浅草橋「きた川」が、12日で開店一周年を迎へます。
「いやあ、奇跡といふほかないですね」
板前の北川博康さんは、店が1年もつたことに自分で驚いてゐます。
人形町「清浜田」で修業すること10余年、満を持しての独立でしたが、この1年、浅草橋西口といふ土地柄にショックを受ける連続でした。
隣りはヤキトンの店です。一串100円。高い物でも300円。毎晩満員、午後9時ごろには、前の道にテーブルを出して、溢れる客をさばくほど。若い店員1人を外専門に配置してゐます。
「この辺りは、ああいふ店でないとダメなんですかね」
客単価は1500円程度。新宿の通称しよんべん横丁の店の雰囲気とよく似てゐます。
人形町にゐた彼にはその真似はできない。プライドもある。どこより美味しい手作り料理を出してゐるといふ自負もある。「きた川」が旨いのは事実です。
開店して半年くらゐ経つたころ、値段を思ひ切つて半値に下げました。
刺身や焼き物が600円、手の込んだ料理が700円から800円。
その結果はーー同じことでした。
お茶をひくことも珍しくない。客は僕1人だけといふ日がこの1年何日あつたことか。
「板前として給料を貰ふ生活に戻りたいです。何のために店をやつてゐるのか分からない」
弱音を吐く板前を支へてきたのが、店でアルバイトしてゐる中国人留学生のセンちゃん。20歳。
「マスター、お昼を復活させませう」
センちやんの提案で、この夏からランチを再開しました。開店当初やってゐたのですが人手の関係で中止してゐたのです。
A定食が刺身・焼き物に小鉢、味噌汁付き。B定食が親子丼、味噌汁付き。どちらも790円。
毎日20食前後出てゐるやうです。「ランチをやつてゐるお陰で気が紛れます」
東京駅八重洲口の洋食屋にゐたこともある板前は、夜のメニューに「鳥のワイン煮」とかクリームコロッケ、オムレツ、シューマイなども加へました。客が希望すればナイフ、フォークも出ます。
白木のカウンターでワイン煮の余つたデミグラスソースをパンに付けて食べるなんて愉快です。
飲み物のメニューにも気を遣ふやうになりました。流行の芋焼酎の超人気銘柄をネットで取り寄せて、焼酎専用の棚を作り、飾りました。例の「森伊蔵」の瓶も並んでゐます。ワインもほどほどの赤白を置いてあります。
「この河豚の季節に賭けてみますよ」
もともと河豚屋としてスタートしたのですから当然ですが、浅草橋で河豚といふのもミスマッチ。
きた川にはまう一つ、偉大なミスマッチがあります。
店内に流れてゐるのは、クラシックの名曲なんです。ラベルのボレロなんかを聴きながら、ジャンジャカチャジャカチャと軍靴の音を耳に、河豚を食ふ。
さあ2年目、どうなることやら。
「いやあ、奇跡といふほかないですね」
板前の北川博康さんは、店が1年もつたことに自分で驚いてゐます。
人形町「清浜田」で修業すること10余年、満を持しての独立でしたが、この1年、浅草橋西口といふ土地柄にショックを受ける連続でした。
隣りはヤキトンの店です。一串100円。高い物でも300円。毎晩満員、午後9時ごろには、前の道にテーブルを出して、溢れる客をさばくほど。若い店員1人を外専門に配置してゐます。
「この辺りは、ああいふ店でないとダメなんですかね」
客単価は1500円程度。新宿の通称しよんべん横丁の店の雰囲気とよく似てゐます。
人形町にゐた彼にはその真似はできない。プライドもある。どこより美味しい手作り料理を出してゐるといふ自負もある。「きた川」が旨いのは事実です。
開店して半年くらゐ経つたころ、値段を思ひ切つて半値に下げました。
刺身や焼き物が600円、手の込んだ料理が700円から800円。
その結果はーー同じことでした。
お茶をひくことも珍しくない。客は僕1人だけといふ日がこの1年何日あつたことか。
「板前として給料を貰ふ生活に戻りたいです。何のために店をやつてゐるのか分からない」
弱音を吐く板前を支へてきたのが、店でアルバイトしてゐる中国人留学生のセンちゃん。20歳。
「マスター、お昼を復活させませう」
センちやんの提案で、この夏からランチを再開しました。開店当初やってゐたのですが人手の関係で中止してゐたのです。
A定食が刺身・焼き物に小鉢、味噌汁付き。B定食が親子丼、味噌汁付き。どちらも790円。
毎日20食前後出てゐるやうです。「ランチをやつてゐるお陰で気が紛れます」
東京駅八重洲口の洋食屋にゐたこともある板前は、夜のメニューに「鳥のワイン煮」とかクリームコロッケ、オムレツ、シューマイなども加へました。客が希望すればナイフ、フォークも出ます。
白木のカウンターでワイン煮の余つたデミグラスソースをパンに付けて食べるなんて愉快です。
飲み物のメニューにも気を遣ふやうになりました。流行の芋焼酎の超人気銘柄をネットで取り寄せて、焼酎専用の棚を作り、飾りました。例の「森伊蔵」の瓶も並んでゐます。ワインもほどほどの赤白を置いてあります。
「この河豚の季節に賭けてみますよ」
もともと河豚屋としてスタートしたのですから当然ですが、浅草橋で河豚といふのもミスマッチ。
きた川にはまう一つ、偉大なミスマッチがあります。
店内に流れてゐるのは、クラシックの名曲なんです。ラベルのボレロなんかを聴きながら、ジャンジャカチャジャカチャと軍靴の音を耳に、河豚を食ふ。
さあ2年目、どうなることやら。
