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ホビット 決戦のゆくえ(2014)
凶悪な竜スマウグ(ベネディクト・カンバーバッチ)が眠るかつてはドワーフの宮殿だったエレボールの宝物庫に侵入したホビットのビルボ・バギンズ(マーティン・フリーマン)とドワーフのトーリン・オーケンシールド(リチャード・アーミティッジ)一行は、目覚めたスマウグの攻撃をかわし工房の炉で溶かした黄金を浴びせる。思わぬ反撃を受けたスマウグは、宝物庫侵入に協力したのがエスガロスの民だと悟ると港町の襲撃に向かう。スマウグは吐き出す炎でエスガロスの町を焼き尽くそうとするが、バルド(ルーク・エヴァンズ)の放った鋼鉄の黒い矢が唯一の急所に突き刺さりスマウグは絶命する。
冥王サウロンの部下でオークの首領アゾグ(マヌー・ベネット)の軍勢が集結しているドル・グルドゥアに囚われていた魔法使い灰色のガンダルフ(イアン・マッケラン)は、魔法使い茶色のラダガスト(シルヴェスター・マッコイ)の伝言を聞いて駆けつけたロスローリエンの森のエルフガラドリエル(ケイト・ブランシェット)とハーフエルフのエルロンド(ヒューゴ・ウィーヴィング)、魔法使い白のサルマン(クリストファー・リー)によって救出され、戦火が迫っている事をビルボやトーリン一行に知らせるためエレボールへと馬を走らせる。
町を焼かれ家を失い傷ついたエスガロスの人々は廃墟となっていたエレボールの城下町へ避難するが、「竜の病」に侵され黄金に目が眩んだトーリンは宮殿を固く閉ざし約束した財宝の分け前や避難住民の受け入れも拒否、部下たちの誰かがドワーフの秘宝「アーケン石」を隠し持っているのではと疑うようになっていた。ビルボはスマウグから逃げる途中にアーケン石を拾っていたが、独占欲と疑心暗鬼に凝り固まったトーリンに渡すのを躊躇していた。
エスガロスで戦ったボルグ(ローレンス・マコール)がグンダバドから来たオークだと考えた闇の森のエルフのレゴラス(オーランド・ブルーム)は、闇の森のエルフの守備隊長タウリエル(エヴァンジェリン・リリー)とともにグンダバドの要塞の偵察に向かった。
交渉のためにエレボールを訪れた闇の森のエルフ王スランドゥイル(リー・ペイス)とバルドはスマウグが破壊した門に瓦礫を積み上げ強大な城塞に変えたトーリンと対峙、バルドは和平と財宝の分配を提案するがトーリンは宝物庫にあるのはすべてドワーフの財宝であると拒絶、スランドゥイルはエルフの財宝を奪い返そうと戦の準備を整える。城下町に到着したガンダルフはオーク軍の接近を知らせトーリンとの戦闘を思い止まらせよう説得、城塞を抜け出したビルボが現れアーケン石を差し出して交渉に使うよう提案する。ビルボがアーケン石を盗んだと思い込んだトーリンは戻って来たビルボを城外へ投げ捨てるように命じるが、欲望に目が眩んだトーリンに失望したドワーフの部下たちは従おうとはしなかった。
スランドゥイルのエルフの軍勢とバルド率いるエスガロスの義勇兵たちが集結しエレボールの城塞に進軍を始めた時、トーリンの従兄弟くろがね山のダイン(ビリー・コノリー)が軍勢を率いて現れ戦闘が開始されるが、そこへ巨大化けミミズが掘り進んだトンネルからアゾク率いるドル・グルドゥアの大軍勢が現れたために、エルフの軍勢とバルド率いるエスガロスの義勇兵たちとダインのドワーフ軍は協力して立ち向かうが、オークの軍勢の数の力に圧倒されエレボールの城門前まで徐々に追い詰められる。ドワーフの財宝を独占する事に固執するトーリンは、バーリン(ケン・ストット)やドワーリン(グレアム・マクタヴィッシュ)ら部下たちからドワーフ軍や友軍が全滅の危機を迎えているとの報告を受けても玉座から動こうとはしなかった…というお話。
J・R・R・トールキンの「ホビットの冒険」が原作の「ホビット三部作」の完結編なのだが、元々「指輪物語」のような長編ではないのに「ロード・オブ・ザ・リング三部作」と同じ規模の三部作にしたために、原作を上手く膨らませていた第1作と違って前作はかなりエピソードの水増しや改変が行われて統一感の希薄な大作になっていた。観賞後に原作も残り少ないのに第3作はどうするのかと抱いた不安が的中、全体的にバランスが悪く大味な完結編になってしまったのがとても残念だった。
