ところはパリのシャルル・ド・ゴール空港。乗り換え便を待つあひだ、空港内のロビーで時間をつぶしてゐた。
ワインの店に列ができてゐた。
いくらフランスでも、空港内のレストランであまり旨いワインは期待できないけれど、機内で飲み飽きたコーヒーよりはマシかと客の列に並んだ。
長い行列だが、列の動きがおどろくほど速い。一度止まつたかと思ふと、次の瞬間にはもう動き出してゐる。
ワイン店のカウンターにゐる中年の女性スタッフの手際がすばらしくいいのだ。
ワインはまづ、コルク栓を抜かなくてはならない。慣れないとこれが一仕事。抜栓が面倒だからワインは嫌い、といふ人もゐる。
ところがこの女性スタッフの手にかかると、まるでビールの栓を開けるやうに軽々と栓が開く。
ふつう、ワインの抜栓は次のやうに進む。
➀瓶のコルク栓をくるんでゐる鉛のシールを、ソムリエナイフで回し切る
➁ナイフの螺旋状のスクリューをコルクの中心に刺す
➂スクリューをコルクの下に押し込む
➃ナイフの端のカギ型の部分を瓶の口に掛け、梃子の応用でスクリューを引き上げ、栓を抜く ➄スクリューからコルクを外す
女性スタッフはこれらの作業を、➀は右へ1秒、左へ1秒の計2秒。コルクの中央に刺すのが面倒な➁も1秒、力仕事の➂は2秒、手慣れた➃は3秒、➄は2秒ほどーーで終へる。
まさに手品のやうに栓を抜く。
素人だと、かなり習熟した人でも、➀に10秒、➁にも10秒、➂に20秒、➃に30秒、➄に数秒の、計1分余は要する。彼女はそれを10秒ほどで完了する。
ワインバーにはよく行くが、こんな抜栓の名人を見たことがない。
ところ変はつて、きのうまで両国国技館で開催された大相撲9月場所。
2004年1月、モンゴルから来日して初土俵を踏んで以来20年、一日も土俵を休むことなく、ことし(2024年)9月10日、伝統ある大相撲の歴史に「連続出場記録1631回」の金字塔を打ち立て、さらに記録を伸ばしてゐる東前頭10枚目・玉鷲(たまわし)一朗、39歳。
体重200キロ近い力士が激突する立ち合ひ、勝負の土俵際では、双方手も突かず、もんどりうつて頭から落下する。
怪我をしない方がをかしい。机に向かふだけのサラリーマンだつて、20年間病気にもならずに「皆勤」するのは容易でない。
格闘技中の格闘技ともいふべき大相撲で、病気も大怪我もなく、連続出場記録を作つた裏には人知れずの苦労と節制があるに違ひない。
とかく話題になる「モンゴル派」とは距離を置き、将来も相撲界に残る決意で、ことし3月、日本国籍を取得した。エライ、スゴイ!といふしかない。
