茶道のわが社中の納会は、毎年、暮れも押し詰まつた29日に開くのが通例です。ホテルオークラの茶室「聴松庵」で濃茶と薄茶の点前を行ひ、その後忘年会に流れます。

「昨年、浅草橋『きた川』の河豚は好評でしたけど、今年もどこか候補はございますかしら」

 聴松庵のマネージャーをしてゐる女性が社中の先生です。
 かう言はれると、すぐレパートリーを披歴したくなるのが悪い癖。うつかり乗つてしまつた。

「たまにはフォンデュなんかどうですか。人形町に『カサドール』といふ落ち着いたスイスレストランがありますけど」

「スイス料理?素敵だわ。そこにしませう。ーーで、お手数ですけど、幹事をやつて頂けますかしら」

 昨年は友人の料理人キタサンの店を推奨した手前、幹事を務めました。
 当日、若い仲間から「長老に幹事をやらせちやつてすみません。来年は私がやりますから」なんて調子のいいことを言はれたので、早速その若者にメールを打ちましたが、数日しても返事がない。

 はがきも出しましたが、何も言つてきません。結局、また僕が連絡係をやるほかないやうです。

 先生に社中のアドレス名簿をメールしてくれるやう頼みました。総勢45名。女性師範のためか弟子も半分以上が女性です。

 名簿を見て唖然としました。
 メールアドレスだけではないのです。半分くらゐはさうですが、住所だけの方もあれば電話番号だけの人もゐる。

「メールを打つだけなら簡単と思つたら、電話したりはがきを書いたりもしないといけないんですねえ」

 思はず先生に愚痴の電話をしました。

「さうなんですよ。個人情報とか言つて、最近は素直に教へてもらへないでせう。相手の言ふ連絡先だけで。しかもねーー」

 と先生は声をくぐもらせます。イヤな予感。

「メールアドレスも、パソコンから打つと受け付けない人もゐるんですよ。迷惑メール防止とかで」

「ぢやあ、どうするんですか」

「ご面倒でも、全部携帯から打つて頂けますかしら」

 僕の携帯はソニーのプレミニSで、掌にすつぽり収まる超小型。持つには便利だけれど、正直、字もボタンも小さくてメールは打ち難い。
 納会のお知らせには、当然、集合時間、お点前をする人の名前、会費、二次会会場、出欠の連絡先なども付記しなければならない。

 やはり、何が何でもあの若者とコンタクトを取つて、幹事役を回すかな、と考へてゐると、

「あのーー、年末ですから、皆さん予定もおありだと思ふので、通知はなるべく早く出して頂いた方がよろしいかと」

 稽古ごとの世界、先生は絶対です。