンナジーにとってここアメリカは夢の国だ。

リング。ベルト。金とライバル。欲しいモノ全てが揃っている。憧れのスターはシュガーレイロビンソンだ。最高のミドル、伝説の男。オレもいつかそうなって見せる。そう誓いこの地へ辿り着いた。

本当はドイツのシュトゥットガルトに妻と3歳の息子と共に住もうか、なんて計画もあった。しかし今はすいぶんと遠く山奥まで来たものだ。家族を何千マイルも離れた地に残し一人孤独に戦う。それでもゴロフキンは笑みを絶やさない。スターの座を獲得するために戦う喜びに満ちているからだ。

「ビッグベアーに来てかれこれもう3年が過ぎた。私はここが好きになりました。何も問題はありません」

カザフスタン語、ロシア語、ドイツ語に英語とゴロフキンは4カ国語をマスターしている。とりわけ勤勉家だったわけでもない。生活のため自然と身に付いた語学だ。ゴロフキンもまた世界中を転戦するジャーニーマンだった。


@TUG_man石田順裕応援ブログ-ゲンナジー・ゴロフキン2
“この世に未来なんてものがあるのかすら分からなかった”

その昔、旧ソ連時代にまで話はさかのぼる。ゲンナジーの父は炭坑夫として働いていた。父もまた山奥に籠り身体一つで家計を支える男だった。石炭を採掘する過酷な重労働。さらには命をも落としかねない危険な仕事だが金はいい。母はと言うと化学の研究室で助手として働いていた。兄セルゲイとヴァディム。そしてマックスという双子の兄弟と家族6人。

ゲンナジーが生まれた土地では男子たるもの格闘技をやるのが習わしだった。子供の半分はレスリングを。そしてもう半分はボクシングを学ぶ。もっぱら兄弟での遊びと言えばグローブをはめてのボクシングごっこ。ゴロフキン一家は笑顔の絶えない明るい毎日を送っていた。

しかしそんな幸せな日々もそう長くは続かなかった。


@TUG_man石田順裕応援ブログ-石炭
ゲンナジー9歳の頃。ソ連が崩壊した。カザフスタンとして独立し国の経済が窮地に陥ると生活は一変した。あれほど給料の良かった炭坑夫もただ過酷なだけの奴隷労働者となってしまった。

いつしか家庭から笑顔が消えた。


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金を稼ぐ手段がない。明日の食べ物もない。夢もない。希望もない。何もない。ゴロフキン一家はおよそ人として生活しうる当り前のもの全てを失ってしまった。時代のせい、と言えばそれまでだ。見渡せば貧しい人、人、人。パン一つ買うにも長蛇の列を作り腹を空かせる。モノがない。


@TUG_man石田順裕応援ブログ-ロシア兵
兄セルゲイとヴァディムはロシアの軍隊に入った。家計を支えるのが兄たちの使命だった。そして90年にヴァディム戦死、94年セルゲイも戦死した。政府からはなんの説明もなかった。どこで死んだかもなぜ死んだかも分からない。兄たちはただ戦場の藻くずとなった。

今度は家庭から家族が2人も消えた。

遺体のない葬儀場でゲンナジーは両親が泣き崩れる姿をただ腹を空かしながら見ていたと言う。

悔しくて拳を握りしめた。食わずして何もなくして夢と希望を得るにはどうすればいいのか。ゲンナジーは救いを求めた。いいや誰も助けちゃくれないんだ。神は兄貴たちを見捨てた。自分の力で這い上がってやる。8歳から兄貴たちに教わった戦場のボクシングだ。

“この拳で金を稼いでやる”

ゲンナジー10歳。地ベタを這いずり回るような生活。そこから抜け出す唯一の手段。それからマックスと二人三脚のボクシングロードが始まった。同じ体格同じ体重、自分の分身を練習相手に日々過酷なトレーニングを積んだ。こう打てばこうかわす。こうかわせばこう打つ。そうして鏡のように映るもう一人の自分相手に腕を磨きあった。

