同一労働同一賃金(その2)


  内閣府から、2016/12/16に「同一労働同一賃金の実現に向けた検討会 中間報告」(http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11601000-Shokugyouanteikyoku-Soumuka/0000146064.pdf)が、また、同12/20に「同一労働同一賃金ガイドライン案」(http://www.kantei.go.jp/jp/singi/hatarakikata/dai5/siryou3.pdf)が公表された。


  政府が目指す「同一労働同一賃金」が実現しないのは、なぜか。

  八代尚宏先生のレポート(http://diamond.jp/articles/-/85778/http://diamond.jp/articles/-/112527?display=b)を踏まえて、考えてみる。


1.定年退職制の弊害

(1) 日本

  特定の企業内の限られた構成員の年齢と結びついた曖昧な能力を尊重

  ⇒  年功賃金の傾きが大きな従業員1000人以上の大企業の93%60歳定年制を堅持(就労条件総合調査2014年)=年齢という客観的な基準で後進に道を譲ることは、公平な仕組みと見なされている

  (一方、中小企業では、仕事能力に見合った賃金であれば、企業の方から熟練労働者である高年齢者に辞めてもらうインセンティブは小さいため、定年制は65歳か、それ自体存在しない場合も少なくない)


(2) 欧米

  仕事能力を規準として同一労働・同一賃金の原則下の米国欧州主要国では定年退職制は原則禁止

  ⇒  個人の仕事能力にかかわらず年齢のみを根拠とする解雇は、人種や性別と同様に「年齢による差別」となるから


2.雇用の流動化が進んでいないこと

  過去の高成長期に成功した、大量の新卒採用者を企業内で時間をかけて訓練する雇用慣行を維持するのではなく、正社員と非正社員に共通した職務給を普及させて、雇用の流動化を図ることが必要


3.正社員の年功賃金カーブの存在

  企業への貢献度を上回る年功賃金が大きな負担になるため、定年制による一律解雇せざるを得ない

  ⇒  過去の高い成長期大企業を中心に普及した年功賃金は、今日の低成長期には社員間の生産性に見合わない賃金格差の主因となる



<高年齢者等の雇用の安定等に関する法律 : 第8~9条>(出所:http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S46/S46HO068.html

『  (定年を定める場合の年齢)
第8条  事業主がその雇用する労働者の定年(以下単に「定年」という。)の定めをする場合には、当該定年は、六十歳を下回ることができない。(以下、略)

(高年齢者雇用確保措置)
第9条  定年(六十五歳未満のものに限る。以下この条において同じ。)の定めをしている事業主は、その雇用する高年齢者の六十五歳までの安定した雇用を確保するため、次の各号に掲げる措置(以下「高年齢者雇用確保措置」という。)のいずれかを講じなければならない。

一    当該定年の引上げ

二    継続雇用制度(現に雇用している高年齢者が希望するときは、当該高年齢者をその定年後も引き続いて雇用する制度をいう。以下同じ。)の導入

三    当該定年の定めの廃止 』(太字は筆者)


  そもそも、米国や欧州主要国では原則禁止されている「定年退職制」について、第8条で60歳定年制を所与とする考え方事態に問題があろう。また、正社員と非正社員間における同じ職種での賃金差の根拠を明確に示さない場合の罰則を謳うことも必要であるように思われる。

  日本でも個人の仕事の概念を明確化にして、職務給を普及させて、あいまいな人事評価を本格的に改めて、(1)定年退職制を原則禁止とし、(2)雇用の流動化を促進し、(3)正社員の年功賃金カーブを見直す、時期に来ているのではないか。


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