さらばラバウル(1954) | つぶやキネマ

つぶやキネマ

大好きな「映画」について「Twitter」風に
140文字以内(ぐらい)という制約を自ら課して、
"つぶやいて"みようと思います...ほとんど
「ぼやキネマ」になりそうですが。

★注意!!! 作品の内容に触れています★

 

さらばラバウル(1954)

 

 昭和19年、ラバウルの海軍基地のナイト・クラブで酒を飲みダンス・ショーを楽しんでいた航空兵たちの前に隊長の若林大尉(池部良)が現れ野口中尉(平田昭彦)の持っていたグラスを叩き落とす。若林大尉は部下の航空兵たちに出撃前夜の遊興・飲酒は禁止していたのだが、同じ部隊の片瀬大尉(三國連太郎)は明日の生死もわからない航空兵はもっと遊ばせてやれと叱責する。撃墜王と呼ばれている若林大尉は寡黙で厳格な隊長で、野口中尉に想いを寄せるダンサーのキム(根岸明美)は若林大尉の事を「オニ」と呼んだ。片瀬大尉はホステスの道代(中北千枝子)を相手に3ヶ月前までは若林大尉と同じ事を言っていたと懐古、酔った勢いで報道班の伊藤亮(村上冬樹)に日本本土からの戦闘機や物資の増援が無いのは何故なのかを内地に帰って調べて知らせろと怒りをぶつける。

 翌朝の出撃で若林大尉の部隊は8時50分コロンバンガラ上空でアメリカ軍P-38ライトニング戦闘機150機と遭遇し16機撃墜10数機に損害を与えたが、若林部隊は16機を失い1機が行方不明、負傷4名、片瀬大尉と矢田二飛曹(鈴木豊明)が重傷、不時着機の救援の見込みは無いと報告するが野口中尉は葉山中尉(岡豊)の不時着地点をブーゲンビル島南西30マイルの環礁と確認したので救援機を出すようにと反論、不時着地点はアメリカ軍の勢力範囲で救援機を出せば損害が拡大するのは確実だった。葉山中尉を戦死と記録した若林大尉から明日の出撃票を手渡された野口中尉は怒りを露わにして抗議するが「補充の士官はもうすぐ来る」とあしらわれてしまう。

 病棟の片瀬大尉は見舞いに訪れた若林大尉にアメリカ軍の物量には歯が立たない、零戦が世界一の戦闘機だったのはミッドウェイ海戦まで、アメリカ軍の戦闘機の性能も向上しているし優秀なパイロットも豊富と嘆くが、若林大尉は「敗戦思想に毒されたのか、それを考えるのは大本営だ」と反論、看護師の小松すみ子(岡田茉莉子)から負傷している片瀬大尉には安静が必要と制止される。部隊全体の士気が下がっている事を痛感した若林大尉は、退院報告に来た島田二飛曹(久保明)を激励するのだった。

 出撃した若林大尉の部隊は機体に黄色い蛇のマークが描かれた「イエロースネーク」と呼ばれるアメリカ軍の撃墜王トーマス・ハイン(ボブ・ブース)のP-38ライトニングの攻撃を受け、撃墜された菅井隊長(西條悦郎)に代わって若林大尉が指揮を執るが復帰したばかりの島田二飛曹は燃料タンクを撃ち抜かれ墜落してしまう。帰還した若林大尉は報道班の伊藤亮から片瀬大尉も悲観的になっている、ラバウルはどうなるのかと聞かれ、「いつから大本営の作戦課勤務になったんだ?」と激怒、補充として着任した吉田少尉(小山田宗徳)らパイロット5名を自室に呼んで敵機の撃墜だけ考えれば良いと命令する。

 小松すみ子看護師がナイト・クラブを訪れ片瀬大尉が会いたがっていると道代を呼びに来るが、若林大尉は内地に帰ったと伝えろと追い返す。無視して見舞いに来た道代からその話を聞いた片瀬大尉は、若林大尉は自分より純真な男、好きな女がいても告白しないまま死ぬ、可哀想な奴だとつぶやく。

