ヤツはニヤッとした。
「フッ 当たるかよそんなもん」 心の声が一瞬の表情で見て取れた。
俺のパンチをスウェーでかわした直後のヤツの表情だ。
すぐさま右フックが飛んできた。
ガツンッ、ブンッと首が右に持っていかれる。拳で殴られるってこんな感じか。一瞬で悟った。
でも俺は倒れなかった。
あれは中学2年。初めて殴り合いの喧嘩をした日。
教室は二人の男の怒号で殺気づいていた。
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俺はヤツを嫌っていた。
ヤツは我が強く自分さえよければいいみたいな印象があったから。
弱い者へのあたりも強かった。
ヤツはそんな性格だから周りから浮いていた。大なり小なり嫌がらせは受けていたかもしれない。
だが、ヤツはいやがらせに屈する男ではない。
拳で制裁に行くタイプだった。
ヤツも俺を嫌っていたことは知っていた。
事は小さな言い合いから始まった。
授業後の掃除の時間、俺はヤツに言った。
「オメーもやれや」
「うるせーな オメー ムカつくんじゃ」
ヤツはせまってきた。
いきなり右フックが飛んできた。
ガッツンッ 首が持っていかれた。
「マジかッッ！」
俺は瞬間的に右フックを返した。
人生初の右フックだ。
ヤツはスウェーでかわして笑みを浮かべた。「あたるかよ、そんなもん」、表情がそう言っている。
そして２発目の右フックをガツンともらった。
喧嘩慣れしている。すぐにわかった。
いきなり打ってもまたやられる。
「クソッ ぜっていっっ 当ててやる！」
俺は当てなきゃ気がすまなくなっていた。
ヤツは追い打ちの右フックを打ってきた。
咄嗟に俺はダッキングのように少ししゃがんで右ボディを打った。そして連続で顔目がけて右フックを打ちこんだ。
ヤツの顔が左に飛んだ。
当たった！ 初めて当たったのだ。
右手に感触があった。
しかしヤツは倒れなかった。そうこうしてる間にもみあいになった。
止めに入る同級生たち。先生を呼びに行く同級生。
先生がやってきた。もみあいになっていた時が一瞬止まった。
「止めるな！ やらせろ！ めいいっぱいやれ！ お互い吐き出させろ！」体育の先生はそう言った。
闘いは続いた。
つかみ合いからヘッドロック、そのまま無理やり投げへ。グランドになってからのポジションの取り合い。
どれくらいの時間が経っただろうか覚えていないがグランドで掴んだり蹴ったりもみ合いが続いた。
ヤツはもみ合いの中、俺の金的を握ってきた。
これはやばいと思った。動こうにも力が入らないのだ。
その後も膠着状態が続き、同級生が引き離しに入った。
「なんだ、やめるんか、もっとやればいいぞ」
先生は言ったが闘いは終わった。
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その後、ヤツとは中学３年でも同じクラスになった。
少し話すことはあったが数回だった。話すときのヤツの笑顔を見た時、わるい奴ではないんだろうなと思った。
その後のヤツの進路は知らないし、どのような人生を歩んでいるのかも知らない。
自分という芯を強く持っていた彼（ヤツ）だから、きっと自分らしく生きているのは間違いないだろう。
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只今、足の療養中。
普段は考えないことも浮かんでくる。
ふと昔の喧嘩を思い出した。
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今、思うと彼（ヤツ）のすごかったところは、グランドでもみ合いになっているときに金的を握ってきたことだ。確かに力が入らなくなった。
喧嘩慣れしている彼は本能的なのか喧嘩で得たのかわからないが金的攻撃が有効なことを知っていたのだ。
護身術はやはり金的が重要だ。
たとえグランドでも金的が狙えたら有効だろう。
まあポジションにもよるのだが。
金的の重要性をあらためて過去の経験から実感した。
万が一の時の離脱、あるいは時間稼ぎに金的攻撃が必須なんだろうな。そう感じる。
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剣護身術を練習しているチャンネル
全くの素人が1年間、剣護身術をやってみた。ここまで動けるようになった！ 武道経験なし、運動習慣なしのSさん。2023.5.11
石川県で初心者や女性、武道家も学びやすい実用的な護身術講座を開催。
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