『カシスウー論』 ~熱くて、懐かしいゲーム・・・編~

 こんにちは イイダテツヤです。 
 第112回『カシスウー論』は「熱くて、懐かしいゲーム・・・編」です。

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 年始の「カシスウー論」は箱根駅伝か、高校サッカーの話をすると決めているわけではないのだが、どうやらそのパターンが多いみたいだ。

 そんなわけで何人かの人から、「箱根駅伝の新記録の話するんでしょ?」「神奈川大学の襷が繋がった話かな?」と言われたり、「ブログで市船の話してくれるんだよね」などと言われてしまう。

 そんな予想にそのまま応えるのも微妙に気が引けるのだが、今回は市船の話です。

 私は千葉県人だから、甲子園でも、高校サッカーでも、とりあえずは千葉県代表を応援している。
 今年は市船(市立船橋高校、念のため)が順当に勝ち進み、決勝で四中工(四日市中央工業)と対戦することになった。

 久しぶりの伝統校対決と言っていいのではないだろうか。

 決勝までの両校を見て、「これは市船が勝つだろう」と私は勝手に予想していた。
 四中工のツートップは魅力的だが、全体的なチームバランスは市船のほうが上だと感じたし、四中工はキャプテンで、チームの要とも言うべき選手が累積警告によって出場できない。

 大量得点とは言わないまでも、中盤を支配した市船が比較的危なげないゲームで優勝してしまうだろう。
 そう私は思っていた。

 ところが開始早々、コーナーキック後の混戦からあっさり四中工が先制する。
 この先制点によって、四中工の選手たちは一気に気持ちが乗った。

 もともと、四中工は先発に3年生が少ないチーム。
 11人のうち3人が3年生で、残りは1、2年生で構成されている。
 大会を盛り上げているツートップはともに2年生で、ゴールキーパーは1年生というめずらしいチームだ。

 この1、2年生軍団にとって「ベンチやスタンドにいる3年生のため」、「決勝に出場できなかったキャプテンのため」というメンタリティはいろんな意味で大きな力を持っている。

 もし、市船が圧倒的なゲームを展開していたら「やっぱり今年はまだダメか・・・」「こんなときキャプテンがいたら・・・」とネガティブに考えてしまうかもしれないが、決勝という晴れの舞台で彼らはあっさり先制した。

 この瞬間、才能あふれる1、2年生軍団は「これはイケる!」「絶対優勝してやる」と思ったに違いない。
 
 事実、決勝の四中工はすばらしい出来だった。
 先制点で身も心も軽くなった選手たちが、キャプテン不在の穴を埋めて余りある運動量を見せ、市船の選手たちにプレッシャーをかける。

 市船の選手たちは「なんか、いつものサッカーができない」と感じていたに違いない。 
 そんな雰囲気のまま、前半は終了してしまったのだ。


 そんな前半を見ながら私は「四中工の運動量がいつまで持つかな」と思っていた。
 短期決戦のトーナメントは試合間隔が短く、高校生と言えども選手たちの疲れは相当に溜まっている。

 前半から飛ばしていけば、当然いつかはバテてくるし、緊張しているときというのは、いつも以上に疲労が早い。
 まして市船は、「イケるぞ、イケるぞ」というムードだけで90分を押し切れるほど甘い相手ではない。


 後半が始まり、前半と違わぬ運動量でプレッシャーをかける四中工を見ながら、私は自分の高校時代のことを思い出していた。


 私は千葉の名もなき県立高校に入学し、何も考えずにサッカー部の入った。
 中くらいの進学校で、サッカーとしては伝統校でも、強豪でもない。

 私としては「中学でも一応サッカーをやっていたから」という程度の思いで入った部なのだが、本当にたまたま、一年上の先輩に能力の高い選手が多かった。

 そして、私と同期の1年生にも2人の優れた選手がいた。
 そのうち一人は、中学のときに全国優勝をしたという筋金入りだ。

 そんなわけで、先発メンバーには5人の2年生と2人の1年生が名を連ねた。
 その才能ある7人を、4人の3年生が支えるというチーム構成だ。

 その年のチームはまさに、今年の四中工そっくりだった。

 冬の選手権予選が始まり、私の所属するサッカー部は千葉県大会で快進撃をすることとなる。
 入部して約半年、初めて選手権予選を迎えた私は「えっ、ウチってこんなに強いチームだったの?」と純粋に驚いてばかりいた。

