国が推奨する「家庭医」制度にしたがつて、月に一回、近所の内科医にコレステロール薬と降圧剤をもらひに行くのですが、ことし誕生日を迎へてから、医院に行くのが憂鬱でたまりません。
この歳になつて初めて、自分がさう呼ばれるのだと気づいたのは迂闊といふほかなく、昭和10年代の末に生まれ、「戦中派」とか「戦後世代」とかいふ括られ方をして、さらには、少し後輩たちが「団塊の世代」と呼ばれるのも特段気にかけなかつたのに、75歳になつて、医者に行くたびに「この呼称だけは許せない」思ひでいつぱいです。
後期高齢者医療保険被保険者証――医院の窓口に提示する保険証の名称です。
「後期高齢者」とは何といふ呼び名でせうか。「後期」といふからには「前期」もあるのかと調べたら、自分はもう10年も前から「前期高齢者」に該当してゐました。
国民健康保険だつたから、この呼び名に接することがなかつただけのやうです。
考へてもみてください。「後期高齢者」とは恐ろしい呼び名です。
「あなたはもう高齢者、それも『後期』ですから、その先はありません。安らかに俗名をお捨てになり、お旅立ちください」
当初、霞ヶ関の役人か永田町の政治家か、いづれその辺りの人間が名付けたものだと思ひますが、ずいぶん失敬にして無神経、かつ国語の語感になんとも愚にして鈍なる名称です。
ひとの人生を、便宜的に「前期」とか「後期」などと区分しないで欲しい。
人気パン屋とかイベントの入場券売り場の行列で、「ここが最後尾」といふ旗を持つて案内するならいざしらず、「ここから人生の後期です」などといふ案内は必要ありません。
65歳以上、あるいは75歳以上の国民を、行政手続きの必要から区分したいのなら、もう少しマシな呼称があるのではないでせうか。
一つ、提案します。
75歳以上の後期高齢者⇒「長寿者」
65歳以上の前期高齢者⇒「準長寿者」
日本語の「寿」は、歌舞伎の寿狂言、春を知らせる福寿草のやうに響きのいい語で、「不老長寿」とか「長命を寿(ことほ)ぐ」のやうに縁起の良いことばですから、健康保険証も「長寿者医療保険被保険者証」だつたら嫌がる人はゐないでせう。
ついでに、すでに一般化してゐる「高齢社会」も「長寿社会」でどうでせうか。
ぼくは今後、自分ではこの名称を使はうと思ひます。
