「なぜ、潮の満ち引きが起きるのか?」で疑問が山積したので再検討しました。
Ⅰ.南鳥島の満ち引きが通常と異なる点
南鳥島では、1日に満潮1回と干潮1回という日が2021年は毎月あり1年間で合計135日、干潮か満潮が1回だけの日が1年間で10日もあるなど、通常と異なります。国立天文台の「潮汐力(起潮力) 」にこの疑問の答えと思われる情報がありました。
図1.潮浪進行図(図のみ抜粋)
図2.潮汐モデル(緯度経度の補助線を引き南鳥島と父島の位置はTTLが記入)
そして、国立天文台のHPには図2の説明として下記の文書が付いています。
図中の放射状の黒線は同時刻に於いて高潮(満潮)あるいは低潮(干潮)になるすべての点を結んだ線(等潮時線)です。等潮時線は、普通ある点(無潮点)を中心として放射状に成り、無潮点を中心として反時計回り(北半球)に回ります。その様になるのは長波の伝播に伴う海水の移動は地球自転に伴うコリオリ力の影響を受けるためです。コリオリ力により、北半球では進行方向に対して右側の岸に海水が押しつけられ岸側(右側)の水面が盛り上がります。それが岸(壁)に沿って反時計回りに移動する波となる。このような波が存在する事を最初に指摘したのがケルビンなので、この波は“ケルビン波”と呼ばれます。
ケルビン波の簡単な説明はこちらを、詳細な説明は別稿「動力学的潮汐理論におけるケルビン波(1879年)」をご覧ください。
無潮点: 潮汐による海面の昇降が起こらない地点。
図2に緯度経度を元に南鳥島と父島の位置をTTLが記入しました。これを見ると南鳥島には満潮干潮の時間差や海面高度が密になっています。これが原因で南鳥島や父島の潮汐の様子が通常と異なるようです。世界を見ると図3,4のようになっています。
(出展:潮流・潮汐の話 柳哲雄著 創風社出版)
図3. 世界のM2分潮の同時潮図
図4. 計算によるM2分潮
M2分潮:月の引力によって起こる分潮で、12.42 時間の周期で干満を起こし、振幅が最も大きい基本的な分潮
なぜこんな現象が発生するかというと、大陸に潮流がぶつかり反響し波が共鳴や打ち消しあったり、海峡を通るためだったりなどなど、地球規模なことなのでここでは割愛します。 (参考 ブルーバックス B-1593 海のなんでも小辞典 道田豊 他 著 講談社)
しかし、南鳥島をサンプルにしたのは、あまりに無知でした。
Ⅱ.潮汐力の変化と潮の満ち引きの関係
京都府は日本海側にしか海がなく、日本海の潮の満ち引きは特殊なので関係を見るには適切な地点ではありません。そこで、京都と月の南中時刻がほぼ同じ太平洋に面している和歌山県串本の潮の満ち引きを見ます。
■京都(緯度:35.0167° 経度:135.7500°)の南中時刻と南中高度
(2021年4月26日23時30分,46.5度)
次は (28日0時25分,40.2度)
■和歌山県 東牟婁郡 串本町 串本
緯度: 33°29′N (33.48°)
経度: 135°46′E (135.77°)
計算サイトで求めた値
(2021年4月26日23時29分58秒,48.0672度)
次は(28日0時25分8秒,41.7712度)
図5.京都大学理学部1号館の重力変化と串本の潮の満ち引き
通常、月が南中してから満潮になるまで普通数時間遅れると言われます。しかし、第Ⅰ章で調べたように潮の満ち引きと月の位置の関係は場所によって異なるので、ほとんど重なっているのは偶然の一致だと思います。
次は、京都大学理学部1号館とほぼ北緯の等しい千葉県 勝浦市 興津と和歌山県串本のデータ比較を行います
図6. 勝浦市と串本の潮の満ち引き
ずれを明確にするため表にまとめました
図7. 勝浦と串本の潮の満ち引きと月のデータ
月の南中時刻は、経度で計算しても実際でも約18分勝浦の方が早いが、干潮満潮時間は約1時間20分から1時間30分勝浦の方が早い。これは、図1の結果とほぼ同じでした。
したがって、潮汐力の変化と潮の満ち引きの時間差は、場所によって変わることが判りました。
Ⅲ.月の南中高度と満潮最高潮位との関係
月の南中高度が高いと図8のようになるので、月側の満潮最高潮位が高くなると説明されています。
図8. 冬季における満月時のイメージ
月の南中高度は
高くなる:新月の夏、満月の冬
低くなる:新月の冬、満月の夏
しかし、南鳥島では満潮のピークは図8とは異なっていました。
[なぜ、潮の満ち引きが起きるのか?]
https://ameblo.jp/ttl-nikomat/entry-12757941613.html
図9. 月や太陽の南中高度と潮汐の関係(南鳥島の場合)
今回、同日の串本でのデータを掲載します。満月の最高潮位の差はいずれも大きくはないのですが、串本の場合は図9に示した年月日については「月の南中高度が高いと、月側の満潮最高潮位が高くなる」を満たしています。注意:月の南中時刻は目測で作図したので、干潮時刻との関係は正しくない場合があります。
図10.1.満月&南中高度:低
→満月&月逆側膨らみ大
→12時以降に満潮のピーク
図10.2.満月&南中高度:高
→満月&月側膨らみ大
→12時までに満潮のピーク
図10.3.新月&南中高度:高
→新月&月側膨らみ大
→12時以降に満潮のピーク
図10.4.新月&南中高度:低
→新月& 月逆側膨らみ大
→12時までに満潮のピーク
これらを見ると、串本については新月と満月の南中時刻は、
・南中高度が高いと干潮のピーク時刻とほぼ同じ
・南中高度が低いと干潮のピークでない方と時刻とほぼ同じ
という相関性がありそうです。ただし、この年は
夏の満月と冬の新月の時に地球と月の距離が近く
冬の満月と夏の新月の時に地球と月の距離が遠くなるので
そちらとの関係かもしれません。
そこで、同じ夏の満月だが、月と地球の距離が
図10.1は近いが、
図10.5に遠い時の満月のグラフを示す。
図10.5.満月&南中高度:低
→満月&月逆側膨らみ大
→12時以降に満潮のピーク(月と地球の距離遠い)
いずれにしても、相関性を見るには多くのデータが必要です。自由研究のテーマとなりそうなので、学生の方々いかがですか。
なお、毎年、冬の満月は南中高度が高くなります。
しかし、南中高度は約18.6年周期で変動します。
図11.満月の南中高度(国立天文台のHPより)
なぜ、そうなるかは図12を参考にしてください。
図12.月の軌道 (月の基本 白尾元理,小川雄 著 成文堂新光社)
潮の満ち引きも月の軌道も一筋縄では説明できません。これで私の夏休みの自由研究を終わりにしたいと思います。