Ⅰ.アブストラクト(概要)
前回、「なぜ、潮の満ち引きが起きるのか?」https://ameblo.jp/ttl-nikomat/entry-12757941613.html で次の結論を述べました。
①潮汐力は、地球を引き伸ばそうとする「引力起因力」と、地球と月が共通重心を中心に公転するとこで生じる「遠心力起因力」の合計値となると考えました。なぜなら、「遠心力起因力」は月が公転しないと生じない力ですが、「引力起因力」は月が地球から見て静止していても、地球に自由落下していても、地球から遠ざかっていても発生する力です。だから、「引力起因力」は月が公転しているときも発生するはずだと考えたからです。
②「引力起因力」と「遠心力起因力」は、方向も大きさも全く同じ。そして、両方とも地球の各点における月から受ける重力の差で生じます。
③地球表面で月側も月と逆側も、月からと太陽から受ける潮汐力を単純に加算した力が天体から受ける潮汐力となります。
そして太陽が与える潮汐力にも「引力起因力」と「遠心力起因力」があるので 計4種類の力の影響で潮の満ち引きが発生しているのではないかと考えました。
今回、この仮説が正しいか否か、精密な測定結果をインターネットで見つけたので計算しました。
Ⅱ.インターネットから得た情報
京都大学 理学研究科 測地学研究室 風間卓仁助教がインターネットに掲載された「重力加速度は9.8じゃない!?」の章「重力は時間的に変化する」に次の記載がありました。
https://www.eps.sci.kyoto-u.ac.jp/research/introduction/07/index.html
外部天体との位置関係の変化によって、地球には潮汐力(起潮力とも)という力も加わります。 図4-2(※図1)は京都大学理学部1号館の地下で満月の日(2021年4月27日)に観測された重力時間変化です。 月が地球の周りを公転している影響で、半日周期の潮汐変動が観測されています。 潮汐変動の大きさは各緯度によって異なりますが、京都の場合peak-to-peakで 300 micro-Gal を超えることもあります。
図1. 潮汐力に伴う重力時間変化(補助線とピーク値はTTLが挿入)
このグラフを目測すると、最大値は 118 micro-Gal 最小値は -178 micro-Galなので、この日のpeak-to-peakは 296 micro-Gal(= 2.96×10-6 [m/s2])となります。
これが、月と太陽の「遠心力起因力」だけなのか、それとも、月と太陽の「遠心力起因力」と「引力起因力」の合計値、すなわち、月と太陽の「遠心力起因力」の2倍の値なのかを調べれば良いと気が付きました。
ちなみに、潮汐力が最大となる「月、地球の中心、観測点、太陽が一直線に並ぶ時」の値を国立天文台の潮汐力(起潮力)
http://fnorio.com/0010tidal_force1/tidal_force.htm
の値で計算すると
月による潮汐力 + 太陽による潮汐力
= 1.1 × 10‐6 m/s2 + 5.0 × 10-7 m/s2
= 1.6 × 10-6 m/s2
のなので、296 micro-Gaはその値の1.85倍、引力を増す力はそんなに大きくないと思うので(2022/8/17訂正 実は大きかった)、計算する価値はあると思います
Ⅲ.月の遠心力起因力計算に必要な諸元値と月が重力に与える変動幅
1. 京都から地球の中心までの距離=地球の半径(図2,4,5,6のOA, O‛A‛)
地球は赤道が膨らむ楕円形なので京都から地球の中心までの距離を
「緯度・経度と地心直交座標の相互換算」
https://vldb.gsi.go.jp/sokuchi/surveycalc/surveycalc/transf.html
で求めます。
その結果、OA:地球の半径 = 6,371,231[m]とします。
これは、赤道での半径 6,378.137[km]の99.9%
極半径 6,356.752[km]の 100.2%になります。
2.地球の中心と月の距離(図2,4,5のOB, O‛B)
国立天文台 暦象年表 令和3年 2021年で月との平均距離(384,400[km])に対し、4月27日は0.9307483倍であるとのデータを得ましたので
OB:月までの距離= 357,779,647[m]とします。
3.京都の緯度
国立天文台 暦計算室 「各地のこよみ」
