家人がパニックになつてゐます。「ねえ、あなたーー」
 
 けさ早く、僕の寝てゐる部屋に入つてきました。先に起きて寝室から居間に下りると、家人が再び二階に上がつてくることは滅多にありません。

 きのう深夜、息子が急にやつてきて、今日は午後から出勤といふことでわが家に泊まりました。
 嫁が3月末に赤ちやんを産んで以来、嫁と赤ちやんは実家が経営する西新橋のマンションの空き室に、息子は一人で自分の家と職場を往復、といふ生活で、息子が実家に帰つてきたのは久しぶりです。

 「あなた、あちらは50万ですつてよ」
 孫が生まれた祝金として、嫁の実家は50万円包んできたといふのです。

 「へえ、気張つたねえ」僕の返事に、家人は不満です。
 「あの子が肩身の狭い思ひをしたんぢやないかと思つて」
 「そんなこと、ないだらう。あいつは何て言つてた?」
 「まあ一応、そんなことない、とは言つてたけど」

 実はわが家からの祝金は10万円でした。
 仕事仲間で葬式があれば1万円、結婚式があれば3万か5万円といふのが僕の相場です。「いくら包む?」と家人から聞かれ、咄嗟に「10万円かな」と答へたのです。

 なにしろ初孫ですから前例がない。葬式で1万円なのだから誕生で10万円なら十分だらうと考へました。

 「口にはしないけど、あの子、あちらの家の手前、カッコが付かないのぢやないかしら」

 嫁さんのお父さんは屈指のゼネコンの常務をしてゐます。
 「ああいふ業界は派手なんだよ。マスコミは地味なんだ。気にすることはない」
 と言つたのですが、家人は納得できてゐない様子です。

 三十年ほど前、父が亡くなったとき、戒名料のことでお坊さんと喧嘩になつたことがあります。「この戒名だと相場は50万円は下りません」といふ坊さんに、僕は20万円で話を付けようとしたのです。
 
 「あなたは仕事柄、俗塵に染まり過ぎてゐます。仏の世界はもつと清らかなもの。戒名料は親への供養と思つてください」
 結局、間を取つて(これも俗塵に染まつた解決法ですが)30万円に落ち着いたことがありました。

 孫の祝金の世間相場はどのくらゐなんでせうね。孫に10万円はケチ臭かつたのかなあ。