合同式の締めくくりとして,フェルマーの小定理について紹介します.
まずは入試問題から.日本女子大・理学部の問題です.
問題
nが2以上の自然数であるとき,
n~7-nが7で割り切れることを,数学的帰納法を用いて証明せよ.
「数学的帰納法を用いて」,とあるのが親切ですね.
それに基づいて証明すると,こうなるのでしょうか.
解答
n=2のとき, 2~7-2=128-2=126=7×18 より
7で割り切れる
n=kのとき,k~7-kが7で割り切れると仮定すると,
(k+1)~7-(k+1)
=k~7+7C1K~6+7C2K~5+7C3K~4+7C4K~3+7C5K~2+7C6k+1-(k+1)
となります.ところで,7C1=7C6=7,7C2=7C5=21,7C3=7C4=35
(Cはコンビネーションです.見づらくてごめんなさい)
よって,
(k+1)~7-(k+1)
=k~7-k+7(K~6+3k~5+5K~4+5k~3+3k~2+k)となるが,
仮定よりK~7-Kが7で割り切れるので,
(k+1)~7-(k+1)も7で割り切れる.
という手順です.
数学的帰納法については,ある人が「ドミノ倒し」のようなもの
と表現していました.いいえて妙ですね.
さて,本題です.この日本女子大の問題は,
「フェルマーの小定理」と呼ばれる,議論を背景にしています.
フェルマーの小定理とは,合同式を使ってあらわすと
pが素数であるとき,
n~p≡n [mod p] である,という定理です.
有名なフェルマーの最終定理
「x~n+y~n=z~nをみたす3以上の自然数は存在しない」とは
違って,フェルマーが証明しています.
(余談ですが,私が中学生のころは最終定理がまだ証明されて
おらず,ためしに代入してうまくいく数がないものか探したものでした)
もとい,訂正です.
フェルマーの小定理は,最終定理と異なり,
「フェルマーがその証明を書き残している」が正しい表現ですね.
※フェルマーについてのエピソードは,改めてふれます.
さて n~p≡n [mod p]の証明ですが,まずはこんなことを考えます.
上の議論では二項定理を使いました.以下でもこれを用いるため,
(二項定理にも面白い話題がありますので,別の機会に紹介します)
nが素数のとき,nCkがnで割り切れることを確認しておきましょう.
nCk=n!/k!(n-k)!と表現できますが,
kも(n-k)も,nよりも小さい自然数です.
n!には素因数として必ずnが含まれていますが,k!にも(n-k)!にも
nは含まれていません.(なぜならば,nは素数であるため,nより
小さい数をどのように掛け合わせても,nにはならないからです).
よって,nが素数ならば,nCkはnで割り切れます.
これを用いると
nが素数であれば,
(a+b)~n≡a~n+b~n [mod n] が成り立ちます.
(いろいろ試してみてください)
これを利用すれば,pが素数のとき,
(1+1)~p≡1~p+1~p [mod p] ∴ 2~p≡2 [mod p]
(2+1)~p≡2~p+1~p [mod p] 3~p≡3 [mod p]
…
と数学的帰納法を用いれば,どんな場合でも証明できます.
もしもそれがまどろっこしい,と感じれば,
多項定理を利用して,
(1+1+1+…+1)~p≡1~p+1~p+…+1~p [mod p]
とすればよいでしょう.
ちなみに多項定理とは
(a+b+c)~nにおいてa~p×b~q×c~rの係数が,
n!/p!q!r! である,という定理です.
(二項定理を使えば容易に導けます)
先ほどと同じ議論で,nが総数のとき,
n!/p!q!r!がnの倍数であることを確認しましょう.
(p+q+r=nですので,p,q,rはnより小さい自然数です)
これで,フェルマーの小定理が導かれました.
その1で紹介したピタゴラス数の議論においても,
これが利用されています.そのことを示すために,
これまで触れてこなかった合同式の割り算を確認しましょう.
合同式では
3×2≡6 [mod 5]が成り立ちますので,
6÷3≡2 [mod 5]が成り立ちます.
ところが,
3×4≡12 [mod 4] ですが,
12÷4≡3 [mod 4] とはなりません.
理由を考えてみると,4≡0 [mod 4]ですので,
上記の割り算は「0で割る」という,
割り算の禁止事項が含まれているからです.
ただし,それ以外にも
5×3≡15 [mod 12] のとき,
15÷3≡5 [mod 12] とするのは,いささか注意が必要です.
なぜなら,15≡27≡39≡3 [mod 12] ですので,
15÷3≡27÷3≡39÷3≡3÷3 [mod 12]
が成り立つ必要がありますが,
上記の式は,単純な割り算の結果が
5,9,13,1となるからです.
このように,合同式では割り算をするためには
細心の注意が必要です,
結論を先に言うと,合同式では
「法とする数と互いに素な数でなら割っても良い」となります.
フェルマーの小定理では法は素数でしたので,
n~p≡n [mod p] はpの倍数でないnについて,
n~p-1≡1 [mod p] となります.
(pの倍数であるnについては,n~p≡0が明らかです).
この式の形のほうが,今後使い勝手が良くなります.
ピタゴラス数の問題では,
n~2≡1 [mod3] を利用しました.
(n~2≡2 が矛盾する,という形です)
同じような議論の使える問題として,例えば,
問題
nが2以上の自然数であるとき,nとn~2+2がともに素数であるのは
n=3のときのみであることを証明せよ.
という京都大学の問題があります.
n=3のとき,n~2+2=3~2+2=11より,ともに素数です.
ところが,n=3でないときは,
nが素数であるためには,3で割り切れてはいけない,つまり,
「nは3の倍数ではない」ということが必要条件になります.
そのとき, n~2≡1 [mod 3] であることは既に示しました.
すると,n~2+2≡1+2≡0 となるので,
n~2+2は必ず3の倍数となってしまうのです.
よって,nが素数のとき,n~2+2が必ず素数ではなくなり,
「ともに素数」であることができなくなります.
(例外が,3の倍数なのに素数であるn=3のとき,です).
京都大学はフェルマーの小定理をたびたび出題しているようです.
ここで一息入れたいと思います.
フェルマーに関するエピソードとしては
フェルマーの最終定理を扱った本として
- フェルマーの最終定理 (新潮文庫)/サイモン シン
- ¥820
- Amazon.co.jp
がお勧めです.文庫にもなっていますので
手に取りやすいと思いますが,何より内容と訳が抜群に良い!
という本です.出版当時かなり話題になったようですが,
私は最近,本屋で見つけて読みました.
フェルマーは,本の余白に自分の見解を記していたらしく,
最終定理については「驚くべき証明を考えたが,余白が足りない」
といって書き残さなかったそうです.
これをネタに,よく学生たちに,
「もしも君たちが,数学の答案の記述部分について
何を書いてよいのか分からなくなったら,
『フェルマーの顰に倣って言うならば,
驚くべき解答を考えたが,余白が足りない』
とでも書いて,答えだけ書いてしまえばいいんだよ」
という冗談を言います.
しゃれの分かる先生なら,何らかのコメントを返して
くれるかもしれませんね.