「マックスのボクシングテクニックは私より優れていた。どうやっても敵わない。そこで私はより積極的に打って出るパンチャーを目指したんだ」

ゴロフキンツインズはリングデビューを果たすと連勝街道を突っ走った。トーナメントではいつも決勝で再会する。その度にお互いメダルを譲り合い均等に分け合った。

@TUG_man石田順裕応援ブログ-ゴロフキン双子
2004年、ツインズは運命をも分かち合った。オリンピックトライアル。どちらかがオリンピックに出場しどちらかは出れない。選択を迫られる事になった。ゴロフキン兄弟は食うためにボクシングを始めた。ファイトマネーはまだ手にしていない。一家はまだ貧しかった。

そしてゲンナジーがオリンピックへ出場しプロへ転向、世界のどこかへ旅立つ。マックスはカザフスタンに残りゲンナジーがボクシングで成功を治めるまでの間親の世話をすることに決まった。

パワーを兼ね備えたゲンナジーがよりプロ向きだと判断したのだ。マックスはここでグローブを置いた。

「私はこれまで学んで来た全て、人生をかけて戦う。リングはとても厳しい。やりたいように出来ない事もある。私はまだボクサーとして完成していない。いや完成することなどないだろう。しかし私は完璧なボクシングを達成するために努力し続ける」

神の戦士と呼ばれる男。しかしゴロフキンの拳は決して神が与えたものではなかった。ゴロフキンが、ゲンナジーが、マックスが、たゆまぬ努力で鍛え上げた人の拳だ。血なまぐさい、汗と泥にまみれた裸の拳だ。神の戦士なんかじゃない、

真のウォリアーだ。


@TUG_man石田順裕応援ブログ-ビッグアップル
最強を求めるゴロフキンはマルチネスvsマシューマックのプレス発表会場へ出向いた。挑戦状を叩き付けるためだ。

ニューヨークはビッグアップルでの最初の夜。食事をしようと街に出た。家族連れ、カップル、白人に黒人、国籍もさまざまな人で溢れ帰っている。格好良くスーツを着こなす者もいればズタボロの布を巻き付けそこらで寝ている者もいる。

アメリカンドリーム。“オレは成り上がるためにここに来た”

ふと訪ねたレストラン。今日はここで飯にしよう。店の中に入ろうとした時ドアマンが突然話しかけて来た。


@TUG_man石田順裕応援ブログ-ドアマン
「ああ、あなたじゃないですか。私を覚えていますか」

誰だろう思い出せない。この店は2度目だったか。いや始めてだ。ボクシングファンだろうか。どこかでサインでもしたのかも知れない。

「いいえ。どこかでお会いしましたっけ」

話を合わせるでもなくゴロフキンは正直にそう答えた。するとドアマンは拳を作り自らのアゴをチョンとはねると笑いながらこう言った。

「ははは、私のアゴはあなたを良く覚えていますよ」

ゲンナジーとドアマン。2人の男は親密そうに抱き合った。

ドアマンの名はラマダン・ヤセル。2004年五輪へエジプト代表としてゴロフキンと同じミドル級で出場し2回戦で戦った男だった。2010年ゴロフキンがWBAミドル級王座を獲得したのに触発されるようにプロ入りしニューヨークへ移り住んだ。

現在はドアマンで生計を立てながらクルーザー級6回戦を戦っている。


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「私たちファイターは明日の人生がどうなるかなんて分からない。でも今のところうまく行っているよ。それほど悪い人生じゃない」

ゴロフキンはボクシングが大好きだ。ボクシング、それは生きること。ゴロフキンは20年前を思い出して微笑んだ。

“あの頃よりはずっとマシさ。私は今とても幸せだよ”

だから笑顔を絶やさない。だからリングで獣になる。

現在、ゴロフキンはビッグベアーに籠り7度目となる世界タイトル防衛戦の準備を始めている。HBOメインとなるリングで石田順裕を迎え打つ。

「日本の石田か。彼は非常に困難なファイターだ。カークランドをKOしている。勝つのは容易なことではないだろう。30日。モンテカルロで対戦するのを楽しみに待っていると伝えてくれ」

早朝、山中を走ると軽めの食をとってしばらく身体を休める。そうして午後2時からはジムワークだ。バンテージを巻きグローブをはめた。目つきが一瞬にして鋭く変わる。スパー、ミット、サンドバッグに拳をめり込ませる。一発。また一発と渾身の力を込めて打ち込む。

“いいかISHIDAよ。全力でかかって来い。オレが世界チャンピオンだ”


今日もビッグベアーレイクに猛獣の叫び声がこだまする。




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