『ある海軍予備学生の自画像』(阿川弘之)読了。
阿川弘之による中・短編10篇が収録されているが、『青葉の翳り』はじめ、阿川の他
の短編集に収録されているものばかりなので、小説目当てであれば、他で読でいれ
ば、わざわざ買わなくても良いかなという構成。
オレは中高生の頃に提督三部作を読み、その後、阿川の随筆の面白さにハマった時期
があり、著作は随分と読んできた。今回、本書に収録されている小説はいずれも知っ
ているものだったが、巻末の阿川と大岡昇平との対談が読みたくて購入した。
阿川も大岡も世代的に「軍人として大東亜戦争の現場に参加している」人間なので、
話している経験のリアリティや、同時代の人間でなければ分からない感覚が語られて
いて、本当に面白い。終戦を知った際の感想や周囲の状況、また、引き上げ開始後の
兵たちの様子など、今ではなかなか聞く機会の無い話だ。
また本書には、大岡だけではなく、阿川と半藤一利の対談も収録されている。こちら
もそれなりに面白いのだが、戦中、半藤はまだ小学生のため、あくまで「戦時下の
生活を知っている」人間としての経験がメインになるので、大岡との対談ほど面白い
とは感じなかった(それでも隣組の鬱陶しい人間の話などは、コロナ禍のマスク警察
のような連中を想起させて面白かったが)。
この数年、旧メディアが終戦記念日前後の戦争特集番組で当時を語っている連中は、
半藤よりさらに年少者がほとんどなので、幼少の頃の何となくの記憶と戦後の後付け
の知識で語っているので、あまり面白くないんだろうね(「戦争は良くない」とか、
通り一辺倒な内容になる)。
旧メディアも無理矢理な生き証人など使わず、阿川や大岡のような実体験のある世代
のアーカイブ映像を使った方が、よほど良い内容の番組が出来ると思うんだけどな。
オレの母方のじいさんも、阿川らと同世代で、陸軍一等兵として台湾に派兵された
と聞いたことがある。バシー海峡で輸送任務をしていたらしいが、魔の海峡で良く
生き残ってくれたものだと思う。晩年になるまで、戦争のことは余り話したがらな
かったが、わずかながら話してくれたことは、いずれも忘れてはいけないことだと
思っている。
それにしても、阿川弘之が亡くなったから、もう10年が経ったことに驚く。面白い
作品が多いので、未読の方にはぜひお勧めしたい。
阿川が随筆で、著作者死去後の著作権を延長する活動について、「死後何年も経って
自分の著作が売れると考えているのがお目出たい」旨のことを書いていたが(表現
はもっときちんとしていたが)、少なくともオレは10年経っても、あなたの作品を
まだ楽しく読んでいますよ、と言いたいね。