〓筑波書房 書評情報〓(日本農業新聞 2022年12月11日号 書評欄に載りました。)内藤 恵久 著 税込価格 3,300円+税→(https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784811906355)
【書評内容】
農水省で地理的表示(G1)保護制度の検討が始まったのが2004年頃だった。品質の高い地域独自の特性をもつ産品の名称を保護しようという狙いだ。一方で、特許庁は05年に地域団体商標制度をスタート。地域ブランド保護の仕組みが一足飛先に動きだした。さまざまな曲折を経て14年6月にG1を保護する法律が国会で成立した。地域団体商標制度とは別の制度として動き題した。G1構想が生まれてから日の目を見るまでに約10年。この間に農水省、特許庁、内閣法制局の3者が「保護」のあり方を巡って水面下で調整を繰り返した。本書は、政府内の省庁間調整のメカニズムを分析した。
著者は農水省内部にある研究組織の一員。政府間で調整を担当した官僚へのインタビューも含め、内部情報を得ながら、法律制定までの舞台裏を丹念に紹介している。世の中のブランドを、商標として管理してきた特許庁と、地域と品質に注目して特別な保護制度をつくろうとした農水省との対立。双方が妥協点を見いだした後にも、法律の整合性からダメ出しをした法制局。日本に強いG1保護を期待する欧州とそうはさせたくない米国。G1に興味を持つ人たちは、たまらなく興味深い本だろう。
G1制度が発足して以来、さまざまな調査で価格上昇の効果が出ていることなどが紹介されている。また、課題の一つとして「八丁味噌」登録を巡る地元の味噌業者間の対立を取り上げている。岡崎市内で伝統的製法で伝統的な製法により製造する業者は農水省が愛知県内で工業的製法を含めた製法で製造する業者の製品にG1を認めたことを不当だと主張。行政、司法の両面で争っている。
G1の基本は「地域に帰せられる特徴を有する」という点だ。八丁味噌の対立で明らかになったのは、この理念を共有することに難しさ。本書は消費者の不信を招かないためにも地域が納得できる解決策を求めている。