 ラバウルでの戦闘は激化し、若林大尉は再び対決したイエロースネークのP-38ライトニングを撃墜、パラシュートで脱出したイエロースネークは重症を負い捕虜になる。病棟で若林大尉たちの尋問に答えたイエロースネークは、「最初は零戦の登場とパイロットたちに恐怖を感じたが零戦の欠陥がわかり恐怖は無くなった」「零戦は1000馬力のエンジンを搭載した最軽量の旅客機にすぎない、何故なら優秀な攻撃兵器だが防御力はない」「特別に優秀なパイロットでない限り撃墜は簡単」と語る。その言葉に怒りを露わにした若林大尉はイエロースネークの飛行歴を問うが、「電気冷蔵庫のセールスマンだったが開戦と同時に空軍に志願した」と答え目の前にいるのが歴戦の鬼隊長だと知ると微笑んで敬礼し握手を求めるが若林大尉は無言で席を立つ。イエロースネークの通訳をしていた伊藤亮がナイト・クラブで酒を飲む若林大尉にその後の話を伝える。「日本の飛行士がパラシュート無しなのは理解出来ない、日本の戦術・戦法・兵器、軍人の思想までがことごとく人命軽視の上で立っている、零戦も熟練パイロットが搭乗すれば恐ろしい兵器だが未熟練のパイロットには危険なだけだ、優秀なパイロットの数には限りがあるから我々は数で対抗する、未熟練なパイロットが相手なら一対一で十分、我々の勝利は目の前だ、人間の生命の重要さを考えないような国家は戦争に勝てるはずがない」。そんなイエロースネークの言葉を聞いた若林大尉は大きな衝撃を受けるのだった…というお話。

 

 「ゴジラ(1954)」の監督として世界中に熱烈ファンが居る本多猪四郎の劇場映画第6作、前作の「太平洋の鷲(1953)」同様に太平洋戦争を扱った作品であります。前作は史実に基づいたエピソードを連ねた散文的作品だったが、本作は脚本家の木村武(馬淵薫)、西島大、橋本忍による完全なオリジナル・ストーリー。初めて観たのはテレビの邦画劇場だったと記憶しているが内容はすっかり忘れていた。その後に見た公開当時のポスター画像の印象から戦場を舞台にしたメロ・ドラマだとズーッと思い込んでいたのであります…数十年ぶりに再会して実際は娯楽性の高いハードな戦記ドラマと強烈なメッセージが混在した一筋縄ではいかない反戦映画だった事に吃驚(注;1)。

 

 作品冒頭には前作同様にアメリカ軍GHQ空軍指令部から記録フィルムを借りたと告知があり、飛行機雲の映像をバックにタイトルが現れ「最後の戦斗機」とサブ・タイトルに変わるオープニングはなかなか良い感じ。ラバウルの夜空からナイト・クラブの場面に変わるのだが本多監督の特撮映画でお馴染みの土着的な音楽とダンスで思わずニコニコしてしまった。円谷英二が本格的に参加した空中戦等の特撮場面はまだまだ開発途上な感じだが、池部良のシリアスな演技と的確な演出で構成されたドラマ部分は充実していて物語に引き込まれてしまう。俳優陣もなかなか豪華でいつもより抑え目な演技にもかかわらず存在感が抜群の三國連太郎、後に本多監督の特撮映画の常連になる若々しい平田昭彦、可憐でクールな看護師の岡田茉莉子、現地人のダンサーを演じる根岸明美、出番は少ないが若くて純粋な飛行士を演じた久保明、シリアスな演技陣の中で唯一のコメディー・リリーフ清川二整曹を演じた谷晃、そして戦地で逞しく生きる女性を安定感たっぷりに演じた中北千枝子の素晴らしさ…ナイト・クラブの私室の壁に貼られた戦死した大勢の飛行士たちの写真を見つめながら語る場面は、演出やカメラワークも含めて本作屈指の日本映画らしい名場面だと思います(注;2)。

 

 残念なのは前半は全てのエピソードやシーンがじっくり描かれていたのに、後半は全体的に描写不足で急展開の釣瓶打ち。捕虜となったイエロー・スネークの言葉にショックを受けてからの若林大尉は、洗脳から解放されたかのように人道主義者になり、敵艦隊への特攻を口にする吉田少尉たちを叱責し、以前は不時着した飛行士には救助を出さず問答無用で戦死扱いにして来たのに、野口中尉機の被弾と不時着を聞くと自ら救出に向かうあたりは説得力に欠ける。病床の片瀬大尉が精神を病んでいく過程や、密かに若林大尉に想いを寄せていた小松看護師の心情の変化も、描写が十分とは言えず唐突な感じがしてしまう。特撮で描かれるクライマックスのイエロースネークとの再対決となる空中戦は迫力たっぷりなのだが、ドラマ部分にも力を入れて欲しかったという思いが残る(注;3)。

