平和で公平な離婚。
それが私たちのテーマだった。
私たちは同じように相手にうんざりしていたし、同じように別の誰かを好きになり、同じように新しい生活を望んでいた。
そして今日、私たちは最後の話し合いに臨んだ。
「今日の目的は、ここにあるすべての物を均等に二つに分けることよ」
妻はすました顔でそう宣言した。
彼女はやる気になっていた。やる気になったときの彼女がいささかやり過ぎることは嫌と言うほどわかっていた。だが、この期に及んで言い争いをするつもりは毛頭なかったし、六年間という期間に決着をつけるには相応のやる気も必要なのだ。
「じゃあ、いくわね」
そう言うと、彼女はノートと鉛筆を手に立ち上がった。
それからの彼女は本当に凄まじかった。
「電子レンジはわたし、コーヒーメーカーはあなた、ホットカーペットはわたし、カーテンはあなた・・・」
彼女はぶつぶつ言いながら、部屋中の物を片っ端から半分に分けていく。ベランダで栽培していたハーブに至っては、もともとひとつの鉢に植わっていたものを、土をひっくり返してまで半分に分けようとしている。
たまらず私は声をかけた。
「それはすべて君のものでいいよ」
「そういうわけにはいかないわ」彼女はすぐさま否定した。「あなたのものはあなたのものだから、それを貰うわけにはいかないの」
そう言う彼女は作業の手を止めようともしなかった。
彼女には強固な信念があり、それはどんな力を加えようとも曲がりはしないのだ。
彼女はハーブの鉢を二つに分け終えると「レモンバームはわたし、ペパーミントはあなた・・・」と言いながら、軍手をはめた手でノートに記入した。
朝の十時に始まったその作業はノンストップで午後三時まで続けられた。
その五時間のあいだ、私は邪魔にならないように居場所を替えながら、ただひたすら働く妻の様子を眺めていた。
一緒に暮らし始めた頃なら、「手伝おうか?」と申し出たかもしれない。しかし、今やその必要がないことはわかっている。私の差し出す手など、彼女にしてみれば面倒ごとがひとつ増えるだけの意味しかない。
結局のところ、彼女と私は初めからまったくかみ合わない暮らしをしていたのだ。そんな単純で、本質的な違いに気づくまでに、私たちは六年もの歳月を費やしてしまった。
すべての作業が終了すると、彼女は額の汗をハンカチで拭い「チェックして」と私にノートを差し出した。
私は形だけざっと目を通して「問題ないよ」と言って、ノートを返した。問題なんて初めからどこにもないのだ。
彼女はにっこりと微笑んだ。
「疲れただろう。コーヒーを煎れるよ」と、私は立ち上がった。
「ところで、コーヒーメーカーは自分のを使うけど、カップがないんで君のを二つほど貸して貰えるかな?」と私は軽いジョークのつもりで尋ねた。
彼女は笑って「もちろんよ」と答えた。
「でも、その前にトイレに行ってもいいかしら?」と彼女は言った。
「もちろんだよ。そもそもトイレットペーパーは君のものだろう?」
「便座カバーはあなたのよ」
私は苦笑して「遠慮なく使っていい」と答えた。
笑えるやり取りではなかったが、笑う以外にどうしようもないことが、世の中にはたまにあるのだ。
それから私たちは三十分ほど向かい合って座り、ゆっくりとコーヒーを飲んだ。
私のコーヒーメーカーで煎れたコーヒーを彼女のカップで飲む。なんとも馬鹿げた時間だったが、少なくともコーヒーはいつもと同じ味がした。
しばらくして、彼女は「来週には荷物を取りに来るわ」と言い残して去って行った。
私はベランダに出て、駅へと急ぐ彼女を見送るでもなく、ただぼんやりと眺めていた。
足下には、二つに分けられたレモンバームとペパーミントが何事もなかったかのように緑の葉を茂らせている。
無理矢理二つに分けられたハーブたちの新しい暮らし具合はどうだろうか。私はしゃがんで、ハーブの鉢をじっくりと点検した。葉っぱの裏や土のかかり具合など、隅々まで観察したが、見たところそれほど悪い感じではなさそうだ。
「新しい暮らしも悪くないだろう?」
私はハーブに問いかけた。
ハーブはただ緑の葉を茂らせているだけで、私の問いかけには何の反応も示さなかった。
