けふは梅雨の入りみたいな陽気ですが、美しく晴れた一昨日、昼飯も兼ねて銀座に出ました。当てもなくです。
地下鉄を上がつた四丁目交差点から、昼飯屋さんの多い築地方向に数歩歩いて、ふと思ひ直して引き返し、三越を右折して北に向ひました。松屋の方向です。
いつになく人通りも少ない感じで、広い歩道が余計に広く感じられます。まあ昼下がりの散歩には快適な季節です。
「あの、ちよつとお聞きしてよろしいですかーー」
5、60年配の女性の三人連れに声を掛けられました。
「この辺りで、何か簡単に食事するとしたら、どこかご存知でせうか」
今は大手町にある会社が1970年代の初めまで銀座にあつたので、この近辺を全く知らないわけではないのですが、30年前の知識は通用しません。
「すいません。お昼ご飯に適当なところとなるとーー」
と左右を見回すが思ひ浮かばない。僕が心づもりしてゐたパスタの店があるにはあるのだが、彼女たちに適当だとは思へない。
「さうですか。なんかこの辺りは気楽に食事のできるお店がないですね」
「裏道へ入られたらどうでせうか。食事の店は裏の通りに多いかもしれません」
「いえ、裏通りもあちこち探したんですが見つからなくて」
僕が神田方向へ歩き出すと、三人も付いて来る。「こんなに食べるところがなくて、みんなどうしてゐるのかしら」などとつぶやきながら付いて来る。
松屋の先の信号を左に渡る。渡り終はつて立ち止まると、彼女たちも立ち止まつてきよろきよろしてゐる。まるで僕の連れのやうだ。
信号の変はるのを待つて、こんどは北へ行く。まだ付いて来る。こちらの歩度に合はせてゐる。
歩道の左側はビル工事中のテントが張られてゐる。そのテントが終はる先に、僕がいつも行く帽子のトラヤがある。ウインドウの前まで来たとき、とつさに店に飛び込んだ。
僕が店のドアを押したのを見て、瞬間、三人は立ち止まつたが、帽子屋と知つて入つては来ない。きよろきよろしながらウインドウの前に佇んでゐる。
店に飛び込んだすぐ前の棚に、淡い抹茶色のハンチングが飾つてあつた。
いかにも夏のカジュアル用で、軽快な色合ひが悪くない。手に取つてサイズを見る。
ふと外を見ると、三人はやや迷ひながら、四丁目の方へ目を向けてゐる。一二歩歩きだした。
店員が奥から持つてきたサイズのハンチングをかぶる。ぴたりと合ふ。
「面白い色ですね。レジャーにはいいかな」
「ええ、おしやれな感じで、よくお似合ひです。たまにはかういふカラーもよろしいのではーー」
もう一度、外を見る。三人は完全に消えた。
「これ、ください」
抹茶色のハンチングを衝動買ひさせたのは、あのおばさん三人連れだ。
地下鉄を上がつた四丁目交差点から、昼飯屋さんの多い築地方向に数歩歩いて、ふと思ひ直して引き返し、三越を右折して北に向ひました。松屋の方向です。
いつになく人通りも少ない感じで、広い歩道が余計に広く感じられます。まあ昼下がりの散歩には快適な季節です。
「あの、ちよつとお聞きしてよろしいですかーー」
5、60年配の女性の三人連れに声を掛けられました。
「この辺りで、何か簡単に食事するとしたら、どこかご存知でせうか」
今は大手町にある会社が1970年代の初めまで銀座にあつたので、この近辺を全く知らないわけではないのですが、30年前の知識は通用しません。
「すいません。お昼ご飯に適当なところとなるとーー」
と左右を見回すが思ひ浮かばない。僕が心づもりしてゐたパスタの店があるにはあるのだが、彼女たちに適当だとは思へない。
「さうですか。なんかこの辺りは気楽に食事のできるお店がないですね」
「裏道へ入られたらどうでせうか。食事の店は裏の通りに多いかもしれません」
「いえ、裏通りもあちこち探したんですが見つからなくて」
僕が神田方向へ歩き出すと、三人も付いて来る。「こんなに食べるところがなくて、みんなどうしてゐるのかしら」などとつぶやきながら付いて来る。
松屋の先の信号を左に渡る。渡り終はつて立ち止まると、彼女たちも立ち止まつてきよろきよろしてゐる。まるで僕の連れのやうだ。
信号の変はるのを待つて、こんどは北へ行く。まだ付いて来る。こちらの歩度に合はせてゐる。
歩道の左側はビル工事中のテントが張られてゐる。そのテントが終はる先に、僕がいつも行く帽子のトラヤがある。ウインドウの前まで来たとき、とつさに店に飛び込んだ。
僕が店のドアを押したのを見て、瞬間、三人は立ち止まつたが、帽子屋と知つて入つては来ない。きよろきよろしながらウインドウの前に佇んでゐる。
店に飛び込んだすぐ前の棚に、淡い抹茶色のハンチングが飾つてあつた。
いかにも夏のカジュアル用で、軽快な色合ひが悪くない。手に取つてサイズを見る。
ふと外を見ると、三人はやや迷ひながら、四丁目の方へ目を向けてゐる。一二歩歩きだした。
店員が奥から持つてきたサイズのハンチングをかぶる。ぴたりと合ふ。
「面白い色ですね。レジャーにはいいかな」
「ええ、おしやれな感じで、よくお似合ひです。たまにはかういふカラーもよろしいのではーー」
もう一度、外を見る。三人は完全に消えた。
「これ、ください」
抹茶色のハンチングを衝動買ひさせたのは、あのおばさん三人連れだ。