 

 本作の企画は戦時中に流行った「ラバウル小唄」を元ネタにした「戦場のロマンス」というプログラム・ピクチャー(週替わり上映作品)の一本だったと思われるが、終戦から7年という製作時期の影響や、3度も徴兵され終戦を中国で迎えた本多監督や若き脚本執筆陣の厭戦・反戦に対する強い思いが前面に出てしまったのではないかと妄想している…メッセージ的な部分をすべてイエロー・スネークに代弁させているのは、製作した東宝に対する「言い訳」なのかなと思ってしまった。ちなみに「ラバウル小唄」を兵士たちが歌う場面があります。

 近年、世界中が右傾化していて好戦的な指導者が台頭し世界各国で戦争や紛争が続いているし、第三次世界大戦が迫っているという意見もチラホラ。本作は、会った事もない者同士が殺し合ったり、幸せに暮らしていた家族や想いを寄せ合う者が別れなければならない様な時代が1日も早く終わって欲しいと改めて思わせてくれる佳作であります。

 

●スタッフ

監督:本多猪四郎

脚本:馬淵薫、西島大、橋本忍

製作:田中友幸

撮影:山田一夫

特殊技術:円谷英二、向山宏、渡辺明

音楽:塚原晢夫

 

●キャスト

池部良、三國連太郎、平田昭彦、

岡田茉莉子、根岸明美、中北千枝子、

村上冬樹、久保明、小山田宗徳、

谷晃、ボブ・ブース、鈴木豊明、岡豊、

西條悦郎

 

◎注1;

 脚本家としては木村武(馬淵薫)、西島大、橋本忍の3人がクレジットされているが、黒澤明監督作品の脚本執筆のように3人が旅館等に集まって執筆したのではなく、木村武(馬淵薫)が執筆した脚本が最初にあり、製作決定後に西島大と橋本忍によって加筆・修正が行われたのではないかと妄想している…作品後半が少し混乱気味なのはその辺りが原因カモ。

 過去に観賞した作品の内容を全く覚えていない事は時々あるのだが、テレビ放映版だったというケースが多い。劇場に足を運んでの観賞は、その日の行動の記憶ともリンクしていて、ちょっとした出来事が作品の内容についての記憶を辿る糸口になったりするのだが、自宅テレビでの映画観賞では記憶を呼び起こすきっかけになる様な出来事はほとんどない…家族と雑談しながらの観賞だったりすると忘却も加速するよね。劇場公開用ポスターは初観賞からかなり経って映画雑誌等で見たのだが、公開時に何種類か作られたポスターは、どれも池部良演じる若林大尉と岡田茉莉子演じる看護師小松すみ子のロマンスを連想させるデザインになっているので、記憶を辿る手がかりにはならなかったのだ。それらのポスターに描かれている様なシーンは本編にはない…観客から抗議されなかったのかなぁ。

 

◎注2;

 本多監督の前作「太平洋の鷲」でも特殊技術スタッフとして参加していた円谷英二は、本作の空中戦等のミニチュア撮影に本格的に参加する事となったが、あくまでも美術の渡辺明、合成担当の向山宏と並ぶ特殊技術スタッフの一員という扱いで後年の「特技監督」という独立したポジションではない…「特技監督」とクレジットされる様になったのは翌年の「ゴジラの逆襲(1955)」かららしい。ミニチュア撮影による空中戦の場面はなかなか見応えがあるが、その完成度はシーンによってバラつきがあるのが残念。クライマックスの若林大尉とイエロースネークの空中戦は実写部分との巧みな合成や編集でハラハラさせてくれるし、野口中尉を救出した若林大尉の零戦がラバウルの飛行場に帰還する場面はミニチュア撮影とは信じられないぐらいの迫力だったが、不時着した野口中尉の零戦を俯瞰で捉えた場面のミニチュアはスケール感に乏しく、零戦が離着陸できる様な場所に見えなかったのだ…特撮予算の問題もあったと思われるケド。