http://eco.mtk.nao.ac.jp/koyomi/dni/
で得られるの京都の値(緯度:35.0167° 経度:135.7500°)を使用します。
4.月の位置
2021年4月27日は満月です。計算に必要なのは、図1で京都の重力が最低になる2021年4月27日12時ごろ、つまり京都から見て地球の真裏に月がある時刻の月と地球の中心と京都が成す角度(図4の∠AOB=∠O)です。そのため、まず図2のように、京都から経度で180°西、緯度は京都と同じ地点A’で考えます。
図2.月の位置
∠A’O’B = ∠O’
= 京都の北緯 + 月が真上に見える緯度
京都における月の南中高度は前述の国立天文台 「各地のこよみ」で求めますが、これには月の南中時刻しかデータがないため、2021年4月27日12時ごろのデータはありません。そこで、「各地のこよみ」で得られた同年4月と5月の南中グラフを図3に示します。
図3. 京都における月の南中時刻と南中高度(2021年4月から5月)
これによると京都の南中と南中高度は(前日26日23時30分,46.5度)、次は (28日0時25分,40.2度)なので求める27日12時のA’地点での南中高度はその中間値 43.35度とします。したがって
∠a’ = 90 + 43.35 = 133.35度
となります。
求める∠O’は余弦定理と根の公式を駆使すれば求まると思いますが、今回は図2で
∠O’= 京都の緯度 + 月が真上に見える地点の緯度
A’P = O’A’・sin∠o’
A’P = BP ・tan∠ b
= (O’B – O’P) ・ tan∠ b
= (O’B – O’A’・cos∠o’) ・tan(180 - ∠o’- ∠a’)
なので、月が真上に見える地点の緯度の値を適切に変更し上記式が成り立つ近似値を求めました。その結果
月が真上に見える地点の緯度 = -10.8 度
つまり、南緯10.8度を得ました。
5. 京都の重力と逆方向に最大となるときの月の遠心力起因力と計算に必要な値
計算に必要な地点を図式化したのが下記の図4 です。
図4. 月の遠心力起因力が京都の重力と逆方向に最大となるときの図
今までで求めた値は下記の3つです。
∠O = (180 - 京都の緯度) + 月が真上に見える地点の緯度
OA = 京都から地球の中心までの距離 = 地球の半径
OB = 月までの距離(地球の中心と月の距離)
ここで下記の余弦定理などを使います。
AB2 = OA2 + OB2 – 2・OA・OB・cos∠O
その結果
AB = 363,599,605[m]
cos∠a = 0.914925312
が求まります。
「月の遠心力起因力」の潮汐力を求めると
月の遠心力起因力 = 1.21664 × 10-6 [m/s2]
(観測点(京都)と地球中心と月が一直線に並んだ場合の約91%)
京都の重力と逆方向に最大となるときの
月の遠心力起因力の鉛直方向 = 1.11313 × 10-6 [m/s2]
= 1.00108× 10-6 [m/s2]
(観測点(京都)と地球中心と月が一直線に並んだ場合の約75%)
(2022/8/15 20:00訂正)
6.京都の重力と同じ方向に最大となるときの月の遠心力起因力
京都の重力と同じ方向に最大となるときは、月と地球の中心を結ぶ線に垂直な位置に京都が来た付近なので、下記の図となります。
図5. 月の引力が京都の重力と同方向に最大となるときの図
(2022/8/16図を差し替え)
計算に必要な諸元はピタゴラスの定理と三角形の相似で求めることができます。
月の遠心力起因力 = 1.21451× 10-8 [m/s2]
京都の重力と同じ方向に最大となるときの
月の遠心力起因力の鉛直方向 = 2.16242 × 10-10 [m/s2]
節5で求めた京都の重力と逆方向に最大となるときの力の0.02%と誤差レベルの力です。
(2022/8/16訂正)
図5において地球を押し付ける力は、潮汐力の力をつかうのではなく、
A点に掛かる月の引力 × cos∠a
で計算する方のが正解でした。
したがって、
図5における月の引力の鉛直方向 = 6.8191 × 10-7 [m/s2]
ただし、図1によると2021/4/27の中で京都の引力が一番強くなるのは19時過ぎです。当日の月の出:18時51分 方位:105.9度(東から南に15.9度)で南中が翌日 0時25分 南中高度 40.2度 なので実際の角度は90度ではないと考えられます。、実際の数値は若干小さくなると予想されます。
