「アベノミクスは進化する」 (原田泰・片岡剛士・吉松崇編著、中央経済社)


 以下は掲題書からの一部抜粋。


 第10章 財政赤字は長期金利を暴騰させるのか 宮嵜浩

 財政赤字が拡大しても日本の金利は上昇しないが、あるときいきなり長期金利が急騰し、日本国債が暴落するという理論。
 ⇒ そのようなことはない。


 おわりに

 経常収支の黒字を安定的に計上している日本では、2010年以降にGIIPS諸国で発生したような、政府債務危機による長期金利の急上昇は発生しにくい。また、一部の論者が指摘する、円に対する信念の低下がキャピタルフライト(資産の海外逃避)を招くリスクについても、日本における円相場と株式相場の逆相関関係や、潤沢な経常黒字の存在を前提とすれば、現実味に乏しいリスク・シナリオといえる。そもそも経常黒字国では、財政収支が長期金利に及ぼす影響度合いは小さい。

 仮に、日本が経常赤字国に転じた場合でも、サブプライム危機以降のアメリカやイギリスのように、大規模な量的緩和を実施することによって、中央銀行は長期金利のリスクプレミアムを引き下げることができる。

 さらに、日本がデフレから脱却し、量的金融緩和に伴う日銀の国債購入が減少した場合でも、金融緩和の強化による財政リスクプレミアムの低下や、ツイスト・オペを通じた長短金利差の縮小によって、長短金利の急上昇は避けられる。

 ただし、日本が経常赤字国に転じ、インフレ率が2%を上回る状況において、財政リスクプレミアムが上昇した場合には、日銀による長期国債の買入れが正当化されず、長短金利が急騰する可能性がある。そのような事態を避けるためにも、日本が経常黒字国であるうちにデフレ脱却を実現し、長短金利の財政リスクプレミアムを縮小させるとともに、デフレ脱却後もインフレ目標に強くコミットした金融政策運営を維持する必要がある。


<感想>

 2017/3/17に日銀が公表した「2016年第4四半期の資金循環(速報)」※(P10)によれば、海外投資家の日本国債の保有比率は伸び続け、113兆円(構成比10.5%)を占めるまでになっている(キャピタルフライトの逆)。※http://www.boj.or.jp/statistics/sj/sjexp.pdf

 安定的な経常黒字を計上している今こそ、金融緩和の継続による、早期のデフレからの脱却に的を絞った政策が望まれる。


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元証券マンが「あれっ」と思ったこと
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