よく行く小料理屋に「清浜田」があります。
 人形町交差点のすぐ近くです。亭主が親方、女房が女将、それに初老の仲居さんだけ、のこぢんまりしたお店ですが、味はいい。

 かういふ店には常連が付いてゐて、いつもカウンターに一人や二人の馴染み客がデカイ顔して飲んでゐるといふのが通り相場。清浜田も例外ではない。僕もまう20年来の常連ですが、常連仲間にも気の合ふ人間とさうでないのができます。

 女将も親方も陰で眉をひそめてゐるのが、浅草の中小企業の社長サン。カウンターに腰を下ろすと、何も注文しない。体よくいへば”お任せ客”だが、彼の場合、出された料理が気に入らないと、あとであれこれ難癖をつけるから粋ぢやない。

 僕とも相性が悪い。話も合はない。同じ年頃、同じジャイアンツファン、同じ政治の趣向だが、どういふわけか彼とは酒を一緒にしたくない。

 だからぶらりと行つて運悪くこの社長サンと顔を会はせる羽目になると、カウンターの端に離れて席を取るか、お銚子を一本だけやつて早々に引き上げることにしてゐる。

 清浜田で修業した板さんが浅草橋にふぐ屋を出したことは前に書きました。清浜田の半値だから通ひ易い。開店1ヶ月の間に7,8回行きましたが、昨日、ついに運の悪いことが起きてしまつた。初めて彼が浅草橋に顔を出したのです。

 ヒレ酒にふぐ刺し、手製シュウマイ、プレーンオムレツ、ギンナン焼きで一杯やつたが、いつもの味でない。板さんに文句も言へないが、確かに7,8回通つた味とは微妙に異なる。

 さういふものなんですね。何が理由か分からないが、酒場の相性といふものはコワイです。