偉大なるアンバーソン家の人々(1942) | つぶやキネマ

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140文字以内(ぐらい)という制約を自ら課して、
"つぶやいて"みようと思います...ほとんど
「ぼやキネマ」になりそうですが。

★注意!!! 作品の内容に触れています★


偉大なるアンバーソン家の人々(1942)


 1873年、アメリカ中西部の町に君臨する大富豪アン
バーソン家は、町民たちから"偉大なるアンバーソン家
の人々"と呼ばれ常に噂話の対象になっていた。自動車
開発に熱中していたエンジニアのユージン・モーガン
(ジョセフ・コットン)は、アンバーソン家のひとり娘イ
ザベル(ドロレス・コステロ)に求愛するが、家長アンバ
ーソン少佐(リチャード・ベネット)は家柄の良いウィル
バー・ミニファー(ドン・ディラウェイ)をイザベルの婿
養子として一族に加える。ウィルバーとイザベルの間に
生まれたジョージ(ボビー・クーパー)はアンバーソン家
の跡継ぎとしてわがまま放題に育てられ、町民たちから
は「いつかツケを払う事になる」と揶揄されていた。20
世紀を目前に控えたある晩、アンバーソン家で開かれた
舞踏会に、失恋した事で町を去ったユージンが娘ルーシ
ー(アン・バクスター)を連れて現れ、成長しさらに傲
慢で一族の力を誇示する青年になったジョージ(ティム・
ホルト)はルーシーに惹かれるが、彼女の職業を持つべき
という忠告を彼は誇り高きアンバーソン家の人間は労働
はしないと耳を貸さない。20世紀の到来で小さな町も工
業都市に変貌し、ユージンの会社が自動車産業の発展と
共に成長した頃、突然ウィルバーが亡くなりユージンと
イザベルの恋が再燃する事を恐れたジョージは、ルーシ
ーヘの愛を諦め母と共に世界旅行に出発するが旅先でイ
ザベルが心臓発作で倒れてしまう...というお話。1918年
に発表されピューリッツァー賞を受賞したブース・ター
キントンの小説の映画化でオーソン・ウェルズの監督第
2作なのだが、ジョージとウェルズの生い立ち等が良く
似ている事からウェルズの自伝的作品とも言われていて、
ウェルズのマーキュリー劇団で1939年にラジオ・ドラマ
化もされている。映画は、ウェルズのナレーションで時
代背景やアンバーソン家について語られるが、ウェルズ
の声がホントに魅力的でストーリーにすんなり引き込ま
れてしまう。さらに、20世紀を目前にした生活の変化が
語られ、ジョセフ・コットンのコメディ・タッチの演技
によってファッションの変遷が描かれ本筋になだれ込む
構成が素晴らしい。本作は本来131分の作品の予定だっ
たが、製作したRKO映画によって監督に無断で88分に
短縮され公開されてしまったため(注1)、ストーリー的
にはダイジェスト版を観ているような感じになってしま
っているのが残念であります。しかし、映像的には前作
「市民ケーン(1941)」よりさらに洗練され、カメラワー
クや照明、美術等の見所満載で、特に本作では"長回し"
が多用されていて緊張感たっぷりの映像を作り出してい
る。カメラは基本的に人の心臓やベルトの位置で構える
ロー・アングルで統一され、大富豪アンバーソン家の威
圧感が観客にも感じられるような画面になっているし、
人物やカメラの複雑な移動と組み合わされた長回しはホ
ントに凄い。舞踏会での画面に大勢の人物が出入りする
のをサイズを変えながら捉え複雑な移動をするワン・カ
ット撮影や、ジョージと叔母のファニー・ミニファー(ア
グネス・ムーアヘッド)が階段を昇って行くのを前から捉
える移動撮影、ボイラー室で錯乱したファニーをジョー
ジが邸のドアまで連れて出る場面ではフル・ショットから
ふたりのアップになり最後はロング・ショットになる等、
単純に俳優の演技を長回しで撮影するのとは比べ物になら
ない複雑さで、オーソン・ウェルズという監督の天才ぶり
がよく解るショットにあふれている。アンバーソン邸の内
部のセットは、ロー・アングル撮影で天井の様子等もパン
・フォーカスで映し出されるため、細部まで豪華な作りに
なっていて素晴らしいのだが、3階まで吹き抜けになって
いる階段でのジョージとファニーの会話シーンは、セット
の造形と照明によって"絵"として完璧な仕上がりでありま
す。エンド・マークの後のウェルズのナレーションによる
登場人物紹介もナカナカ楽しい...最後にブーム・マイクが
離れていくのが洒落ていて素敵です。


