今年の春闘はこれまでに回答を済ませた大企業の賃上げが平均して5.28%に達しており、過去に例を見ない大成功だと報じています。しかし全人口の約7割が働いている中小企業の賃上げ回答はこれからなので、まだ何とも言えませんが、もし中小企業の賃上げが順調ならば、多くの日本人が財布のひもを緩めて消費を増やすと予測できます。しかし、増えた分の賃金を貯蓄に回してしまうと消費にお金が回らないので景気回復は望めません。日銀は賃上げで個人消費が上向き、景気が良い方向に動き出すということを想定してマイナス金利政策の解除に踏み切るわけなので、ここはとても重大なポイントです。
ところで、私は日ごろから不思議に思っているのは、こんなに長い年月にわたる不景気で国民は皆不満に思っているはずなのに、なぜか日本人は怒りの声を上げない。ストライキや抗議集会といったことはほとんど見られない。なぜなのか? 一つには、そんなことをすると会社をクビにされてしまう。つまり雇用を人質に取られているから、ストライキなんてできないのだ。その証拠に日本の労働組合は、昔は大規模なストライキを敢行していたのに、いつのまにか影も形もなくなってしまった。「雇用さえ維持していただければ、賃金には一切不満は言いません」と経営者側と約束させられたのかどうかは知りませんが…。
日本人には「お金が無くても幸せになれる」という考え方があります。「清貧」。お金があまりなくても、清く正しく生きれば、心豊かに生きることができる。(「清貧の思想」中野孝次著)
この本はバブル崩壊後の1992年に出版され、たちまちベストセラーになった本ですが、バブル時代に金銭欲や物欲を追い求める価値観に支配され、我を失ったことを反省し、「精神的な豊かさ」を求めるという価値観を日本人に示しました。
これはとても素晴らしいのですが、そんな生活を30年以上続けてきた日本人はすっかり清貧生活に慣れてしまいました。物欲がなくなれば消費は低下し、物価は上がらない。物価が上がらなければ賃上げの要求根拠がなくなる。その結果、賃金はほとんど上がらなかった。むしろ価格破壊などで物価が低下し実質的な購買力は維持できた。つまりこれは正真正銘のデフレです。デフレにより日本経済はすっかり活力を失ってしまいました。
もはや「清貧」に酔っている場合ではありません。収入が増えたらそのお金を積極的に使いましょう。買い物でも飲食でも、旅行でもなんでもいい。「金は天下の回りもの」と言って、お金はひとところにじっと置いておくべきものではない。使えばそれはお店や企業の売り上げ増となり、利益が増える。利益が増えればまた賃金が上がる。経済の基本的な原理です。