7.月が重力に与える変動幅
節5と節6で求めた月の遠心力起因力の鉛直方向の和となるので
月が重力に与える変動幅 = 1.11335 × 10-6 [m/s2] (2022/8/15 20:00訂正)
= 1.0013× 10-6 [m/s2] (2022/8/17 訂正)
= 1.6830× 10-6 [m/s2]
となります。
Ⅳ.太陽の遠心力起因力計算に必要な諸元値と太陽が重力に与える変動幅
太陽の遠心力起因力も月と同様に計算できます。計算に必要な地点を図式化したのが下記の図6です。
図6. 太陽の遠心力起因力が京都の重力と逆方向に最大となるときの図
国立天文台 暦計算室 「各地のこよみ」で、京都における2021年4月27日の南中時刻 11時55分 南中高度 68.9度を使います。
その結果
太陽が真上に見える地点の緯度 = 13.9 度
つまり、北緯13.9度を得ました。
OB:太陽までの距離 = 1.50564 × 10-11 [m]
(= 1.0064559[au] × 149,597,871[km/au]
京都の重力と逆方向に最大となるときの
太陽の遠心力起因力
= 4.6241× 10-7 [m/s2](2022/8/17 訂正)
= 6.1471× 10-7 [m/s2]
(観測点(京都)-地球中心-太陽と一直線に並んだ時の約93%)
京都の重力と逆方向に最大となるときの
太陽の遠心力起因力の鉛直方向 = 6.1471× 10-7 [m/s2]
京都の重力と同じ方向に最大となるときの
(2022/8/17 訂正)
太陽の遠心力起因力 = 1.04873 × 10-11 [m/s2]
京都の重力と同じ方向に最大となるときの
太陽の遠心力起因力の鉛直方向 = 4.43778 × 10-16 [m/s2]
太陽の引力の地球の中心方向の力= 2.4782 × 10-7 [m/s2]
ただし、図1によると2021/4/27の中で京都の引力が一番強くなるのは19時過ぎです。当日の日の入りは 18時39分 方位287.8度(西から北に17.8度)なので実際の角度は90度ではないと考えられます。、実際の数値は若干小さくなると予想されます。
したがって
太陽が重力に与える変動幅
= 4.9613 × 10-7 [m/s2](2022/8/17 訂正)
= 8.6254× 10-7 [m/s2]
となります。
Ⅴ.月と太陽が重力に与える変動幅
(2022/8/15 20:00 訂正)-----------------------------------------------------------
鉛直方向へ力 = 遠心力起因力 × cos∠a
として計算していましたが、これは間違いでした。
図7. 鉛直方向への力
つまり次のように計算しないといけません。
鉛直方向へ力
= 地球の中心での月の引力 × cos(180 - ∠o)
- A地点での月の引力 × cos∠a
この計算、ほとんど同じ値を引くので桁落ちの危険がありますがさほど誤差はなさそうでした。また、非常に遠くにある太陽の場合は、B0とBAはほぼ平行なので、影響は無視できると考えます。また、地球の重力と同じ方向に遠心力起因力が働く場合は値が小さいのでほとんど影響はありません。(2022/8/17 削除)
そこで、「Ⅲ-5. 京都の重力と逆方向に最大となるときの月の遠心力起因力と計算に必要な値」を再計算します。
地球の中心での月の引力 = 3.83111 × 10-5 [m/s2] × 質量
A地点での月の引力 = 3.70944× 10-5 [m/s2] × 質量
鉛直方向への力= 1.00108 × 10-6 [m/s2]
月と太陽が遠心力起因力に従い重力に与える変動幅
= 月が重力に与える変動幅 + 太陽が重力に与える変動幅
= 1.4327 × 10-6 [m/s2](2022/8/17 訂正)
= 2.5455 × 10-6 [m/s2]
となります。この値は、
・章Ⅱで得たpeak-to-peakの値 296 micro-Gal(2.96×10-6 [m/s2]) の約85%
(2022/8/17 複数行削除&2行追加)
つまり、私の説は間違いで、「引力起因力」か「遠心力起因力」のどちらかの力だけが働くことになります。不思議だ。
この答は
に記載しました。
計算間違いや他の説などありましたら、ご指摘のほどよろしくお願い致します。