『カシスウー論』 ~京橋の『ペンステーション・カフェ』編~


 あけましておめでとうございます。 イイダテツヤです。
 今年も『カシスウー論』をどうぞよろしくお願いいたします。

 去年までは「菓子酢ウーロン」というペンネームをときどき使っていましたが、
 びっくりするほど浸透しなかったので、これからはイイダテツヤと名乗ることにしました。
 名前なんて本当はどうでもいいことなんですが、まあ、一応、気持ちの問題ということで・・・・
 
 さて、第40回『カシスウー論』は、京橋にある『ペンステーション・カフェ』編です。

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 『ペンステーション・カフェ』なんて奇妙な名前がついていると、
 「なんだ、文房具カフェかなんかか?」と誰もが思うだろうが、まさにその通りで、
 ここは万年筆で有名なパイロットが経営しているお店である。

 カフェの2階には「万年筆ミュージアム」が併設されていて、
 万年筆の歴史とか、作り方なんかを教えてくれるらしいが、残念ながら私は一度も行ったことがない。

 普段、私はほとんど万年筆を使っているのだから、
 一度くらい「万年筆ミュージアム」を訪れてみればいいのだが、
 なんとなく、いつもカフェでお茶をして、ときにはちょっと仕事をして、そのまま帰ってしまうのだ。

 万年筆を使うのと、歴史に興味を覚えるのは、根本的に違うことなのだろう。
 毎日靴べらを使っている人だって、靴べらの歴史なんて調べたことはないでしょ。
 まあ、そういうことです。

 しかし、よく考えてみると、『ペンステーション・カフェ』ではカシスウーロンを
 飲んだことさえないような気がする・・・・
 だいたい、そんなメニューはあるのかな・・・・

 「万年筆ミュージアム」に行ったこともなければ、カシスウーロンを飲んだこともない。
 なのになぜ、記念すべき新年一号目に『ペンステーション・カフェ』を選ぶのか。

 『カシスウー論』を毎号読んでくれている人なら、
 「どうせ、アンタのネタが切れてきただけでしょ!」と思うかもしれないが、
 今回ばかりはそうではない。

 新年の第一号にこの店を選んだのは、
 『ペンステーション・カフェ』の場所が、箱根駅伝の走路になっているからだ。

 新年といえば、箱根でしょ。
 異論・反論があっても、なくても、新年といえば『箱根』なのです。

 『ペンステーション・カフェ』は京橋の交差点から、中央通りを少しだけ日本橋方面に進んだ右手にある。
 「PILOT」という大きな看板が出ているので、場所はすぐにわかると思う。

 わざわざ目指していくようなカフェではないが、万年筆の歴史に一角の興味があるとか、
 たまたま近くまで来て、スタバやエクセルシオールが軒並み混雑している場合などには、
 ぜひ使って欲しいお店である。
 
 店内は広々としているし、おおむね居心地は悪くない。
 そして何より(といっても、一年のうち364日は関係ないのだが)箱根駅伝・復路のコースとなっている。

 箱根駅伝に興味があまりない人でも、1月3日の午後1時くらいに起き出したとき、
 「どうせなら、箱根のゴールだけでも見るか」と思うことがあるだろう。

 そんなとき、ピッとテレビをつけてみると、
 最終10区を走るトップのランナーが京橋の交差点に差し掛かっている。

 京橋からは中央通りを日本橋に向かい、(ペンステーション・カフェを右手に見ながら)
 風情があるのか、ないのかわからなくなってしまった日本橋を渡る。

 橋を渡るというより、高速道路の高架下をくぐる感じで通り抜けると、
 三越前を左折して、そのままゴールである大手町・読売新聞社前へと続く。

 この時点ではほぼ勝負が決しているので、「ゴールする」という以外とりたててドラマはないのだが、
 往復で200キロ以上の距離を10人で襷をつないできたのだから、
 それなりの盛り上がりがあってしかるべきである。

