「……わかってない癖に」
水槽の中。
眉を下げて笑った彼女に、私は何も言い返せなかった。言いたいことは、たくさんあった。でも、言えなかった。わかってるとも、それに、わかってないとも、言いたくなかった。
黙り込む私を見て、彼女はふらっと何処へ行こうとする。私は思わず腕を掴んで、でも、やっぱり、何も言えなかった。
泣きそうになった。
今泣いても彼女を余計に困らせてしまうのに、どうしようもなく泣いてしまいそうだった。この手を離したら、彼女はまた、私の目の前から消えてしまう。そうしたら、私は彼女の事を忘れてしまう、きっと。
人は、声から忘れていく。声の次に顔、顔の次に思い出。私もそうやって彼女の事を忘れてしまうんだ。
可哀想なお姫様。
私だけはあなたの味方だよって、伝えたいのに。
あなたのその美しい声を、私は忘れたくないのに。
……それを、わかってない癖に。