スマウグがエスガロスの町を焼き払う場面や弓の名手バルドとの対決は迫力満点で見ごたえがあったが、主役であるはずのビルボやトーリン一行が活躍する場面は皆無でただの傍観者でしかないのだ…これは原作の欠陥でもあるんだけどね。スマウグの最期以降は奪還したドワーフの財宝に目が眩んだトーリンに端を発する部下たちの落胆や財宝の分配を主張するスランドゥイルやバルドとの交渉が延々描かれて、前作までの軽快なテンポや高揚感が皆無で全然楽しくないのだよ(注1)。
そして原作では「五軍の合戦」とされているドワーフ・エルフ・人間・オークの軍団による大戦闘場面が展開されるのだが、映像的には「ロード・オブ・ザ・リング三部作」でさんざん見せられた合戦の焼き直しのような場面が続出し、ここでも主役であるはずのビルボやドワーフたちよりも特別ゲスト的なレゴラスやタウリエルの活躍の方が見所が多いので困ってしまう。特にエスガロスの一般人で組織された軍隊が城下町に乱入してくるオークやトロルの軍勢を迎え撃つあたりはどう考えても無理がある…どーしてもバルトや住民たちの活劇を見せたかったのであれば、戦略や兵器類についてもう少し大胆な改変をするべきだったと思いますね。改心したトーリンと部下たちが参戦してからも戦闘そのものは基本的に同じなので、ラストまで単調な肉弾戦を延々観せられるという拷問が続く(注2)。
ラスト近くになってやっと本作の中心人物であるトーリンの彼らしい勇猛な見せ場が用意され、それまでの混沌とした肉弾戦から打って変わってオーク軍の首領アゾグと一対一の対決場面になる。前2作ではドワーフたちは集団でバタバタと戦う場面ばかりだったので、静かに睨み合うこの場面は新鮮だったのだが、ハリウッド映画定番の「実はまだ生きてました」が登場してゲンナリ…その後のビルボとトーリンの感動的な場面が台無し(注3)。
「ホビットの冒険」の原作を読んだ時は「指輪物語」ほどドロドロとした感じが少ない、ほのぼのとしたファンタジーという印象だったのだが、それはトールキンが生み出したホビット=ビルボの設定や性格に起因していると思う。「ロード・オブ・ザ・リング三部作」ではフロドとサムが後半になるにつれてホビットらしさがなくなってダークな雰囲気ばかりになってしまったのが残念だったが、「ホビット三部作」ではビルボ役にマーティン・フリーマンを得た事で最後までホビットらしさが失われなかったのが何より嬉しい…ガンダルフとの別れの場面はうっかり泣きそうになってしまった。
「ロード・オブ・ザ・リング三部作」に続くラスト・シーンが用意されていたのが嬉しかったが、「ホビット 思いがけない冒険(2012)」と本作で111歳のビルボ・バギンズを演じたイアン・ホルムの遺作となってしまったのが寂しい…ちなみに前シリーズも「ロード・オブ・ザ・リング(2001)」「ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還(2003)」と第1作と第3作に出演している。
2022年9月から「指輪物語」とその追補編を基にしたテレビ・ドラマ・シリーズ「ロード・オブ・ザ・リング: 力の指輪(2022)」が配信されているし、2024年にはアニメーション映画「The Lord of the Rings: The War of the Rohirrim」が公開予定となっている。後期高齢者なので「絶対観よう」とかは思わないようにしているのだが、歳を取っても衰えていない旺盛な好奇心に勝てるかどうか…。
●スタッフ
製作・監督・脚本:ピーター・ジャクソン
製作・脚本:フラン・ウォルシュ
脚本:フィリッパ・ボウエン、ギレルモ・デル・トロ
製作:キャロリン・カニンガム、ゼイン・ワイナー
製作総指揮:アラン・ホーン、トビー・エメリッヒ、
ケン・カミンズ、キャロリン・ブラックウッド
原作:J・R・R・トールキン
撮影:アンドリュー・レスニー
音楽:ハワード・ショア
●キャスト
マーティン・フリーマン、イアン・マッケラン、
リチャード・アーミティッジ、ベネディクト・カンバーバッチ、
オーランド・ブルーム、エヴァンジェリン・リリー、
ルーク・エヴァンズ、リー・ペイス、
スティーヴン・フライ、ライアン・ヘイジ、
グレアム・マクタヴィッシュ、ケン・ストット、
エイダン・ターナー、ディーン・オゴーマン、
マーク・ハドロウ、ジェド・ブロフィー、
