一週間ほど前のことだが、ヴァンクーヴァー五輪を観てゐたテレビが突然切れた。リビングのエアコンも停まつた。
 
 停電かと思つて外を見渡したが、昼間なので分からない。
 もしやブレーカーが落ちたのか。点検する。なんともないが、ブレーカーの脇の漏電チェックのスイッチが下がつてゐる。上にあげる。通電した。

 ところが、男子フィギュアのフリー演技のいいところでまた切れた。さつきと同じ漏電チェックのスイッチである。どこかで漏電してゐるのだろうか。近所の電気屋を呼んだ。

「これは漏電感知機を交換しないとダメですね。古くなるとちよつとしたことで落ちるんです」

 さう言はれると、電気に無知な身としては任せるしかない。その晩はテレビは我慢し、2月下旬といふのにエアコンも付けずに、しばらくお蔵入りしてゐた南極越冬隊の隊員が着るやうなごわごわのコートを出して来て寒さを凌いだ。

 翌日、漏電感知機を新品と交換した。当座、家中の電気製品すべてが順調だつたが、夜になつて、なぜか今度はエアコンだけが停止した。
 
 漏電チェックのスイッチは異常ない。エアコンは室外機が1機、室内機は3機あるが、3機とも青いランプが点滅したまま作動しない。

 ここまできて、無知は無知なりに、もともとエアコンに問題があつたのではないかと推察するに至る。エアコンのどこかの故障で過剰な電気が流れ、それを感知して漏電スイッチが頻繁に落ちたのではないか。

 製造元のダイキン工業へ電話するが深夜なので通じない。ホームページを見ると、故障緊急連絡用のサイトがあり、詳細を書きこむ。

 その夜も南極越冬隊である。どこかに石油ストーブが仕舞つてあつたのではないかと屋根裏まで探索したが、ずつと昔に処分してしまつたやうだ。

 あくる日、ダイキン工業の最寄りのサービスセンターから電話が入り、午後には修理に来てくれた。
 
 五十過ぎの、見るからに職人気質の小太りの男は慣れた手つきで室外機のカヴァーを外し、内部を点検し始めた。

「アハハ、これだよ、故障の原因」
 ほどなく彼は、小さな黒つぽいものを親指と人差し指でつまんで掲げた。だらりとしてゐる。
 
「何ですか、それ」
 十センチもない布切れのやうに見える。

「トカゲ。感電死してやがる」

 わが家の庭にはよくトカゲがゐる。花壇の手入れをしてゐると、足元を素早く走り去る。

「こいつのせゐでショートしたんだ。室外機の中は温かいから、思はず忍び込んだんだな。寒さから逃れてほつとしたと思つたら、バシッと感電してオダブツつてこと」
 と男は、その黒い肉片をひよいと室外機の脇へ放り投げた。僕がお墓を作つてあげるのもヘンだらうな。

 つかの間の暖と寛ぎを得て即天国行きしたトカゲは、もしかすると幸せな最期だつたのかもしれない。