DIAMOND 男の健康 第29回より引用
数ヵ月前くらいだろうか、facebookのタイムラインに、「グリシン」(サプリメント)の広告が何度も表示される時期があった。読者の中にも、最近、あちらこちらのサイトで「グリシン」を目にしている、という方も少なくないのではないだろうか。そこで今回は、このあまり聞き慣れない「グリシン」を巡るあれこれを考えてみたい。
まず、「グリシン」とはどんな化合物なのか? と言えば、タンパク質の構成要素となる20種類のアミノ酸の中で、構造が最も単純な(したがって分子が最も小さい)非必須アミノ酸が「グリシン(H2NCH2COOH)」である。
そして、この最も単純で、かつヒトの体内で合成可能でもあるアミノ酸、グリシンが、睡眠の質を高めてくれる効用があるとして、注目されているようなのだ。
ここで睡眠の話に移る前に、グリシンが生体内でどのように利用されているのか、その主な役割を簡単に整理しておいたほうがよいだろう。
1. コラーゲンを構成するアミノ酸の3分の1をグリシンが占める。
2. ヘモグロビンやミオグロビンなどの骨格となるヘムの原料となる。
3. 最も重要な細胞性抗酸化物質であり、解毒作用も有するグルタチオンの原料となる。
4. 筋肉中に貯蔵され、エネルギー源として利用されるクレアチンの原料となる。
グリシン自身も体内で合成される非必須アミノ酸の一つであるが、上記のように、ヒトが生きていく上で欠かせない重要な物質の原料となっている。
就寝2時間前のグリシンが早く深い眠りに誘う
以上で見てきたように、グリシンは栄養素として非常に重要であることに間違いはないが、睡眠の質を高めてくれる効用もあることが分かってきている。
味の素社の関連組織である「いきいき健康研究所」のWebサイト内に「学術情報」というコーナーがあり、各学会で発表された内容(要約)を閲覧することができる。
これらの学術情報によれば、グリシンを(積極的に)摂取することにより、大きく2つの効能を期待できることが分かる(個人差があるので、あくまで“期待”)。
一つは睡眠の質の向上。特に寝入り端に効くようで、より早くより深いノンレム睡眠(熟睡)が得られるという。結果、起床時の疲労感が軽減され爽快感が増すとのことだ(「よく眠れた」のであれば、そのような実感につながるのは当たり前であるが)。「寝付きが悪くて……」という人には朗報かもしれない。
もう一つは、“肌に効く”という面。同コーナーには、〈肌の水分を維持〉〈肌質を改善〉といったフレーズも並んでいる。具体的には、〈経表皮水分蒸散量の顕著な低下が有意に認められたことより皮膚バリアー機能の改善が認められた〉〈角層におけるIL-1ra/IL-1α比の顕著な低下が有意に見られることよりスキンケア効果(敏感肌改善効果)が認められた〉とある。
後者の実験結果は、〈グリシン食品摂取期と非摂取期との比較〉によって得られているため、よく眠れたから肌にも良かったのか、睡眠の質の変化とは独立に効果が得られるのかは微妙なところであるが、常識的に考えれば、睡眠の質が良くなれば肌質も改善されるのは当たり前だろう。
なお、いずれの実験も、〈就寝2時間前にグリシン3g〉を基準としている。直感的には、同じアミノ酸の一種である化学調味料(グルタミン酸ナトリウム)3gとなるとけっこうな量に思えるが、味はエビやカニに特徴的な旨味を伴った弱い甘味があり、水などと一緒に飲むのであれば苦痛になるようなことはなさそうだ。
これほど評価が分かれるサプリメントは珍しいかも
となると、あとは値段と効果の問題ということになる。amazonで販売されているグリシンサプリをざっと見ると、1回当たり5円前後から200円近くまでと、ビタミンCと同様にかなりの開きがある。また、レビューを眺めてみると……これほどまでに差が出るものなのだろうか、効果の程(使用実感)は両極端としか言いようがなく、けっきょくは自分で確かめてみるしかなさそうだ。
と、ここまで読み進めてこられて、一つ気がついたことがあるかもしれない。〈コラーゲンの3分の1がグリシン〉ならば、日頃からコラーゲン質を(特に夕食時に)摂っていれば、きちんと消化できている限り、同様の効果を得られているのではないか? ひょっとすると――どんなサプリメントでもそうなのだろうが――効くも効かないも、日頃の食生活の違いに起因しているのかもしれない。