 そして千葉県大会準々決勝、ベスト4をかけた戦いであの市船とぶつかった。
 その年のインターハイで全国優勝し、千葉県大会はもちろん、全国でも優勝候補の筆頭にあげられる本物の市船だ。

 1年生の私からすれば、市船の青いウィンドブレカーを見ただけでビビッてしまうほどのチーム。
 
 もっとも私は試合に出るわけないので、ビビッても、ビビんなくてもまったく関係ないのだが、そんなチームと戦うこと自体、入部した当時は想像すらしていなかったのだ。

 しかし、試合が始まってみると、意外な展開が私たちを待ちうけていた。
 開始10分、たった一度のチャンスによって、私たちのチームが先制点を上げたのだ。
 あの市船から、インターハイで優勝した、あの青い常勝軍団から、先制点を奪ったのだ。

 その瞬間は、見ているだけで体が震えた。
 グラウンドに折り重なって喜ぶチームメイトを見ながら、「これがホントに自分のチームなのか」と信じられない思いだった。

 もちろんその後は防戦一方だが、「イケるかもしれない」という気持ちで乗っているときの高校生の体は軽い。
 お互いがポジションをカバーし合いながら、ギリギリのところで体を張って、なんとか市船の猛攻を凌いでいた。

 そして、後半も30分が経過したころ「1対0」というスコアが、私たちに重くのし掛かってくる。
 強豪を相手にすると、負けているより勝っているほうが数倍辛い。

 「勝利」という言葉が脳裏をかすめ、「ミスをしてはいけない」というプレッシャーがどんどん強くなってくる。
 その上、疲労で足は重くなっているので、どうしてもみんなが少しずつ引き気味になり、自陣でのプレーが多くなってしまう。

 すると、相手にボールを拾われる可能性も高くなり、相手のコーナーキックも増える。
 市船の得点がジリジリと近づいてくるような、異様な重圧を感じるのだ。

 それはまさに今年の四中工も同じだっただろう。
 市船のコーナーキックの応酬を受け続けるのは、本当に辛いのだ。

 マークを外せばやられる。
 ファウルをすれば得点に繋がる。
 クリアが小さければ相手の攻撃は続く。
 大きくクリアしようと思っても、その時間とスペースを与えてくれない。

 終了間際の体力的に苦しいとき、そんな息詰まる時間がまるで永遠のように続くのだ。

 そして、今年の四中工と同じように、私たちも試合終了直前に市船に追いつかれてしまった。
 あと一歩のところを勝ちきることは本当にむずかしく、その一歩の差はとてつもなく大きいのだ。

 結局、四中工は延長で市船に敗れ、私たちはPK戦で市船に負けた。

 私は試合にすら出ていないのだが、私がサッカーで「全国」を感じられたのは、唯一あの一回だけだったような気がする。

 千葉県大会の準々決勝と全国大会の決勝を比較することなんてできないし、無名の高校と天下の四中工を並べて考えるなんてそれこそおかしな話だが、くしくも今年の決勝は、とても熱くて、ちょっと懐かしいゲームだった。


 しかし、高校サッカーとは不思議なもので、1、2年生主体のチームだからと言って、翌年さらに強くなるとは限らない。
 私たちの高校も、千葉県選抜に何人もの選手が選ばれたのに、大会ではベスト16であっさり負けてしまった。


 もし来年、再び四中工が全国の舞台に帰ってきたら、それは本当にスゴイことだ。
 それで決勝にでもいってしまったら、あのツートップはスターになっちゃうだろうねぇ。