〓筑波書房 書評情報〓(日本農業新聞 2024年8月18日号 書評欄に載りました)→『持続可能な酪農をリードするニュージーランド』荒木 和秋 編著  税込価格 2,420円+税→(https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784811906768)
【書評内容】(日本酪農の生き残り方策提示)
 本書はニュージーランド(NZ)酪農・乳業の国際競争力の強化、新規参入者の育成、乳業の取り組み、環境保全対策、高品質生乳生産の取り組みなどを紹介。輸入飼料に依存し危機に直面する日本酪農が学ぶべき実践書である。生乳生産コストは日本の3分の1以下。季節繁殖を伴った放牧で牛の食欲と牧草の生育を合致致させ、90%を超える飼料自給が低コスト酪農を実現。季節繁殖は冬休みを生み出し若者に魅力的な職業となり、若者が自由に参入でき家族農業主に到達できるシェアミルキングシステムが豊富な労働力を確保している(荒木=著者、以下同)。
 1980年代の行財改革で補助金が全廃され市場に対応したビジネスとしての酪農を強化してきた(マイク・ピーターセン)。また、電気放柵の技術革新が放牧での生産性向上に貢献している(宮脇豊)。乳業会社の強化も図られ、500社近くあった乳業会社(酪農協同組合)は2000年代はじめにフォンテラ社にほぼ一つに統合され、工場の大規模化、乳製品の品質向上、持続可能な開発目標(SDGs)への取り組みが行われている。NZでは遺伝子組み換え飼料は皆無で、放牧とアニマルウェルフェアによる乳業の健康増進によって高品質牛乳が生産されている(松山将
卓・諏訪茂)。乳業統合に参加しなかったタツア社は、カゼイネート、ペプチド、特殊プロテインなど高付加価値の非乳製品を開発して成長してきた(ティム・ウィンター)。
 しかし、NZ酪農の急成長は河川の汚染を生じ、そのため2000年代に入り全国を挙げて環境問題への取り組みが行われ、多くの酪農場が「農業環境計画」に取り組んでいる(大塚健太郎・井田俊二)。NZは各国に技術支援を行い、日本でもNZ北海道酪農協力プロジェクトにより放牧技術の指導で成果が出ている(高原弘雄)。世界市場から遠く離れ、条件不利地に立地する小国が生き残るための持続可能性の取り組みが本書に詰まり、日本酪農の道標になろう。