 ゴールテープの先に待ち構えるチームメイトを目指し、
 沿道にできあがった三重、四重の人垣からの大歓声を受けながら走り抜ける。

 トップの大学、あるいは目標順位を達成した大学には、最高の瞬間だろう。


 そもそも、私は熱烈な駅伝ファンというわけではないが、子どものころから、
 箱根駅伝だけには馴染みがあった。

 私の父親は中学のころ陸上をしていて、
 以前、順天堂大学の駅伝監督だった沢木啓祐という人と同級生だったらしい。

 大阪のオヤジがつきそうな中途半端なウソだと思っていたら、
 沢木監督から年賀状が届いていたので、どうやら本当だったようだ。

 ちなみに、私が幼いころは箱根駅伝のテレビ中継はなく、
 正月2日になると、朝からラジオの前にかじりついて、
 順天堂大学の順位を確認するのが、我が家の恒例行事だった。

 お目当ての順天堂大学は、箱根に50年以上連続出場している名門校だが、
 2010年はついに出場できなかった。

 箱根駅伝は、前年の大会で10位以内に入ると自動的に翌年のシード権(出場権)が得られ、
 それ以外の大学は秋に行われる予選会に出場し、
 成績優秀な10チームが選ばれるという仕組みになっている。 

 2009年の順天堂はその両方ともに敗れ、出場権を失ってしまったのだ。

 順天堂が不参加とは、それだけ年月が流れたとも言えるし、
 新しい力が台頭してきた証明でもある。


 年末から年始にかけて、私は『風が強く吹いている』(三浦しをん著)という小説をちょうど読んでいた。
 ほとんど陸上経験のないメンバーを寄せ集めて、無名の大学が箱根駅伝を目指すという物語だ。

 箱根駅伝というのは、20キロを一時間で(もちろん一人で)走りきるのが当たり前の世界なので、 
 素人がちょっと練習して出場できるという生やさしいものではない。

 その意味で『風が強く吹いている』は、ある種のファンタジーなのだが、
 やはり、読んでいればそれなりに熱くはなってくる。

 予選会から始まり、大手町のゴールに至るまで、
 優勝争いだけが箱根駅伝の魅力でないことを、存分に感じさせてくれる傑作だ。


 もともと駅伝とは、一本の襷をメンバー全員でつないでいくレースだが、
 箱根駅伝には、繰り上げスタートという非情なルールが存在している。

 先頭から20分以上離されたチームは、
 問答無用で(別の襷を肩にかけて)スタートしなければならないという決まりだ。

 襷を受け渡すはずだった中継所にやってきた前走のランナーは、
 最後の直線に入ると、中継ライン上にチームメイトがいないことを知る。

 「仲間がつないできた襷を自分が途切れさせてしまった」という厳しい現実だけが、
 そのランナーに襲いかかるのだ。

 ほとんどのランナーがその場で崩れ落ちるようにしゃがみこみ、涙を流す。
 箱根駅伝のなかでも、もっとも過酷で、ドラマチックな瞬間だ。

 2010年の大会では、9区から10区への中継で唯一亜細亜大学だけが、襷リレーをできなかった。
 9区のランナーが繰り上げスタートに間に合わなかった時間はわずか45秒。

 復路(6区から9区まで)だけでも4時間以上走っているのに、
 わずか45秒間に合わないために襷をつなげなかったのだ。 

 その数十秒を埋めるために、これからの一年間、
 文字通り血反吐を吐くような練習を重ねることになるのだろう。
 
 
 箱根駅伝の公式サイトには、「次回大会まで、あと362日」という
 ほとんど無意味なカウントダウンがされているが、
 少しでも興味をそそられた人は、他局のお笑い番組を織り交ぜながら、駅伝中継を見て欲しいと思う。

 そして、もし亜細亜大学が出場していて、見事に一本の襷をリレーして大手町に帰ってきたときには、
 彼らの一年間を称えてあげよう。

 箱根駅伝には、地味だけど、けっこう熱くなる、そんな楽しみ方もあるのだ。


 そして、もし『ペンステーション・カフェ』が画面にちょっとでも映り込んだときは、
 「おっ、カシスウー論に書いてあった店だ!」とさらに興奮してください。

 まあ、そのころには忘れてるだろうけどさ・・・・



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