 若林大尉を演じる池部良は本多監督のデヴュー作「青い真珠(1951)」につづいての主演。今回もクールな魅力全開だが、寡黙な帝国軍人役で台詞も少なく軍規に忠実で冷酷非情な人物と誤解されてしまう役柄なので前半は優秀なパイロットとして部下からは信頼されているもののほとんど悪役みたいなのだ。本多監督作品「宇宙大戦争(1959)」「妖星ゴラス(1962)」にも出演してます。

 片瀬大尉を演じる三國連太郎は本多監督の前作「太平洋の鷲」では小さな役だったが本作では準主役と言える様なポジションで存在感を存分に発揮しています…ほとんど病床で寝てるんだけどね。映画デヴュー作の木下惠介監督作「善魔(1951)」で演じた役名を芸名に。一躍注目され引っ張り凧となるが松竹と契約上の問題を起こしたあたりから「問題児」と呼ばれる様になり東宝にも出入り禁止になったために本多監督作品は2本だけ。「王将(1962)」「飢餓海峡(1965)」「神々の深き欲望(1968)」「戒厳令(1973)」「金環蝕(1975)」等、主演・出演作品多数。

 野口中尉を演じる平田昭彦は、第5期東宝ニューフェイスとして入社し本多監督作品は本作が初出演。撃墜王の若林大尉を尊敬しつつも対立してしまうという複雑な役柄で、知的でクールな雰囲気が本多監督に気に入られたようで、次作の「ゴジラ」では芹沢博士を演じ世界的に有名になり、「空の大怪獣 ラドン(1956)」「地球防衛軍(1957)」「美女と液体人間(1958)」「大怪獣バラン(1958)」「モスラ(1961)」「キングコング対ゴジラ(1962)」「海底軍艦(1963)」等の本多監督の特撮作品の常連俳優となる。

 看護師の小松すみ子を演じる岡田茉莉子は、第3期東宝ニューフェイスのとして入社し20日後に成瀬巳喜男監督{舞姫(1951)」に抜擢されてデヴューというシンデレラ・ガール。デヴュー3年間で出演作20本という人気女優となったのだが、本作ではめちゃくちゃ可愛い看護師さんを演じていてそんな人気も納得、初めて観た彼女の出演作は成瀬巳喜男監督「浮雲(1955))」だったと記憶しているが、すでにその頃はベテラン女優の風格だったのでそれ以前の「カワイ子ちゃん(死語)」時代を知ったのはかなり後になってからだった…リアルタイムで観賞出来た吉田喜重監督作品の印象が強かったからそりぁもう大騒ぎ。本作では、若林大尉への想いが徐々に高まっていくのだが描写不足で唐突な感じになってしまっているのが残念。池部良との相性や雰囲気は悪くなかったので、そんな二人のポスターに描かれているようなロマンチックな場面も観てみたかったですね。

 ラバウルのナイト・クラブのダンサーのキムを演じる根岸明美は、日劇ダンシングチーム出身で映画デヴュー作はなんとジョセフ・フォン・スタンバーグ監督の日本映画(ワォ!!)「アナタハン(1953)」…しかもいきなり主演という快挙。本作では野口中尉に想いを寄せる現地のダンサー役なので台詞は少ない上にカタコトなのが残念だが華麗なダンス・シーンはたっぷり。本多監督作品は「獣人雪男(1955)」「キングコング対ゴジラ(1962)」にも出演…黒澤映画ファンとしては「生きものの記録(1955)」「どん底(1957)」「赤ひげ(1965)」「どですかでん(1970)」の名演技が忘れられません。

 ラバウルのナイト・クラブのホステスの道代を演じた中北千枝子は、出演者のほとんどがシリアスな演技をしている中では異質にさえ見えるくらい他の出演作同様の柔和な雰囲気で戦地で働く女性を演じていて、そんな彼女の出演場面は観客の緊張感を和らげ殺伐とした物語に潤いを与えている。

 「日常の戦ひ(1944)」で映画デヴュー、黒澤明監督作「素晴らしき日曜日(1957)」で戦後の貧しい恋人同士を演じて注目される。豊田四郎監督作「わが愛は山の彼方に(1948)」小津安二郎監督作「早春(1956)」では池部良と共演、「めし(1951)」「稲妻(1952)」「浮雲(1955)」等多数の成瀬巳喜男監督作品に出演、黒澤映画ファンとしては「醉いどれ天使(1948)」「静かなる決闘(1949)」での名演も記憶に残っています。

