『カシスウー論』 ~吾妻橋の貝料理屋『海作』編~
こんにちは イイダテツヤです。
第58回『カシスウー論』は吾妻橋にある貝料理専門店『海作(かいさく)』編です。
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吾妻橋と聞いて、「ああ、あの辺か」とすぐに思い当たる人はなかなかの東京通だ。
少なくとも下町通とはいえるのではないだろうか。
そんな人にはわかりきった説明だろうが、
吾妻橋とは浅草から隅田川を渡った向こう側のことです。
浅草には吾妻橋と駒形橋という大きな橋が二つあって、
そのうちの吾妻橋のほうを渡り、しばらく歩くと大きな交差店に出る。
交差店の真ん中あたりまで行って、(車に気をつけながら)左を見ると、
建設中のスカイツリーがどか~んと見える。
その大きな交差店の右前方の角に、隠れるようにたたずんているのが貝料理『海作』だ。
文字通り隠れるように建っていて、入口はとにかく小さいので、
本気で『海作』へ行きたい人は、私の言うことを信じ、その場から離れることなく、
丁寧かつ粘り強く周辺を探してみてください。
すると、貝料理『海作』の入口はこちら、という看板というか、張り紙というか、
いずれとも呼べない表示に気がつくだろう。
貝料理専門というだけあって、ひたすら貝を味わう店だ。
季節にもよるのだろうが、個人的な感想としては、地蛤が本当においしかった。
蛤を焼いてあるだけのシンプルな料理だから、素材がかなりいいのだろう。
銚子のような港町へ行くと、道端で蛤を焼いて食べさせてくれるところがけっこうあるが、
あの手のいわゆる“地元系”を除くと、『海作』の蛤が一番おいしいと私は思った。
あっちこっちの貝を食べ歩いているわけではないので偉そうなことはまったく言えないけれど、
まあ蛤はおいしいです。たぶん、きっと、でも本当に。
貝好きの人は、一度は訪れてみてください。
ただし、店の雰囲気はいわゆる「常連さん向けの居酒屋」以外の何ものでもない。
初デートで「貝でも食べよっか?」と気軽に訪れる店ではない。
それと、最初から最後までとにかく貝ということも、多少は考慮しておくべきだ。
好きな人には問題ないが、
「別に貝は嫌いじゃないよ」という程度の人にとって、最初から最後まで貝というのは、
軽めのボディーブローをわき腹に受け続けるようなけっこうヘビーな戦いになる。
最初も貝、次も貝、中盤の山場も貝で、最後のシメも貝というのは、
想像よりも、いささかタフだということを覚えておいて欲しい。
さて、明るいうちから吾妻橋界隈を歩く機会があったなら、
スカイツリーの近くまで足を伸ばしてみるのもいい。
私のいつものパターンなのだが、平日の昼間にぽっかり時間が空いたので、
建設中のスカイツリーに向かってとぼとぼと歩いてみた。
吾妻橋からなら歩いて十分くらいの距離だ。
すすめておいてナンだけど、
スカイツリーというのは、遠くから見ている分には「おお、あれがスカイツリーかぁ」
とちょっとした感動があるものの、根元まで近づいてみると、意外なくらい高さを感じない。
私が訪れたときすでに350メートルを突破し、東京タワーよりも高くなっていたし、
サンシャイン60(約240メートル)よりも100メートル以上高いというのに、
「へえ~、こんなもんか」という印象しか受けないのだ。
東京タワーを真下から見ると、グイッとそびえ立つ威圧感があるのだが、
それよりも高いはずのスカイツリーには、その迫力がない。
あれはどういうわけかな。
形とか、色とか、模様みたいなものが関係しているのかな。
いずれにしても、この先200メートル以上高くなるのだから、
完成したときには「おお、こりゃすげえ」ってことになるのかもしれないけど、
いまのところは「ふ~ん、なるほど」という程度だ。
私にとっては、スカイツリーの高さよりも、立地のほうがはるかにインパクトがあった。
知ってる人も多いだろうが、ツリーが建っているのは東武伊勢崎線・業平橋駅のすぐ横だ。
これがホントにすぐ横なのだ。
ものすごい巨人が細長い棒を握って、駅舎をグサっとやろうとししたら、
ほんの少しだけ手元が狂って、すぐ横を刺してしまったという感じだ。
たまたまそこに適した場所があったとはいえ、
あんなちっぽけでローカルな駅のすぐ横に、世界最高のタワーを建てることないのに。
あの組み合わせはとにかく異様だ。
いまでも十分異様だけど、スカイツリーが完成したらもっと異様になるはずだ。
余計な心配だけど、ツリーが完成して大勢の人が押し寄せるようになったら、
あの小さくて慎ましやかな業平橋駅は、その勢いを支えきれるのだろうか。
名も知れぬ売れない演歌歌手が、
ワールドカップのオープニングゲームで国歌を斉唱するような、不安でたまらないミスマッチだ。
完成が近づいたら、業平橋の駅長は夜も眠れなくなるだろう。
毎晩、深夜三時くらいになると、押し寄せる群集に自分が押しつぶされる悪夢にうなされ、
ガバッと飛び起きてしまうはずだ。
世界最高を誇る巨大な化け物と押し寄せる群衆。
もはや、これはホラーなのだ。
そんな難敵に対抗するには、業平橋駅はあまりにひ弱だ。
浅草という関東随一の観光地の影に隠れて、
「春には桜がきれいなんですよ」なんてのほほんと生きてきた、凡庸で、ある意味愚鈍な駅なのだ。
もしかしたら、ツリーの完成に向けて業平橋駅も改築するかもしれないので、
ぜひいまのうちに、化け物に飲み込まれそうなひ弱な駅を見ておくことをおすすめする。
成長を続ける化け物と、その足元で戦々恐々とするちっぽけな駅。
この対比こそ、私にとってはもっとも印象的な光景だった。
ちなみに、東武線に乗ると
「東武ワールドスクエア」というアミューズメント施設の中吊り広告がある。
その広告によると、日光・鬼怒川の東武ワールドスクエアでは
1/25スケールのスカイツリーがすでに展示されているという。
肝心の本物が完成してないのに、
先にミニチュアをつくって、観光の目玉にしようと宣伝しているのである。
これではまるでニューヨークの自由の女神が完成する前に、
お台場に「自由の女神もどき」をつくってしまうようなものだ。
したたかと言えばしたたかだけど、
バカげていると言えば、これ以上バカげた話はない。
業平橋駅が受けているプレッシャーと苦悩の日々に比べると、
東武ワールドスクエアのやっていることは、じつにのん気で、身勝手で、無責任だ。
業平橋駅の苦悩を尻目に、
ばったもんでひと儲けしようなんて、ふてえ野郎じゃないか。
しかし、それも人生というものだ。
がんばれ、業平橋駅!
そして、できることなら、
きれいに改築して、立派な駅になんてならないでくれよ・・・
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