●スタッフ
製作・監督・脚本:オーソン・ウェルズ
原作:ブース・ターキントン
撮影:スタンリー・コルテス
音楽:バーナード・ハーマン


●キャスト
ティム・ホルト、ジョセフ・コットン、
ドロレス・コステロ、アン・バクスター、
アグネス・ムーアヘッド、レイ・コリンズ、
リチャード・ベネット、エルスキン・サンフォード、
ボビー・クーパー、オーソン・ウェルズ(ナレーション)


◎注1; 撮影が第二次大戦中だったために、ウェルズは
本作の撮影終了後に徴兵免除を条件に、国務相の要請で
南米を紹介するドキュメンタリー映画「イッツ・オール
・トゥルー」の撮影のためにリオのカーニバルに向かう。
「市民ケーン」でも編集を務めたロバート・ワイズに編
集の細かい指示書を渡して出発、撮影現場に送られて来
た131分の完成版を観たウェルズはOKを出すが、同時に
アメリカ国内で行われた試写が不評だったためウェルズ
は再編集のための新たな指示書を送る。しかしRKO映画
の社長ジョージ・J・シェーファーによってこの指示書は
無視され、再編集と追加撮影等が行われて88分の短縮版
が完成。短縮版の試写を観た興行関係者は興行価値が無
いと判断、B級コメディ映画と2本立で公開されてしまう。
約10年後に再評価された頃には、すでにオーソン・ウェ
ルズは問題児としてハリウッドから追放状態だった。何
とか生きているうちに131分版を観たいと思い続けて来
たが、現在までネガやプリントの存在も確認されていな
い...一度でも劇場公開されていればプリントが残ってい
そうなんだけどねぇ。日本では短縮版も劇場未公開のま
まだったが、1988年に水野晴郎の配給会社インターナシ
ョナル・プロモーションによって劇場公開されました。
本作を犠牲にしながら撮影した「イッツ・オール・トゥ
ルー」も結局未完成のままだったが、当時の資料等を参
考にして再構成し完成、1993年に公開されました。ジョ
セフ・コットンは、いつもの飄々とした演技全開で基本
的には悲劇的なストーリーに明るさを加えていて素敵で
す。ティム・ホルトは、尊大で傲慢な大富豪の跡継ぎの
雰囲気たっぷりで良いのだが、他の出演者に比べると演
技的にはチョッピリ厳しい感じなのが惜しい...複雑な演
技を必要とされたであろうと想像出来るラスト・シーン
に登場しなかったのはそのあたりが原因カモ。叔母のフ
ァニー・ミニファーを演じたアグネス・ムーアヘッドは
大熱演で、本作でアカデミー助演女優賞の候補になりニ
ューヨーク映画批評家協会賞の主演女優賞を受賞してい
る。資産をすべて失いボイラー室で錯乱する演技は息を
飲む素晴らしさで、相手のティム・ホルトが特に芝居を
していないのにホントに驚いて困惑しているように観え
るのも凄い。ルーシーを演じたアン・バクスターは撮影
当時18歳で、アンバーソン家の舞踏会の初登場シーンが
メッチャ可愛く、大富豪の威圧感にも動じない新世代な
雰囲気も素敵で、ラストの明るく健康的な笑顔と合わせ
てもうメロメロであります...ジョージと町で再会する場
面だけポッチャリ気味なのは何故なんだろう。


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