【 中山製鋼所:第三者割当増資の意味 】
あれっと思ったこと
PBR0.3倍で24%希薄化してでも、1,000億円投資の「仲間」を株主にする?
(その2)
6.阪和興業20.48%にも「境界線」がある
もう一つ興味深い数字がある。
第三者割当後、阪和興業の議決権比率は、
14.89%→20.48%
となる。
ヨドコウも10.95%を保有する主要株主になる。
これによって中山製鋼所は阪和興業の持分法適用関連会社となる見込みである。
つまり阪和興業を単なる取引先ではなく、
「中山製鋼所の業績が自社決算にも影響する株主」
にするわけである。
ところが資本業務提携契約では、阪和興業は中山製鋼所の同意なく21%を超えて株式を取得してはならないとされている。さらに原則7年間の譲渡制限、株主提案、委任状勧誘、役員派遣要求などの経営介入を制限する条項まで設けられている。
20%は超えてもらう。
しかし、自由に21%を超えてはならない。
ここにも絶妙な境界線がある。
「経済的には強く結びつく。しかし経営支配まではさせない」
という設計なのだろう。
7.株主にすることで「同じ船」に乗せる
私は今回、ここが最も興味深い。
約1,000億円の設備投資では、建設できるかどうかだけではなく、
完成後に十分な数量を生産し、それを適正な価格で売り、投資資金を回収できるか
が重要になる。
阪和興業やヨドコウが単なる取引先であれば、環境が変われば仕入先や販売先を変更することもできる。
しかし株主になれば話は変わる。
まして阪和興業は20%超を持つ持分法適用会社になる。
中山製鋼所の新電気炉が成功すれば阪和興業にもメリットがあり、失敗すれば阪和興業にも痛みが生じる。
ヨドコウについても同じ方向性である。
つまり今回の資本政策は、
「契約で協力してください」から、「同じ船に乗ってください」への変更
とも見える。
87億円の資本調達以上に、こちらの効果を狙っているのではないだろうか。
8.PBR0.3倍だから「増資してはいけない」のか
もちろん、PBR0.3倍で24%もの希薄化を行うことには強い違和感がある。
しかも足元の業績も楽ではない。
中山製鋼所の営業利益は、2024年3月期123億円、2025年3月期84億円、2026年3月期49億円と減少している。2027年3月期についても、会社は営業利益30億円を予想している。
こうした状況だからこそ、市場からPBR0.3倍という低い評価を受けている面もある。
ならば本来は、
「もっと株価を上げてからエクイティを調達すべきだ」
という議論も成り立つ。
一方で、新電気炉建設は待ってくれない。
そして約1,000億円の投資を単独で背負うことの方が、株主にとって大きなリスクかもしれない。
そう考えると経営陣は、
「安い株価で株式を渡す痛み」
と、
「巨大投資を単独で背負うリスク」
を比較し、前者を選択したとも考えられる。
9.株価の低さより「投資失敗のリスク」を重く見た?
今回の第三者割当を、
「PBR0.3倍なのに増資した」
という一面だけから見ると、既存株主に厳しい資本政策に映る。
しかし、
* 日本製鉄に設備投資を一部負担してもらう
* 阪和興業に原料調達と販売を担ってもらう
* ヨドコウに需要家・製品開発パートナーになってもらう
* その阪和興業・ヨドコウ自身にも株主になってもらう
という全体像を見ると、違った景色が見えてくる。
中山製鋼所は、
「87億円の資本を調達した」のではなく、「約1,000億円の投資リスクを複数企業で共有する仕組みを作った」
のかもしれない。
その対価が、PBR0.3倍での24.12%の議決権希薄化だった。
高い対価である。
しかし、新電気炉が将来十分なキャッシュフローを生み出せれば、その判断は正しかったことになる。
逆に、新電気炉の収益性が計画を下回れば、
「あの時、なぜPBR0.3倍で大量の株式を渡したのか」
という問いが改めて浮上するだろう。
結局、今回の第三者割当の評価は、調達した87億円ではなく、1,000億円投資が生み出す将来のリターンによって決まるのだと思う。
あれっと思ったこと
PBR0.3倍で24%希薄化してでも、1,000億円投資の「仲間」を株主にする?
割安な株価で大量の株式を発行・処分することは、既存株主にとって決して小さな負担ではない。
しかし、巨大な設備投資では「資金を調達できること」以上に、「原料を確保できること」「作った製品を買ってもらえること」「投資リスクを一緒に負ってくれること」が重要なのかもしれない。
PBR0.3倍だからエクイティ・ファイナンスをしてはいけないのではなく、PBR0.3倍でも株式を渡すほどの価値を、その相手が提供してくれるのか。
今回の中山製鋼所の資本政策で問われるのは、そこではないだろうか。
そして監査・ガバナンスの目線から見れば、もう一つ確認したくなる。
今後、中山製鋼所の取締役会は、
「阪和興業とヨドコウを株主にしたことで、新電気炉投資の成功確率がどれだけ高まったのか」
を、売上数量、販売価格、投資回収期間、ROICなどの数字で継続的に株主へ説明していく必要があるのではないか。
第三者割当の合理性は、実施した時点で確定するものではない。
24%の希薄化に見合う企業価値を本当に創出できたのか――その答え合わせは、これから始まるのである。
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元証券マンが「あれっ」と思ったこと
発行者HP http://tsuru1.blog.fc2.com/
同note https://note.com/tsuruichipooh
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