〓筑波書房 書評情報〓(日本農業新聞 2022年12月18日号 書評欄に載りました。)『コロナ禍の食と農』内藤 重之 編著 税込価格 2,750円+税→(https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784811906362)
【書評内容】(評:藻谷ゆかり 〔経営エッセイスト〕)
 2020年春から始まった新型コロナウイルスの感染拡大は、日本経済や人々の消費行動に大きな影響を与えた。一方、コロナ禍も3年近く続くと、初期の頃の厳しい外出制限や行動制限についての記憶が薄れていくものである。本書は、まずコロナ禍で世界の食料・農産物はどのように変化したかについて、農業・食品産業技術総合研究機構の専門家の執筆協力を得ながら、統計データで詳述している。
 本書の特徴は、琉球大学農学部の教授が編著者となり、沖縄県を研究フィールドにしていることである。沖縄県の農業や観光を事例としたことに私は新鮮な驚きを覚えたが、沖縄県の主要産業が観光業であることを考えれば当然である。むしろ、研究フィールドを沖縄県に限ったことで、より焦点が定まった研究書になってる。
 そして本書では沖縄県の観光農園や直売所、農商工連携に取り組む事業者への取材インタビューが紹介されている。特に印象的だったのは、「コロナ禍でも客数減少率が小さかった農園」。この農園では、コロナ禍以前は来園者の半数近くがインバウンド(訪日外国人)だったが、コロナ禍でメディアでの宣伝に力を入れ、沖縄県内のリピーターを増やす努力をして客数を維持した。つまりこの農園は、環境の変化に常に適切な対応をしてきているのである。また、沖縄土産として人気がある紅芋使った卸メーカーは、「コロナ禍の売り上げ減少で厳しい経営を強いられたが、SDGs(持続可能な開発目標)の視点を取り入れた商品開発に力を入れた」と紹介されている。個人的にはそれらが具体的にどういう商品であったか、もう少し詳しい説明が欲しかった。
 そして最後には、ポストコロナ社会の課題として、「農業者自身のインターネット販売」と「エシカル(倫理的)消費の拡大」が重要だとしている。こうした課題を考えるヒントとして本書をお薦めしたい。