筑波書房 書評情報〓(日本農業新聞 2023年6月18日号 書評欄に載りました)『農業政策の現代史』田代 洋一 著  税込価格 3,300円+税→(https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784811906430)
【書評内容】[東山 寛(北海道大学大学院農学研究院教授)評]
 食料・農業・農村基本法の見直し作業が急ピッチで進められている。5月22日に自民党の提言が出され、翌週の29日に基本法検証部会の中間とりまとめが公表された。その上で政府は、同じ週内の6月2日に「食料・農業・農村政策の新たな展開方向」を決定した。1992年の「新しい食料・農業・農村政策の方向」(新政策)を彷彿とさせるものがある。
 新基本法見直しへの期待は高いものがある。評者がフィールドとしている北海道は稲作・畑作・酪農の3本柱の農業が基本だが、資材価格の高騰や生産抑制などの事態に直面し、営農意欲の向上に結び付いていない。特に「水田活用の直接支払交付金の見直し」(畑地化)やテンサイの交付対象量削減のインパクトが大きい。本書でも何カ所か登場するが、問題の根源は農政の「じり貧化」にあるようにも思えてくる。
 本書は60年代からの動きをトレースしているが、旧基本法(61年)に制定もまさに農林予算の確保拡大への期待がその背景にあった。99年の新基本法の制定に際しても、農林予算の抜本的見直しが唱えられた。自給率(向上)の目標を基本計画で定めるようにしたことも、予算獲得を後押しする関係をつくった。今回は、食料安全保障の強化を前面に押し出している。本書でも分析しているように、防衛費と比べて農林予算は「じり貧傾向」にある(286頁)。こうした状況を打開しなければ農政の展望は開けないだろう。
 本書は「農業政策の現代史」と銘打っているが、内容は農業政策だけの話ではない。わが国の政治・経済の情勢、国際環境、農政の画期となった政策文章の検討、農業構造の動き、米生産調整、農地制度、JAを巡る状況などが各章の中でバランスよく配置されている。300ページの大著だが、読んでいて飽きない。60年代からほぼ10年刻みで全7章がかかれているが、それぞれのトピックを取り出して本書を通読するという読み方もお薦めした。