都市?そんなもの工夫次第だ!〜“自分の住む場所を知る。”

 

 

 

 

 

「われわれの回りにあるすべてがこの本のさし絵である。挿図のかわりに現実の都市をよく見てほしい。 見ている間に、あなたはまた、聞き、ぶらつき、そして見ているものについて考えるだろう。」

 

 

ジェーン・ジェイコブスはジャーナリストである。少なくとも都市についてのアカデミック な教育を受けた「専門家」ではない。それにも拘わらず「アメリカ大都市の死と生」は都市研究の古典とし て今なお多くの人に読み継がれている。ただ、それだけ原書が出版されてからの約 50 年の間に近代都市計 画の「欠点」が指摘され続けたにもかかわらず、今なおその「欠点」を克服できていないということなのだ ろう。“自分の住む場所を知る。”考えてみれば都市を知るためのこれほど基本的な方法はない。ジェーン・ジェイコブスは あろうことか、そんな身近なところから都市論を築き上げてしまったのである。

 

 

 

ここ、「蒲生三丁目の家」のある大阪第2地域自治区(旧城東区) の「蒲生三丁目の家」は、パブリックな空間でありながら、プライベートな空間でもある。そのため、その利用に関しては独自のマナーとルールが存在する。

 

普段自分一人だけいるとき家はプライベートな空間だが、お客様がくれば、その空間はパブリックになる。個人個人がいろんなリソースをパブリック化し、シェアすることで、みんなにとってのメリットや価値、経済、市場が生まれるのだ。

 

蒲生三丁目の家、自宅公共化によるシェアリングコミュニティだ。クローズドオープン自閉的展開による営業システムは、普段はいわゆる〝スリープ〟と言われる状態でいつも店内が暗い。でも、心を癒やす〝サウダーデ〟な音楽が聴越えていたら〝入ってもいいよ〟という合図なのである。

 

 

蒲生三丁目には、コンビニもないし、ファミレスやファストフードもない。地区内には、何の名物もなく観光客など誰もやってこない何のへんてつもない大阪の下町である。

しかし、戦火をくぐり抜けた家屋風景には、侘び寂びや鄙びた街並み郷愁を憶える不思議な空気感が存在する。そして、蒲生三丁目には少し足を伸ばせば、3マイル圏内に、大阪城公園をはじめ、花博公園鶴見緑地、桜ノ宮公園、淀川河川敷公園、城北公園、中之島公園という、大阪を代表する六つの公園が存在するという、世界でも類を見ないロケーションなのである。

 

蒲生の地区内の小さな住居、路地に様々なアートがきめ細かく並べてられている。ちっぽけな住居や都市空間でも、創意工夫で美しいギャラリーやミュージアムになる、というわけだ。

この民家ミュージアムや路地裏ギャラリーは、高密度に暮らす〝蒲生〟ならではの展示手法。古代の日本人は、人間も自然の一部である、あらゆるものに魂が宿っている というアニミズムの世界観の中で生きてきた。身の回りの小さなところからアートを育てていくこの伝統技術を深め、地区全体に広げていくことが重要なのである。

小さなアートを路地、玄関口、窓際、ベランダなどに持ち込み、できればご近所で相談しならが通りすべてが美しく調和のとれたデザインとなるように工夫し、地区全体のアート化につなげていく。開発により都市をアート化し、アートを増やすことはすばらしいことだ。

 

しかし、〝蒲生〟には〝蒲生〟のやり方がある。小さなアートを慈しみ、それらを近隣で分けて、どんどん増やしていく。その過程で、近隣とのコミュニティが密になり、町にコミュニケーションが広がり、スマイルが増えていく。

安全で安心できる住みよい美しい町が育てられていく。これが本来のアートによるリ・コンシャスのまちづくりの目的であり、蒲生的なパブリックの目標と言える。