 島田二飛曹を演じた久保明は、出演場面は少ないが悲惨な最期を遂げる若きパイロットを瑞々しく演じている。子役として活躍後に「思春期(1952)」で映画デヴュー、続編の「続思春期(1953)」で本多監督作初出演、「妖星ゴラス(1962)」「マタンゴ(1963)」「怪獣大戦争(1965)」「怪獣総進撃(1968)」「ゲゾラ・ガニメ・カメーバ 決戦!南海の大怪獣(1970)」等の本多監督作にも出演。黒澤映画ファンとしては「蜘蛛巣城(1957)」「椿三十郎(1962)」もはずせない。

 唯一のコメディー・リリーフ清川二整曹を演じた谷晃は、ラバウルのパイロットたちの本音を代弁するような役柄でニコニコさせてくれます。舞台俳優として活躍後に東宝に入社し「船出は楽し(1940)」で映画初主演、その後は名脇役として数多くの東宝作品で大活躍。「獣人雪男(1955)」「モスラ対ゴジラ(1964)」等の本多監督作に出演。黒澤映画ファンとしては「醉いどれ天使(1948)」「生きる(1952)」「七人の侍(1954)」「生きものの記録(1955)」「蜘蛛巣城(1957)」「隠し砦の三悪人(1958)」「用心棒(1961)」等が強く印象に残っています。

 アメリカ軍の撃墜王イエロースネーク=トーマス・ハインを演じたボブ・ブースは、アメリカ進駐軍のジャーナリストとして来日、東宝と契約して進駐軍によって接収された東京宝塚劇場(アーニー・パイル・シアターと改名)で司会等を務め映画プロデューサーの田中友幸の誘いで三船敏郎主演の「霧笛(1952)」に初出演し本作や「美貌と罪(1953」「赤線基地(1953)」「密輸船(1954)」「さいざんす二刀流(1954」等に出演、「愛は降る星の彼方に(1956)」ではリヒャルト・ゾルゲを演じています。

 

◎注3;

 イエロースネークによる日本軍批判の場面の後に、爆撃機の製造が間に合わないので戦闘機による敵艦隊への爆撃をラバウルの指揮官たちが決定する場面が描かれる。これは戦闘機に爆薬を積んで敵艦隊に体当たりして自爆する所謂「特攻」を示唆しているのだが「特攻」という言葉は使われない。そして吉田少尉たちが志願するのだが、ここでも「特攻」という言葉は使われていない。この辺りは事実だったようで作戦としての「特攻」は存在しなかったという事になっているらしい。軍上層部は「特攻」をパイロットに命令はしていない、「特攻」はパイロットたちの自主的な判断による結果、という終戦後に責任を問われないための「言い訳」だったようだが、日本軍の極秘事項なので流石にイエロースネークに代弁させる訳には行かなかったのだろう…この描写をどうしても入れたかったからなのは理解出来るが、脚本・演出共にあまり上手く行っていないので、軍上層部の姑息な工作が公開当時の観客に伝わったかどうかは疑問なのだ。

 捕虜となったイエロースネークがアメリカ軍の空爆に乗じて収容所からの脱走したという、絵的に面白区なりそうな場面も台詞のみで処理されていて、その結果イエロースネークのP51ムスタングが基地に飛来し看護師の小松すみ子たちが乗る引揚の輸送船を攻撃するまでの時間経過が不自然になってしまっている。看護師の小松すみ子が若林大尉に想いを寄せるようになる過程も、脚本・演出共にあまり上手く行っていないので、引き上げが急に決まった事を若林大尉に電話で伝える場面が唐突に見えてしまう…それを受けて港に駆けつける若林大尉の心境の変化はさらに唐突。本作の後半部分は説明過多に慣らされた現在の映画観客にはチンプンカンプン(死語?)なんじゃないかなぁ。駆けつけた若林大尉が小松すみ子のトランクを持とうとして手が触れ合う場面は本作随一のロマンティックなシーン…後半部分の脚本がもっと詳細に描き込まれ丁寧な演出がなされていれば、日本映画史に残るような名場面になっていたのにと悔やまれます。

 

 

★さいとうてるひこ YouTubeチャンネル

youtube.com/@teruhiko_saitoh

 

★Facebook「Teruhiko Saitoh」

https://www.facebook.com/#!/teruhiko.saitoh.3

 

★「ぐら・こん」ホームページ

https://gracom.web.fc2.com

★「ぐら・こん」掲示板

https://gracom.bbs.fc2.com