『天皇を覚醒させよ 魔女たちと宮廷工作』(若杉良作)読了。
戦前から戦後にかけて、新興宗教がいかに皇室に関わったか、幾つかの事例や、ま
た事例それぞれのつながりなどを紹介していく。
面白い題材の本だなあと、ほぼジャケ買いのように手に取った。著者のことは本書
で初めて知ったが、経歴を見ると『ムー』編集部出身とのことで、成程といったと
ころ。その後、『新潮45』編集長なども務められたとのこと。
本書は幾つかの章に分かれているが、冒頭は昭和40年代に起こった「宮中魔女追放
事件」が取り上げられる(他にも「宮中魔女事件」「魔女追放事件」との呼び方も)。
事件の概略は「新興宗教に影響された宮中の女官が、皇后らに影響力を行使して宮
中祭祀にも口出しをするようになったため解雇された」というもの。オレはこの事
件については、概略以上の内容は知らなかったが、本書にて、実態はかなり異なる
内容だったと知った。
事件の中心人物である今城誼子(羽林家出身)は、元々は大正天皇の妃である貞明
皇后の女官として宮中に入り、その後、昭和天皇の妃である香淳皇后の女官として
仕えた。貞明皇后は、宮中祭祀には厳格な考えを持っていた方で、今城は、その影
響を強く受けていた。これに対し、昭和天皇の高齢化と共に、『入江相政日記』で
有名な入江ら側近が宮中祭祀の簡素化を進めたが、今城と衝突。結果的に今城が退
官に至るというのが大まかな流れだ。
本書を読んで驚いたのが、天皇の宮中祭祀の忙しさだ。公務以外に様々な祭祀があ
ることは知っていたが、歴代天皇に対する祭祀の頻度など考えると、ちょっと信じ
られないようなスケジュールで、入江らが簡素化を進めたことも理解できる。
一方で、象徴天皇としての公務はあるものの、歴代天皇が続けてきた祭祀を簡素化
することに抵抗感があるという今城らの姿勢も、天皇の本質が祭祀王であることを
考えれば、至極当然と思えるのだ。
結局のところ、象徴天皇という考え方が、天皇本来の祭祀王としての在り方と合っ
ていないことが問題だと思うが、戦後、憲法改正のまともな議論が出来ない状況が
現在に至るまで続いていることを考えると、日本国民としては、天皇陛下に対して
申し訳ない気持になってしまった。
2章以降は、時代を遡り、戦前の新興宗教団体による皇室へのアプローチが語られ
るが、『ムー』的に、この辺りがとても面白い。
2章の軸となるのは塩谷信男という東京帝国大学出身の歴とした医師なのだが、一方
で所謂「手かざし」治療も行い、後々、皇后にも施術をすることになる。その過程
で塩谷は様々な団体・政治家・軍人らと関わっていくのだが、結構なビッグネーム
も登場し、そんなところに繋がっているのか、、と感心した。
3章以降は、その他の女官・宗教団体による皇室へのアプローチについても取り上げ
られ、出口王仁三郎や竹内巨麿、松本清張の『神々の乱心』の元ネタとなった島津
治子なども出てきて、日本のオカルト業界オールスターズの様相で興味深い。
魅力的なエピソードが様々紹介されるが、荒木貞夫や東条英機らが参謀本部で竹内
巨麿と面談していたことは知らなかったので、特に驚いた。
色々な組織、登場人物が入り乱れており、全体像が掴みにくいところもあるが、昭
和の裏面史に興味があれば面白い本だと思う。
オレが小学生の頃、京橋の今は無きダイエー前で、見知らぬオバハンから「あなた
の血を浄化させてください」とか言われて、手かざしをされたことがある。当時は
死ぬほど怖くて半泣きで手かざしを受けたという、クダらない記憶が呼び覚まされ
たな。
今なら、手かざしの効能や修行方法、色々と質問できて面白かっただろうに、残念
なことだ。