アダム・ブラウン、ジョン・カレン、
ピーター・ハンブルトン、ウィリアム・キルシャー、
ジェームズ・ネスビット、スティーヴン・ハンター、
ペギー・ネスビット、マリー・ネスビット、
ケイト・ブランシェット、ヒューゴ・ウィーヴィング、
クリストファー・リー、シルヴェスター・マッコイ、
マヌー・ベネット、ローレンス・マコール、
イアン・ホルム
◎注1;
バルドが大活躍するスマウグ討伐場面は、カメラワークや画面構成も素晴らしくワクワクさせられたが、城下町へ続く浜辺に住民が流れ着くあたりから、本筋とはあまり関係のないエピソードを延々観せられてうんざり。特に生き残ったアルフリド(ライアン・ゲイジ)が過剰に存在をアピールし自己の権利を主張する場面はギャグとしても成立していなくて全部カットしても良いぐらい鬱陶しい…このストレスは本作終盤まで続くんだよね。
前作終盤ではエレボールの宝物庫でドワーフの財宝を目にして以降のトーリンの変化が上手く描けていなかったが、本作でも王としての威厳や戦士としての輝きを取り戻すまでの変化が不自然で唐突に改心したような感じがしてしまうのだ。リチャード・アーミティッジの演技はそれほど悪くはないのだが、脚本や演出に工夫が足りないので説得力のある場面になっていないのが問題。ビルボや部下たちからの言葉に自問自答を続けたトーリンが、スマウグに浴びせた黄金が床一面に広がった大広間に飲み込まれる幻想に苛まれるのだが、トーリンの精神面での変化を描くための描写とはちょっとイメージが違う…派手なだけで効果的だったとは言えないよねぇ。
◎注2;
原作ではドワーフ・エルフ・人間・オークの四軍に、ガンダルフやドワーフたちに大ゴブリンを殺害された霧ふり山脈のゴブリンの軍団が加わるのだが、本作ではオークの首領アゾグの息子という設定のボルグは原作ではそっちの大将なのだ。そのあたりが改変されているとはいえ合戦が進めばゴブリンの軍団も加わるのだろうと思っていたら最後まで登場せずに終わったので「他の部分は散々水増ししてるのに一軍カットしちゃうのかヨォ」と心の中で突っ込みを入れた…よーく観るとボルグの軍勢の中にゴブリンもいたようだが扱いはオーク軍の別働隊という感じ。レゴラスとタウリエルが偵察に行ったグンダバドの要塞は原作ではゴブリンとワーグの連合軍の集結地なので、原作通り「五軍」にすれば良かったと思うのだが、へんてこな改変を行ったのは何か理由があったのだろう…ゴブリン軍団にするとCG制作が間に合わなかったとか。
前作でもなんとなくストーリーから浮いた感じだったレゴラスとタウリエルは、丁寧に描かれてはいるがグンダバドの偵察場面も含めて上手くストーリーに組み込めていない。人間離れしたエルフの華麗でアクロバティックなアクションが炸裂する2人の活躍する場面は、本作でも主役であるはずのドワーフたちよりも目立っていて、数多い登場キャラクターのバランスを崩してしまっていたのが残念…エヴァンジェリン・リリーは本シリーズで大ファンになっちゃいましたが。
劇場公開版に未公開シーン約20分を追加したエクステンデッド・エディションにはドワーフたちが大活躍する派手なアクションが収録されているが「ピーター・ジャクソンさん、ちょっとお遊びが過ぎますなぁ」という感じで本作の雰囲気からは大きく乖離している…巨大なビッグホーンが引く戦闘車両(牛車みたいなヤツ)に積んだドワーフ軍の兵器類は本作のコンセプトから完全に逸脱した超兵器で笑ってしまう。
◎注3;
原作ではキーリ(エイダン・ターナー)とフィーリ(ディーン・オゴーマン)は致命傷を負ったトーリンを守ろうとして討ち死にするのだが、原作を読んだのが遥か昔だったとはいえ「あれ?死んじゃうの」と感じたぐらい2人の死は印象が薄かったのだ。本作では偵察に行ったフィーリは待ち伏せにあって、キーリはタウリエルを救出に行って倒されるという大きな見せ場が用意されている。
ラストのトーリンとアゾグの対決は、スマウグ討伐以降続いていたモヤモヤを解消してくれる名場面になっているが、トーリンが致命傷を負わされる場面は痛々しくて観ていられない…刃物がゆっくり〇〇するの何処かで観た事あるなぁと思ったら「プライベート・ライアン(1998)」だった。
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