『なぜ秀吉は信長を呼び捨てにしたのか』(本郷和人)読了。
本郷和人はテレビや雑誌の歴史特集で、磯田道史と並んでよく見かける歴史学者だ。
プロフィールを確認したところ、東京大学史料編纂所教授とのこと。専門は中世史
となっている。
本郷氏は、新書などの軽い歴史読み物の著作がかなり多く、肩ひじ張らずに読める
ので、たまに購入している(読み流すタイプの本が多いので、間違ってダブって購
入したこともある)。本書も、そんな気軽に読める1冊。
取り上げられているのは、織田信長、豊臣秀吉はじめとする小説・ドラマ・ゲーム
等の題材として良く取り上げられる有名武将で、それぞれ、実像がどうだったか、
最新の研究や本郷氏の見解を紹介している。
内容的には、目新しい内容は多く無く、過去の本郷氏の著作で取り上げられた内容
と重複するところもあるが、ガキの頃から光栄の影響で戦国時代は好きなので、深
く考えずにざーっと読むには面白いと思う。
例えば、織田信長については、近年の研究では「信長は大したことが無い」との方
向性で語られるのが一種のブームになっている。例えば「天下布武」という言葉の
「天下」は日本全国ではなく近畿を指しているので、信長は特別、スケールの大き
な戦国武将ではなく、信長以前の畿内の覇者である三好長慶と同程度の人物、、、と
いった見解をはじめ、ガキの頃に「信長カッコええなあ」とか思った人間には違和
感ありまくりの説が結構、出ているのね。ただ、本郷はこれら近年提示された説に
は批判的な立場から発言をしており、その辺は、オッサンには読みやすい。
出典が提示できないのだが、以前に本だか動画だかで、「新たな発明・発見が論文に
つながる理系の学問と異なり、文系の学問では新たな発見がなかなか出てこないの
で、定説に対する突飛な考え方を新説のように述べる傾向がある」といった趣旨の
話を聞いて成程と思ったことがある。
この信長に関する新説などは、正しくこの類と感じてしまうな。
あと、へーと思ったことを少し書いておく。
1つは、浅井長政の「浅井」の読み方について。オレがガキの頃は「あさい」だった
が、近年、すっかり「あざい」という読み方が定着しているが、本郷はこれに違和
感を提示している。
現在の地元での読み方では「あざい」だが、平安時代の辞典である『和名抄』では
両方併記されており、必ずしも「あざい」が正ではないとの指摘。過去の大河とか
で「あざい、あざい」と連呼されたいた記憶があったので、まだ定説ではなかった
のか、とちょっと驚いた。
もう1点は、薩摩の「肝練り」について。薩摩武士が強かった背景として紹介されて
いたのだが、オレは肝練りは創作だと思っていたので、歴史学者が本で取り上げて
いるのが驚きだった。
改めて少し調べたところ、『甲子夜話』には出てくるものの、他の資料では出てこな
いとのこと(ちなみに「肝練り」という名称は出てこない)。本郷が『甲子夜話』以
外に肝練り実在説の根拠を何か持っているかは、ちょっと分からない。
結局のところ、定説であれ異説であれ旧説であれ新説であれ、確証の得られない問
題については、自分が信じたい説を信じるのが正解ではないか。
従って、邪馬台国は九州にあっても良いし、畿内でも良い。もちろん、吉備でも出
雲でも四国でも良いし、沖縄でも韓国でもジャワでもエジプトでもムー大陸でも良
い(※これらの説を述べている人間は本当に存在する)。その方が人生、多少なり
とも楽しく豊かな気がするね。