例年、春先に夫婦で入る1泊人間ドック。今年は孫の誕生の関係で先週末になりました。

 「さうですね。まあ、大丈夫ですね。今の生活習慣をお続けになつたらよろしいです」

 心電図やレントゲン写真や検査結果を眺めて、女医さんが言ひます。
 2日目午前の問診。「今の生活を…」は毎年言はれることで、当方が返すジョークも同じです。「今の生活を続けるのは、結構辛いのですが」

 受診先は、まう十年来の日比谷・ITクリニックです。インペリアル・タワー・クリニック。
 つまり、帝国ホテルに付随したクリニックで、たぶん帝国ホテルで急病人が発生すると、まづここで応急措置がなされるのでせう。タワー館の7Fにあります。

 このホテルは、外国関係ではイギリスや中国を得意としてゐて、トップの要人が日本に来るとここに泊まります。

 といふことは、それらの要人が日本で発病したら、まづITクリニックが診察する?それなら安心だーー最初にここを選んだのはそんな理由です。

 でも、実は僕は人間ドックをあんまり信用してゐない。
 毎年健康診断をしてゐても、ガンにかかる時はかかるし、手遅れになる時はなるし、健康診断なんて1回もやらなくても100歳まで生きる人はざらにゐる。心からさう思つてゐます。

 では、なぜ毎年ドック入りするのか。家人のためといふのは口実で、本当は楽しいからです。

 初日の診察は午後4時過ぎに終はりました。家人は翌日バリウムを飲む胃の検診がありますが、僕はいつもこれをパス。翌日は血圧の2日目検査だけです。

 だから、この夜は何をやつてもいい。
 「夜8時前に食事を済ませ、その後は何も口にしないで下さい」と申し渡される家人とは大違ひです。

 よく昼飯に行くタワー館B1の「ラ・ブラスリー」を事前に予約してをきました。

 馴染みの長身チーフがやつてきて、「4月からここにもソムリエを置くことになりました」と紹介する。 

 「今日は人間ドックなんだけど、僕は明日検査がないので酒も食事も自由。ワインリストを見せてください」

 これも例年通りです。チーフも心得たもの。簡易リストではない本格的ワインリストを持つてきてくれます。

 選んだのはブルゴーニュの中級品の赤。食事のメーンが帝国ホテル自慢のローストビーフなので、相性を考へました。

 食事半ばでワインが空きました。新任ソムリエにスコッチのラガブーリンを頼むと、シングルモルトは品種があまりない。ブラスリーですから無理もないですね。メジャーのモルトをグラスで注文しました。

 次はカクテル。ジンベースのマティーニ・ドライ、最後はソムリエ氏お勧めの貴腐ワインをデザートにしました。

 「あなたは体を壊すためにドックに来てゐるみたい」
 家人は呆れます。これもいつもながらです。

 翌朝の問診のとき、女医サンが「今の生活を続けて」とおつしやたのを聞いた家人が、どんな顔をしたかは言ふまでもありません。