ワインを勉強してゐる若手社員が、人目を気にしながらデパートの包みを差し出します。

 「何、これ?」

 「前に約束した『森伊蔵』です。やつと買へましたので」

 さういへば前に彼と飲んだとき焼酎の話になり、彼が噂の「森伊蔵」を定価で買へると言ひ出したのです。1本3万から4万円が相場と聞いてゐましたから、三千円程度で買へるなんてどうせ酒の上のヨタ話と聞き流してゐました。

 彼のいふには、日本橋の某デパートで、毎月、定価で買へる権利の抽選があり、彼はまう一年以上欠かさずに抽選会に行つて一票を投じてゐたさうです。やつと抽選に当たり、定価で購入できた。ウソではなかつたのです。

 困つたのは、それをどこで飲むか。

 一升瓶となると、なかなか持ち込みを認めてくれる店はない。他のお客に目立つし、一本千円の焼酎を飲んでゐるお客の脇で「森伊蔵」の一升瓶を立ててやるわけにもいかない。それには相当わがままのきく店でなければならない。

 思ひつくのは一店しかない。開店一ヶ月、居抜きで買つた店で独立した、例の浅草橋のふぐ屋です。
 
 もちろん彼と、まだ客が来ない六時前に行きました。恐る恐る一升瓶を袋から出すと、親方のキタさんは「スゴイ焼酎ですね」と苦笑ひするだけ。シメタ! これでOKでなければOKのことばはない。

 まだ半分くらゐ残つてゐます。お好きな方、どうぞ!
 浅草橋の「きた○」。「ブログで見た」と言へば飲んでいい、と書いてあつたと言つてください。ただし、一人50ccだけね。でも、キタさんがダメと言つたら、諦めて。