家で飲む抹茶が切れたので、昨日の午後、いつものお茶屋さんへ行きました。
銀座・歌舞伎座前の交差点から新橋方向に少し歩いたところにある平野園。正確に言ふと、銀座7丁目15-11。
まう30年以上も、抹茶といへばこの店の「和光」を使つてゐます。
銀座でも老舗のお茶屋さんで、いまは四周を屹立するオフィスビルに囲まれ、そこ一軒だけセピア色を見るやうな風情の木造です。
求めるのは「和光」の30グラム入り。棗ほどの大きさのブリキ缶に入つてゐて1500円です。100グラム入り缶もありますが、毎日飲むものでもないので、このくらゐの大きさの方が使ひ勝手がいい。
「素敵なお帽子ですね」
突然、50年配の女主人から声を掛けられました。初めてのことです。いつもは小体な黒い紙袋に入れられた茶を受け取つて、代金を支払ひ匆々に帰るだけです。
「いえいえーー」
と言ひつつ、悪い気はしない。
「毎度、ありがたうございます」
良く見ると小学校の先生のやうな(といつても特にイメージは湧きませんね)女主人が紙袋を手渡す。
「大きいのを買へばいいのですけど、ちよつと飲まないでゐると変色しがちなもんですから」
店を出ようとすると、女主人が呼び止める。
「あのーー、これ」
木製の滑りの悪い引き戸を開けかけてゐた足を停める。
「これ、このあたりの商店街で出してゐるものなんですけど、私がこの店に嫁いできた時代からのことを書いてゐます。恥づかしいんですがお読み頂けたら」
「銀座15番街」といふ小冊子である。どこの商店会でも発行してゐる地域の宣伝誌。銀座にもいくつかこの手の雑誌があるが、「15番街」を手にするのは初めてだ。
「あなたがお書きになつてゐるのですか」
失礼だが、文章を書くやうな女性にも見えない。
「ええ、頼まれまして」
季刊の最新の3冊を頂戴した。
平野園の草野佳里子さんが書いてゐるのは「銀座の嫁日記」といふタイトル。見開き2ページに数葉の写真入りである。
これがなかなか面白い。泰明小学校の同級生のところに嫁いできた当時の失敗談や、若くして店の後を継いだ姑の話、銀座の老舗茶舗ならではの苦労などが、具体的かつ篤実に綴られて、読ませます。
けふ、冊子の奥付に出てゐたアドレスにお礼と感想のメールを打ちました。一時間もたたないうちに返礼のメールを頂きました。「今後とも末永くーー」
些細なことから人の触れ合ひは始まるものです。
ところで、(女主人に帽子を褒められたから書くわけではないけれど)抹茶「和光」は値段の割に旨い。
茶畑で思ひ切り太陽を浴びて育つた茶葉が、その清爽にして優艶な味はひを飲む者の口中に剛腹に吐き出してくれる感じがする。元来濃茶用なので、お薄ではなほさら美味しいです。
銀座・歌舞伎座前の交差点から新橋方向に少し歩いたところにある平野園。正確に言ふと、銀座7丁目15-11。
まう30年以上も、抹茶といへばこの店の「和光」を使つてゐます。
銀座でも老舗のお茶屋さんで、いまは四周を屹立するオフィスビルに囲まれ、そこ一軒だけセピア色を見るやうな風情の木造です。
求めるのは「和光」の30グラム入り。棗ほどの大きさのブリキ缶に入つてゐて1500円です。100グラム入り缶もありますが、毎日飲むものでもないので、このくらゐの大きさの方が使ひ勝手がいい。
「素敵なお帽子ですね」
突然、50年配の女主人から声を掛けられました。初めてのことです。いつもは小体な黒い紙袋に入れられた茶を受け取つて、代金を支払ひ匆々に帰るだけです。
「いえいえーー」
と言ひつつ、悪い気はしない。
「毎度、ありがたうございます」
良く見ると小学校の先生のやうな(といつても特にイメージは湧きませんね)女主人が紙袋を手渡す。
「大きいのを買へばいいのですけど、ちよつと飲まないでゐると変色しがちなもんですから」
店を出ようとすると、女主人が呼び止める。
「あのーー、これ」
木製の滑りの悪い引き戸を開けかけてゐた足を停める。
「これ、このあたりの商店街で出してゐるものなんですけど、私がこの店に嫁いできた時代からのことを書いてゐます。恥づかしいんですがお読み頂けたら」
「銀座15番街」といふ小冊子である。どこの商店会でも発行してゐる地域の宣伝誌。銀座にもいくつかこの手の雑誌があるが、「15番街」を手にするのは初めてだ。
「あなたがお書きになつてゐるのですか」
失礼だが、文章を書くやうな女性にも見えない。
「ええ、頼まれまして」
季刊の最新の3冊を頂戴した。
平野園の草野佳里子さんが書いてゐるのは「銀座の嫁日記」といふタイトル。見開き2ページに数葉の写真入りである。
これがなかなか面白い。泰明小学校の同級生のところに嫁いできた当時の失敗談や、若くして店の後を継いだ姑の話、銀座の老舗茶舗ならではの苦労などが、具体的かつ篤実に綴られて、読ませます。
けふ、冊子の奥付に出てゐたアドレスにお礼と感想のメールを打ちました。一時間もたたないうちに返礼のメールを頂きました。「今後とも末永くーー」
些細なことから人の触れ合ひは始まるものです。
ところで、(女主人に帽子を褒められたから書くわけではないけれど)抹茶「和光」は値段の割に旨い。
茶畑で思ひ切り太陽を浴びて育つた茶葉が、その清爽にして優艶な味はひを飲む者の口中に剛腹に吐き出してくれる感じがする。元来濃茶用なので、お薄ではなほさら美味しいです。
