「これ、大丈夫?」

 

思はず家人に訊く。食卓に出されたマグロの赤身が少し紫がかつてゐる。

 

「大丈夫よ。こんな寒さだし、ちやんと冷蔵庫に入れといたから」

 

三日前にスーパーで買つた刺身であることをぼくは知つてゐる。

 

腐つてゐるとは思はない。味は大丈夫なのかといふ意味で質したのだが、家人は一家の主婦らしく健康第一、腐つてさへゐなければいいでせうといふ口ぶりだ。

 

「嫌だつたら食べなくてもいいのよ」

 

いえいえ、日本酒のつまみに大好物だから頂きますが、「三日前」がやはり気になる。

 

さて話は飛ぶけれど、超短期決戦だつた今回の衆議院選挙は自民党の凄絶な圧勝に終はつた。

 

言はれてゐるやうに、わが国初の女性総理誕生へのご祝儀相場といふ側面はもちろんあるにしろ、冷静に考へれば、実は野党側に選挙に臨む能力も意欲もなかつた。

 

「野党の不戦敗」といふほかない。

 

新党・中道改革連合には選挙をやる体制がまるでできてゐなかつた。

 

何より選挙の表看板にふさはしい清新、魅力的なリーダーを見つけられなかつた。

 

「共同代表」の二人は、共に三日どころか遥か昔に紫がかった「賞味期限切れ」。

 

有権者が「これ、大丈夫?」と首をかしげたのも当然だらう。。

 

有権者は「期限切れ」に敏感だった。

 

惨敗を受けて二人は辞任した。

 

高市首相もさほど清新とは言へないけれど、女性総理といふ目新しさを背に、思惑通り、まづ国際会議など外交ニュースで点数を稼ぎ、間髪を入れずに衆院解散に踏み切つた。

 

選挙戦に入る前から勝負は着いてゐた。

 

同じく賞味期限の切れた、何とかの一つ覚への「対句演説」の女党首が一議席も取れなかつたり、「昔の名前で出てゐます」の政治家たちが相次いで落選、引退に追ひ込まれた。

 

有権者の目は節穴ではなかつた。

 

ことは政治家に限らない。

 

コロナ禍騒動以来レビ出演がなかつた芸人、俳優、歌手たちが、最近、醜聞で消えたタレントの隙間を縫ふやうに続々とテレビに復帰し始めた。

 

視聴者はその芸、容姿、演技などが「賞味期限切れ」か否かを精妙に検分してゐる。

 

衆院選を最後に引退する政治家たちのやうに、彼らも近々、視聴者に呆れられて、再びテレビ画面から姿を消すことだらう。

 

ふと、我に還る。

 

かく言ふ自分も、実はずいぶん前から「賞味期限切れ」になつてゐるのではないか。

 

それに気づかず、旧態依然、友人と会つて酒を飲み、政治を論じ、世情を嘆き、はたまたエッセー塾で文章論を説いたりしてゐるのではないか。